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小泉アフリカ訪問と靖国参拝の関係

2006-05-06 05:48:08 | Weblog

 小泉首相がエチオピア、ガーナ、スウェーデンの3カ国を4月29日(06年)に出発、訪問して5月5日に帰国した。「安保理入りの支持を取付けた」とのことで、一定の成果を上げた模様とテレビは伝えていた。

 事実なのか、国内向けの成果といったこともある。理由は二つ。何も成果がありませんでしたと帰国するわけにいかないが一つ、もう一つは昨年の安保入り断念の経緯から考えると、「支持」がリップサービスであり得る可能性が否定できないからだ。

 小泉首相のエチオピア、ガーナのアフリカ2カ国訪問は「成果」をそこに持っていったことが示しているとおりに安保理入り支持取付けが主たる目的なのは言うまでもない。そのために途上国援助(ODA)の増額や野口英世賞の創設とかの提案で、体よく「支持」を釣ろうとした。釣ることができて、料理して確実に口に入れるところへまで持っていけたと言えるかどうかである。
誰もが周知しているように昨年国連常任理事国入りを目指した日本は、ドイツ、インド、ブラジルの4カ国で共同提案を目指した「枠組み決議案」(G4案)の採択に向けて国連加盟国の3分の2(128カ国)以上の賛成を得るべく、アフリカ連合(AU、53カ国)が提出を目指したAU案との一本化を図りながら、一本化交渉に失敗している。今回の小泉訪問は再度の失敗を前以て防ぐための布石なのは言うまでもない。

 但しアフリカにも多大な経済援助をしていた日本だが、アフリカ連合(AU)に一本化を拒否された原因が、中国が「AU各国に『中国と敵対する国』の常任理事国入りへの反対を求めてい」て(『アフリカ戦略、中国に後手・ODA「倍増」打ち出したけど』(06.5.2.朝日新聞朝刊)、その外交攻勢が成功したからだとの見方を伝えている。

 5月3日(06年)朝日朝刊の「小泉時代 『強い男』)演じた外交」は、日本の常任理事入りに対して「中国は各国大使館に現地政府関係者を招き、日本が戦争行為で残虐な行為をしたことを告発する映画を上映して日本への不支持を呼びかけたとの報告が外務省に入った」と中国の具体的な反日キャンペーンも伝えている。

 これらの経緯はアフリカ各国に対してそれまでの日本の経済援助の累積と友好関係の歴史の長さが中国のそれらと差引きして上回るはずだが、中国の外交術の前にその差引きをもってしても太刀打ちできなかったことを証明している。対アフリカ援助では鈴木宗雄クンもよくガンバッた。

 ということは今回の経済援助提案にしても必ず実を結ぶ保証はどこにもないことを示している。「安保理入りの支持を取付けた」を不確かとする理由がここにある。
 
 小泉首相のアフリカ訪問と入れ替わりに中国の胡錦涛主席もナイジェリア・モロッコ・ケニアを訪問し、帰国していると同じ記事が伝えている。時間的に一歩先んじた形だが、だからと言ってそういった時間的要素が外交的先行をも意味するわけではないのは言うまでもない。

 尤も日本の安保理常任入りに関わる昨年の対アフリカ連合(AU)対策に関しては日本外交は中国外交に一歩どころか、二歩も三歩も先んじられたのは事実で、それが中国が求めた「『中国と敵対する国』の常任理事国入りへの反対」をアフリカ連合(AU)が受入れた結果だとなると、その有効賞味期間が問題となる。「中国と敵対」のそもそもの原因が小泉首相(=日本の総理大臣)の靖国参拝なのは言うまでもない。小泉首相が今年9月の任期切れ前の8月に靖国参拝を強行すれば有効賞味期間は逆に延長するし、ポスト小泉が靖国参拝の継続をも謳って総理大臣の立場で参拝したなら、延長はさらに続く。

 但し中国が「『中国と敵対する国』の常任理事国入りへの反対を求めた」としても、アフリカ連合(AU)の態度一つで有効賞味期間の呪縛を簡単に打ち破ることはできるが、そういう態度を取るに至らせるほどに外交的に創造的な手を今回の訪問で打てたのだろうか。

 「野口英世賞」の創設が成果を見るのは先の長い話で、その他が経済援助額の増額だけでは中国も対抗可能で、増額合戦の展開へと進んだなら、アフリカ連合(AU)としたら望むところだろうし、うまい話を両方とも失いたくないから、アフリカ連合(AU)の53カ国のうち日本案が採択されない範囲で何カ国かが賛成に回るといった手を打つ可能性がないとも言い切れない。

 この問題はアフリカに限ったことではなく、「国連分担金の多さは米国に次ぐ2位(05年で全体の19.5%)、その他災害支援、イラク・アフガン支援をはじめ実質的な国際貢献は高い。しかしそれは日本の常任理事国入り支持にならない。しかもG4案の共同提案国29カ国中、日本のODA最大の供与地域であるアジアからは、なんとブータン、アフガン、モルジブの3カ国のみでASEAN諸国、南アジア諸国からもことごとくそっぽを向かれてしまった。これは明らかに深刻な外交的失敗である。」(「重大局面に立つ日本外交」天児 慧早稲田大学教授)という状況も小泉首相の靖国参拝が影響したアジア版であろう。

