表通りの裏通り

~珈琲とロックと道楽の日々~
ブルース・スプリングスティーンとスティーブ・マックィーンと渥美清さんが人生の師匠です。

エリック爺さんと過ごした一週間

2023-04-27 19:50:35 | Blues
大盛況に終わったエリック・クラプトンの武道館6公演。エリック爺さんも78になるので、もしかしたら見納めかも...と、全公演観たかったんですけが19、21、24日の3公演だけ参加してきました。

4月19日(水)
01. Blue Rainbow
02. Pretending
03.Key To The Highway
04.Hoochie Coochoe Man
05.I Shot the Sheriff
06. Kind Hearted Woman
07. Nobody Knows You When You’re Down And Out
08. Call Me The Breeze
09. Sam Hall
10. Tears In Heaven
11. Kerry
12.Badge
13. Wonderful Tonight
14. Crossroads
15. Little Queen Of Spades
16. Layla

17. High Time We Went

4月21日(金)
The 100th Show set was:

01. Blue Rainbow
02. Pretending
03.Key To The Highway
04.Hoochie Coochoe Man
05.I Shot the Sheriff
06. Kind Hearted Woman
07. Nobody Knows You When You’re Down And Out
08. Call Me The Breeze
09. Sam Hall
10. Tears In Heaven
11. Kerry
12.Badge
13. Wonderful Tonight
14. Crossroads
15. Little Queen Of Spades
16. Cocaine
17. High Time We Went

4月24日(月)
01. Blue Rainbow
02. Pretending
03.Key To The Highway
04.Hoochie Coochoe Man
05.I Shot the Sheriff
06. Kind Hearted Woman
07. Nobody Knows You When You’re Down And Out
08. Call Me The Breeze
09. Sam Hall
10. Tears In Heaven
11. Badge
12. Wonderful Tonight
13. Crossroads
14. Little Queen Of Spades
15. Cocaine

16. High Time We Went

オフィシャルサイト Where's ERIC!(このサイト面白いですよね)より
https://whereseric.com/eric-clapton-news/

大まかに言えば前半の3公演のシメは「レイラ」、後半3公演は「コカイン」。例によってセットリストの大幅な入れ替えはなくて(22、24日は「ケリー」がオチました)、連日19時ジャストスタートの作り込まれた全17(16)曲のカンペキなショウを堪能させて頂きました。

超個人的(観た3公演の比較)には、お客さんの熱気がスゴくて一番演奏が素晴らしかったのが千秋楽。開演前から異様な雰囲気で(セレモニーもあって)一番盛り上がったのが21日の100回記念公演。バンドが一番リラックスして心地よかったのが中日19日。

一番グッズ売り場が混んでいたのが21日、逆に空いていたのが19日でした。しかし相変わらず時間かかり過ぎ。しかも並んでいる最中、何が売り切れているのかがテント近くに行かなきゃ分からないという、時間のムダ以外なにものでもない売り方。これは強く改善を望みます。

一番スムーズに退場できたのが21日(アリーナ下手側前方だったので出口が近かった)。一番渋滞に巻き込まれたのが19日。これは久しぶりの武道館、久しぶりのエリック爺さんの余韻に浸っていたせいで、出遅れました(笑)

オープニングのジェフ・ベックを彷彿させるギターが印象的なインストゥルメンタル曲「ブルー・レインボウ」にまず泣かされ、近年のオープニング・ナンバーの定番、傑作アルバム『ジャーニーマン』でもオープニングを飾る「プリテンディング」で本編がスタート。御年78歳の後期高齢者とは思えない、若々しくも猛々しい野太いソロを聴かせてくれます。
挨拶もそこそこに「ハイウェイへの関門」(『レイラ』収録のデュアンとの掛け合いギター・バージョンが好き)「フーチー・クーチー・マン」、2曲の濃厚なブルースを畳みかけてきます。どちらもエリック爺さんのショウではお馴染みではありますけど、特に後者のようなコテコテのブルースを演奏して武道館が揺れる程の歓声が上がる日がくるなんて...。
若い頃ロック一辺倒だった僕にブルースの奥深さ、心地良さを教えてくれたエリック(この頃はまだ彼も若かった)。彼に出会わなかったら「フーチー・クーチー・マン」なんて聴かずに終わってたかと思うと感謝しかありませんね。

