新イタリアの誘惑

ヨーロッパ・イタリアを中心とした芸術、風景。時々日本。

心ふるえる風景 パリ編⑨ 雨に煙る大聖堂の前で 高村光太郎の詩が蘇った

2024-07-30 | 心ふるえる風景 パリ編

 2018年12月 雨に見舞われたパリの夕暮れ

 ノートルダム大聖堂を訪れた時 空を雲が覆って雨が降り出した

 大聖堂へはこれまで何度も足を運んだが 雨に見舞われたのは初めて

 周囲も暗くなって 建物がかすむようになり

 ホテルに引き返そうとしたちょうどそのとき 照明が点灯した

 

 ああこれなら大丈夫 正面にある聖アンナの門審判の門聖マリアの門

 3つの門の像を 改めて観察することが可能になった

 ところが今度は 急に雨足が激しくなった

 叩きつける雨音を聴きながら ふと昔読んだ文章が浮かんだ

 

 

 吹き募る雨風

 外套の襟を立てて 横しぶきのこの雨に濡れながら

 あなたを見上げているのは わたくしです

 

 ノオトルダム ド パリの カテドラル

 あなたを見上げたいばかりに 濡れて来ました

 あなたに さはりたいばかりに

 あなたの石に肌に 人知れず接吻したいばかりに

 

 あなたは ただ黙って立つ

 吹きあてる嵐の力を じっと受けて立つ

 あなたは天然の力の強さを 知っている

 しかも大地の揺るがぬ限り 雨風の跳梁に

 身を任せる心の 落着きを持っている

 

 

 彫刻家として修業を始めてパリを訪れた 若き日の高村光太郎の詩だ

 星雲の志を抱き 冷たい雨に打たれながらも

 高さ69mの鐘楼96mの尖塔を見上げる 光太郎の熱く高ぶる心

 その100分の1いや1000分の1を 感じることが出来たのかもと

 篠突く雨の中で 胸のざわめきを感じた時だった

 

 

 

 

 

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心ふるえる風景 パリ編⑧ ノートルダム大聖堂火災から5年 ようやく今年末に修復が完了する

2024-07-26 | 心ふるえる風景 パリ編

 14世紀に完成した フランス中世建築の究極ともいうべきノートルダム大聖堂は

 パリ発祥の地とされるシテ島に 燦然と輝いていた

 それが約800年後の2019年4月 突然の出火によって

 多くの部分が焼失するという 惨事に見舞われた

 

 私はその4か月前に クリスマスで賑わうパリを旅した直後だったため

 一層のショックを受けたことを 今更のように思い出す

 今回は失われた尖塔を 最もよく眺められる

 聖堂後方からの写真と共に 回顧してみたい

 初めて大聖堂を訪れたのは もう4半世紀前のことだった

 方角を間違えて 後方からシテ島に入ったので

 建物の第一印象は 「妙に荒々しい造作だな」というものだった

 

 後方中央の建物から 何本もの斜めの柱が突き出している

 見方によっては まるで宇宙船のようにも思えた

 その柱群が 中世のゴシック建築の最大の特徴だ

 高さから来る重圧を横に逃がすことで 高層化と大窓設置を可能にした

 フライングバットレスだということを この時初めて知った

 

 前に回れば繊細とさえ言える 聖人像群に出会え

 内部から見上げるバラ窓に 感動するという

 何重もの新鮮な喜びを 与えてくれた大聖堂

 以後何度も訪れてそこにあるということが 当たり前のように思えていた 

 

 最近のニュースでは 今年12月には修復を完了すると報じられた

 パリ五輪は いよいよ今日開会式が行われる

 オリンピックには間に合わなかったが 歴史的建造物の全容が

 ようやくあの高くそびえる尖塔とともに 蘇ってくることに喜びを禁じ得ない

 

 そして今日 このブログ「新イタリアの誘惑」が

 開始からちょうど3000日を迎えました

 訪問していただいている皆様に 感謝すると共に

 今後とも引き続きご愛顧いただけますように

 よろしく お願いいたします

 

 

 

 

 

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心ふるえる風景 パリ編⑦ セーヌ河岸の古本屋街が今年 一時は撤去の危機に