 その辺の事情は05年11月3日の朝日新聞朝刊の『近隣外交を問う』の記事中の「ジャカルタ・ポスト編集局長エンディ・バユニ氏」の言葉がものの見事に物語っている。

 「実際、日中韓の緊張が続く中で、中国は日本の安保理常任入りに反対するよう、インドネシア政府に様々な働きかけをしてきた。
再び2人の友人のどちらかを選ぶような状況に追いやられたくないのが、インドネシアの本音だ。だが、仮に同じような状況が来れば、国益を最優先に考える。その結果は東京を喜ばすことはできない。中国を選ばざるを得ないからだ」

何とも暗示的な発言である。日本が最大の援助国であるカンボジアのフン・セン首相にしても、日本の常任理事国入りについて支持を表明しながら、共同提案国になることには「いろいろな働き掛けがあり、状況を見つつ判断したい」と態度表明を避けて、結果的に共同提案国とはならなかった。「いろいろな働き掛け」とは言うまでもなく中国を指すことは間違いない。

 アジアに於いても「日本のODA最大の供与地域」という経済援助カードが中国の影響力の前に切り札とはならなかった。今回の小泉アフリカ訪問でのODA増額提案にしても、切り札となる保証はどこにもない。

 胡錦涛主席は訪問先の「ナイジェリアでは鉄道や石油精製施設など40億ドルにのぼる公共投資を手みやげに油田開発の優先権を獲得。モロッコとケニアでは両国を地域の『製造業の拠点国』とする方針を示し、中国企業の工場進出を約束」(同『アフリカ戦略、中国に後手・ODA「倍増」打ち出したけど』/06.5.2.朝日新聞朝刊)する見事な手土産外交の展開となっている。

 「活発な中国外交は、ダルフール内戦の渦中にあるスーダンや、米国が『圧制の拠点』と呼ぶジンバブエなどへの軍事援助といった『権力への援助』にも及んでいる。日本が地下水開発など『お金をかけなくても喜ばれる支援』(首相)を重視するのと対照的だ。
 経済低迷が続くアフリカ諸国は中国を成長の先導役と見る。ナイロビ大学のオルー講師(政治学)は『体制に注文をつけず、政権トップに力を貸す中国は影響力を強める一方だろう』と語る」(同記事)。

 中国は自らの一党独裁体制をも利用し、相手国の政治体制が独裁的だろうが問題とせず、自国の影響力を拡大させている。尤も相手国の政治体制を問題としないのは日本にしても民主主義国家でありながら、かつてのインドネシア・スハル独裁体制への最大援助国であった前科を抱え、現在も権国家ミャンマーの最大の援助国の地位を確保し、イスラム原理主義独裁国家のイランの石油開発にアメリカの反対にも関わらず食指を伸ばしているから、このことでは中国を非難できない。

 03年10月に初の有人宇宙船神舟の打ち上げに成功して大国の姿を露にした中国に対して「オーストラリアが援助規模を減らし、ベルギーは対中援助停止の方針を伝え」、「英国は無償援助から世銀の融資の利子補給へ振り替え」る(「大国化の陰 弱者の顔 対中ODA『卒業論』の行方・下』/04.12.23朝刊)大国扱いに転じたが、「105の国と機関に援助してい(03年)」て、「国内総生産(ODA)はカナダやイタリアを超え」、「貿易額は初めて1兆ドルを超え、日本を抜いて米独に次ぐ3位とな」(同記事)った上に、「02年から4年連続の9%超という高い成長率」を遂げて05年度のGDP(国内総生産)がフランスを抜いて世界第5位につける地位を獲得したものの、10億人を超える人口のために「1人あたりの平均収入は1千ドルを超えたばかり。国連の基準では『中低収入国』に属し、3千万人近い貧困人口を抱える。市場経済化の波に取り残された内陸部の進行が課題として残る」状況に中国筋は「『ODA卒業には、まだ遠い』と訴え」て(同「大国化の陰 弱者の顔 対中ODA『卒業論』の行方・下』/04.12.23朝刊)ODA継続を望んでいるというから、何ともしたたかな中国政治・中国外交である。外に流す余裕がありながら、内に流れてくるカネは流れてくるなりに最大限に利用し、外に流すべきは最大限に外にも流して、国益追求へ猛進する。その貪欲さは見事でさえある。

 そのような中国に対して、小泉首相が任期中の靖国参拝を強行した場合、あるいは任期中は見送り、ポスト小泉も参拝を控えたとしても、小泉首相が首相の座から離れて自由の身になったと単なる一議員、あるいは一私人として来年以降の8月15日も正々堂々と参拝したなら、中国の感情を逆撫ですることは間違いなく、それを帳消してアジア・アフリカに対して中国の影響力を上回る日本の影響力を行使可能な政治・外交を展開できる成算を日本が見い出すことの方をこそ、靖国参拝よりも先決問題とすべきではないだろうか。
 
 いや、靖国参拝が中国や韓国に限られた外交問題ではなくなっている以上、昨年の8月に安保理拡大決議案採決を断念せざるを得なかった時点で外交的に何らかの成算ある対抗策を裏打ちしてから10月の秋季例大祭に合わせた靖国神社参拝を行うべきではなかっただろうか。
小泉首相にそんなセンスを求めること自体、土台無理な話か。

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