小泉政治が市場原理主義・効率化で後押しして到達点とした経済格差状況を拠って立たしめた手本と疑わしめる週刊誌『AERA』の1993年11月6日号の内容を抜粋の形でメモッた記事に出会った。「富の偏在に反乱が起きた」とは、アメリカ国民が大統領選挙で父親ブッシュに4年の任期のみでノーを突きつけ、民主党のクリントンに次期大統領職を託したことを言う。
『共和党政権12年のツケ 富の偏在に反乱が起きた』
○エコノミック・ジヤスティス(経済的公正)に反し、レー
ガン以来12 年の共和党政権下で、富める者はますます富
み、貧しい者はより貧しくなっていった。
○米国が富裕層と貧困層に二極分化していったことを裏付け
る指標
1.1989年、上位1%の富裕層は国民全体の私有財産の37%
を独占、
1963年の時よりも6ポイントも増やした。
2.1991年の貧困者(年収約83万円以下、4人家族では
約167万円以下)の数は、米国国勢調査局の発表では
3570万人で、1964年以来の最高となった。
米国民のうち、14・2% が貧困層に入ることにな
る。
(註:1993年当時、年平均の為替レート1ドル=111円
で、当時から購買力平価が1ドル=200円弱程度で
推移していたと思うから、200÷111=1・8倍
。1・5倍と低く見積もっても、83万×1・5=1
24.5万以下、4人家族では約167 万×1・5=
250.5万円以下となって、金額的には日本と比較
して極端に低いと言うわけではないと思う)
○≪無名の経済学者アーサー・ラッファーの説≫
「税率と税収の関係は税率をある一定点まで上げると、比
例して税収も増えるが、その一定点以上を超えると、税
金の取られ過ぎで勤労意欲がなくなり、税収も経済成長
率も落ちてしまう」という説。
ラッファーによると、現在は税率が一定点を超えて、税
収が落ちているから、税率は下げなければならない。し
かし現状が一定点をある距離まで越えているという根拠
は何一つ示されなかった霊感じみたものだった。だが、
80年に大統領選挙に当選したレーガンは、この「霊感
」に飛びついた。
○≪レーガンのシナリオ≫
累進課税を緩める形で高所得層を中心に減税すれば、所得
が増えた分だけ貯蓄に 回るようになる。そして、この貯
蓄で投資需要を賄えば、米国企業の生産性・競争力は上昇
していく。これに加えて、ラッファーの言うように、次第
に税収が増えていけば、言うべきことは何もない
81 年に所得税減税をしたレーガンは、さらに86 年の税
制改革では、それまでの最高税率70% を実に28% にまで引
き下げた。これはすべて裏目に出て減税分は貯蓄に回らず
、消費に使われ、税収は増えなかった。現状は一定点の手
前であったのだ。
残されたものは高所得層が極端に有利になった所得税率
と、膨大な財政赤字だった。
○≪ポール・クルーグマン〈マサチューセッツ工科大学教授
・クリントンの大統領経済諮問委員会の有力候補 )≫に
よると、「財政赤字は、家計、企業、そして政府の三部
門の貯蓄を食いつぶしている。このため企業は投資資金を
貯蓄から賄うことが難しくなり、外国資本に資産を売却す
る形で資金を捻出するようになった。不動産や会社自体を
日本や欧州企業に売り渡すことである。この外国資本から
の資金は外国からの輸入に使われ、貿易赤字につながって
いく。クルーグマンは『期待喪失の時代』と名づけた」
○レーガン・父親ブッシュの共和党政権時代には産業界の規
制緩和が大幅に進められ、業界再編が激化した。企業乗っ
取りが横行し、企業の合併、買収がもてはやされた。これ
から乗っ取る予定の企業資産を担保に融資を受けるといっ
た乗っ取り手法(LBO)まで開発された。
○地道に良質の製品を作り、着実に利益を重ねていくという
製造業が好景気に押しやられ、カネだけを回していく金融
業・証券業、そして手数料稼ぎの弁護士、公認会計士が全
面に出てきた。ウォールストリート全盛期だった。
○≪トリクル・ダウン≫方式(trickle down=〈水滴が〉し
たたる, ぽたぽた落ちる)