2024-07-22 | 心ふるえる風景 パリ編

 セーヌ川の両岸に 緑色をした屋台がずらりと並んでいる

 これはブキニストと呼ばれる 古本などを売る露店街だ

 セーヌ左岸沿いの ホテルに宿泊した時 

 ちょうど真下にそのブキニストが 軒を並べていて

 朝な夕なにその様子を眺めながら 時間を過ごしていた

 

 古本だけでなくて ポスター 絵葉書 キーホルダー

 さらにはエッフェル塔の模型まであって 毎日賑わっていた

 そもそもは グーテンベルクの活版印刷術が発明され

 大量の書籍が出版されるようになると 次第に需要を上回る本が出回り

 これらを二次利用する 古本屋が誕生した

 

 パリでは17世紀初頭 セーヌ川に架かる最初の橋

 ポンヌフの橋の上に 移動式の屋台が出たのが始まりという

 それが19世紀には 川沿いに固定式の屋台が並ぶようになり

 現在に至っている

 

 今年このブキニストが 議論の対象となった事があった

 パリ五輪が 全市内に展開する開催方式となり

 政府は警備上の問題から 一部を撤去する方針を発表した

 

 しかし 猛烈な反対の声が上がった

 ブキニストは世界遺産地区にあり パリの風物詩ともなっている

 それを撤去するということは 文化の破壊につながる!

 

 こうした声に押されて 結局政府は撤去方針を取りやめた

 これによってブキニストは 五輪開催中でも

 にぎやかなパリの風情を 醸し出す場所として

 観光客の目を 楽しませることになりそうだ

 

 

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心ふるえる風景 パリ編⑥ セーヌ河岸に 大空に向かって両手を広げる女神がいた

2024-07-19 | 心ふるえる風景 パリ編

 翼を持つ馬ペガサスと共に 茜に染まる曙の空に向かって

 女神が今セーヌ河岸で 大きく両手を広げている

 

 

 ロダン美術館に向かう前に 近くのブーランジェリーで

 クロワッサンの朝食を 済ませておこうと

 まだ暗い師走の朝 ホテルを出発した

 

 セーヌ右岸をぶらぶら歩いて行くと 前方にアレクサンドル3世橋が見えてきた

 セーヌ川に架かる橋の中でも 最も美しいとして知られる橋だ

 ようやく空がほんのりと 明るくなってきた

 橋に施された彫刻を眺めながら 何気なく視線を上に向けると

 中空に女神の像が すっくと立ちあがっている

 

 冬特有のほのかな朝もやを全身に纏いながら 差し込む朝日のきらめきを

 改めてパリの街並みに発散するかのような 女神の姿は

 今日もまた花の都の平安を守ろうと 祈る守護の化身のように見えた

 

 パリ五輪開幕まで あとちょうど一週間

 久しぶりにこの写真を 眺めているうちに

 女神が右手に掲げる剣が オリンピック聖火の

 トーチのようにも 思えてきた

 

 

 

 

 

 

 

 

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心ふるえる風景 パリ編⑤ 真下から見上げるエッフェル塔の柔と剛

2024-07-15 | 心ふるえる風景 パリ編

  エッフェル塔を 真下から眺める

 遠くからでは うかがい知れなかった 

 構造の美が 迫力を持って迫ってくる

 300mの高さを支える脚の部分は X状の鉄骨が幾重にも重なって

 それぞれの柱をなし 4つの柱は半円状の鉄骨が優雅に繋いでいる

 鉄柱を繋ぐリペットを 250万本使用するという

 当時の革新的な技術と材料によって 初めて実現した構造だ

 仰ぎ見るエッフェル塔の姿は また格別の思いを湧きあがらせる

 見事に弧を描く支えと 軽快に組み合わさる直線とによって

 出来上がったレース模様の上方に 塔の先端が伸びやかにに浮かび上がる

 すっくと立ちあがる全体像が あれだけの高さを誇りながら

 柔らかな曲線を伴う 優雅さを見せるのは

 部分部分にも剛と柔との絶妙な配置が なされていることの証なのかもしれない

 改めて135年前にこの塔を完成させた 設計者エッフェルの巧みな計算と

 持ち合わせた美的センスの表現とに 心打たれるばかりだった

コメント (4)
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