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浅草にそびえる塔といえば今は浅草寺の五重塔だが、以前もっと違った塔が建っていた。凌雲閣。別名「十二階」。
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その場所がどこかと聞いてみると、現在パチンコ店となっている場所にあったことを教えてくれた。
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控えめな案内板が立っていた。
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正式名称は「凌雲閣」。1890年11月、地上12階、52mという当時日本一の高さを誇る高層ビルとして建設された。イギリス人ウイリアム・バートンの設計で、8階まで国内初のエレベーターが設置されたことも評判を呼んだ。
だが、このエレベーターはすぐに故障してしまい、1年で稼働停止に追い込まれている。
12階まで歩いて上るのは大変で客足が遠のく。そこで主催者が頭を絞った末にひねり出したあるイベントがあった。それはわが国初のミスコンテスト。
東京の花街から選んだ美人芸妓100人の写真を階段の壁に張り出した。「上に行くほど美人のレベルが上がる」との触れ込みで、これを聞いた男性客が押し寄せたという。
ことほど左様に浅草は新しいものを吸収し、生み出した街でもあった。
そんなイベントではなくとも現代のスカイツリー並みの評判だったことから、ここには有名人も多数訪れている。
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正岡子規は「雲の峰 凌雲閣に 並びけり」と句を詠み、
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石川啄木は「浅草の 凌雲閣に 駆けのぼり 息が切れしに 飛び下りかねき」と詠った。
また、田山花袋は「浅草十二階の眺望」に、「十二階から見た山の眺めは 日本にもたんとない眺望の一つである。左は伊豆の火山群から富士、丹沢、多摩、甲信、上毛、日光をぐるりと細やかに指点することが出来る」と感想を綴った。
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そんな「十二階」も1923年の関東大震災によって8階から折れ下がってしまい爆破処理されたという。
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その場所の近くに芸能系の6人の神様がそろい踏みをしていた。左から唄、奏、話、戯、演、踊の各神様の像だ。
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だいぶ歩いた。ちょうど見つけた喫茶店「アンヂェラス」でダッチコーヒーを一杯。
ここは1946年創業、川端康成、永井荷風、池波正太郎らも通ったという老舗。我が国で初めてダッチコーヒーを紹介した店としても知られる。
水で時間をかけて抽出する水出しコーヒーで、まろやかな苦味を堪能した。
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夕食の店を探しながら、また浅草寺を通った。ちょうど夕焼け。五重塔の奥に沈んでゆく夕陽が、燃えるように空を赤く染め、
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五重塔の屋根のシルエットを芸術的に浮き上がらせていた。
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ライトアップの模様も見ようと、本殿の角に立って沈みゆく空を眺める。
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最初は黒い姿の中にパチパチと花火がはじけるように所々が明るくなって行く。
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十分に暮れた濃い青の空をバックに塔は自らが光を発しているかのように、天空に胸を張る。
見事な光景に出会った。
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輝く本殿も夜空の青に映える。
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ライトアップされた宝蔵門と、東にそそり立つ現代の塔・スカイツリーとの組み合わせは、典型的な新旧のマッチングとなっていた。