優遇した高所得層から中・低所得層に少しずつ「おこぼ
れ」が滴り落ちていくという利益配分構造。共和党の伝
統的な経済政策。
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以下は私自身のメモッたときの、たいしたこともない考察。
いずれの社会に於ける政治の恩恵も、経済の恩恵も、トリクル・ダウン方式と なっている。社会の上位を占める者がより多くの恩恵を受けることで、その恩恵 の多さに比例した利益を手に入れる。下に行く程、手にする利益は段階的に減少 していく。だからこそ、人間は大学を目指し、よりよい企業に自らの一生を預けようと血眼になる。つまり、自分をより多くの恩恵と利益を受けることができる社会の上位に置くべく努力する。
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以下は現在の相変わらずたいしたこともない考察。
現在の日本の小泉時代がかつてのアメリカのレーガン・父親ブッシュの時代を忠実に再現しているかのような印象を与える記事内容となっている。その時代の忠実な再現とは、エコノミック・インジヤスティス (経済的不公正)の再現を意味し、クルーグマンが名づけた『期待喪失の時代』の再現を意味することは言うまでもない。
中国の小平は改革開放の過程で毛沢東時代の平等主義を排除して、豊かになれる者から豊かになり、豊かな者を増やしていって最終的には国全体を富ませる『先富論』を政策として打ち出した。その結果、豊かとなった沿海部と貧しいままの内陸部、豊かさを手に入れた都市住民と豊かさに縁のない農民との経済格差が社会の矛盾となって吹き出した。『先富論』と聞こえよく響く名前の経済政策ではあったが、トリクルダウン方式であることに変りはなく、富の配分の難しさを物語っていて、現在、その手直しに躍起となっている。
片や日本の小泉首相は同盟国アメリカの共和党現大統領ブッシュに敬意を表するあまり共和党政治の伝統的な経済政策を真似したのか、政治の面では中国と緊張関係にあるが、経済的関係は別だと、小平の『先富論』まで参考としたのか、三者一様、奇妙な一致だが、年金改革や医療・介護改革でまず低所得者に打撃となる政策を断行して所得格差を生じせしめ、これまでの中央重視による地方軽視に引く続く三位一体改革の不徹底で都市と地方の経済格差を、金融改革による大企業保護で大企業と中小企業との経済格差を生じせしめ、まさしく週刊誌が指摘する「エコノミック・ジヤスティス (経済的公正) に反する状況」をつくり出した。
利権政治や予算の浪費・私腹を通して相当額の私利を得る政治家・官僚たちの錬金構造に対する政治の放任が一方は富み、一方は貧しくなっていく社会の構図をよりよく反映・象徴している。
経済格差は避けられない社会的構図だとしても、それが行過ぎないように監視し、行過ぎた場合は是正するのが政治の役目である。
現在の日本の経済格差を小泉政治の失敗と見るか、小泉政治の限界と見るか。失敗であろうが、限界であろうが、それを軌道修正するには同じ穴のムジナに位置する小泉政治の後継者であったなら、格差は引き続いて拡大方向に向かうことになるだろうから、小泉政治を、特にその経済政策を批判する立場にいた者に委ねて、揺り戻しを図らなければならないのは理の当然としてある順序ではないだろうか。
アメリカや欧州諸国では、一方の政党の政策的失敗・政策的限界への修正をもう一方の政党に託すことで、失敗・限界の責任を直接・間接に取らせると同時にお互いの政治を競わせてきた。政治そのものを市場原理に曝すことで、政治家たちは緊張感を持って政治に当らなければならない。
日本国民の6割近くが小泉内閣の構造改革によって「社会の格差が広がった」と思うと感じているということだが、経済格差の是正(『トリクルダウン』の適宜な調整による「エコノミック・ジヤスティス (経済的公正)」の回復)にそういった政治の市場原理化の力学が必要と判断できるかどうかであろう。それとも責任を取らない・責任を取らせない国民のままであり続けるのか。