今回あまりのカッコよさにびっくりしたのが「アイ・ショット・ザ・シェリフ」。これまでは正直あんまり好きな曲ではありませんでした(レゲエが苦手)。『461オーシャン・ブルーバード』の頃のエリックはレゲエとかの影響受けまくっていましたね。
しかし武道館では、ネイザンのゴキゲンなベースに導かれて爺さんが野太い音でストラトを弾きまくりシャウトしまくる。
「え?こんなにカッコ良い歌だったけ?」と呆気にとられてしまい、いつしか涙が溢れていました。先入観は良くないですね。反省。

続いてローバート・ジョンソンの「カインド・ハーティッド・ウーマン・ブルース」。この曲はナマ初体験(だと思う)で、名著『エリック・クラプトン/レコーディングセッション』によればそこから『ジャスト・ワン・ナイト』に続く『バックレス』ツアーの一環で、78年の英国で初披露されたようです。その本によれば”グラスゴウの会場を埋めたラッキーなスコットランドのファンはこの曲を聴くことができたのであった...”となっています。
ま、その後2004年のアルバム『セッション・フォー・ロバート・J』に収録されましたけど、これまた脂っこいブルースでした。

そしてここからがアコースティック・セッション。『バルコニー』でもオープニングを飾ったベッシー・スミスというよりドミノスの大名曲「誰も知らない」から。このバージョンを聴いて泣けない人とは友だちになれません。全日とも素晴らしい演奏でした。この曲歌っているときの爺さんって、とっても気持ちよさそうなんですよね。
アコースティック2曲目はJJ・ケイルの「コール・ミーザ・ブリーズ」。僕としてはレーナード・スキナードのバージョンの方が耳に馴染んでいるスワンプ・ロックの傑作。今回はオリジナルに近い雰囲気でジワジワと迫って来るような不思議な感じに仕上がっていました。
3曲目に登場したのが、初めましての「サム・ホール」。不勉強で存じ上げていなかった、ブリティッシュ・トラディショナル・ソング。このところ訃報が続いていたせいか、色々なミュージシャンに贈る追悼の意味があったとか。静かな中に力強さを感じさせる気持ちのこもった演奏でしたね。
セットリストがほぼ固定だったので、「サム」が終わった辺りで会場内の様子が”あの曲”に対する期待に変わっていきました。

そう、アコースティック・セッション4曲目は「ティアーズ・イン・ヘヴン」。みんなこの曲を聴いて泣きたかった。
発表以来、幾度となくナマで聴いてきましたが、今まではそれ程思い入れもなく「キレイな曲だよな。きっとコナーくんにも想いは届いているはず」という感じでいました。映画『12小節の人生』でもハイライトになっていまいたよね。
でも今ではこの曲を作った彼の気持ちが痛いほど分かるようになり、涙なしでは聴いていられません。僕のテーマ曲(インスタの別アカウントに名前を拝借しました)になっています。
しかもただでさえ冷静に聴いていられないのに、ポールがプロコル・ハルムの「蒼い影」(僕はジョー・コッカーのバージョンも好きです)のあのフレーズをオルガンで間奏にブチ込んできた瞬間に涙腺はどっかにいってしまいました。特に千秋楽の演奏は沁みましたねぇ。

アコースティックのラストを飾ったのは、最後の2公演ではセット落ちした、ケリー・ルイスに捧げられた「ケリー」。『バルコニー』でも聴かせてくれた美しい旋律のインストゥルメンタル。長い曲じゃないので全公演でやってくれても良かったんじゃない?

さあ、ショウもいよいよ終盤。再びストラトに持ち替えての「バッジ」。アルバムではアンジェロ・ミステリオーソがサイド・ギターを担当した、言わずと知れたクリーム時代の名曲。何度聴いてもジョージのカオが浮かんできます。今ツアーでのギターソロは強烈でした。
続く「ワンダフル・トゥナイト」もロマンティストなエリックの代名詞。残念ながら今回はアルバム・バージョンに忠実な超ショート版でした。僕は『ジャーニーマン』ツアーの頃の、9分を超えるムダに伸ばされたおセンチ・バージョンが大好きなので、物足りなくて物足りなくて...
もしかしたら爺さん、この曲飽きてる?「みんな期待してるから仕方ない。とりあえずやっとくか」って感じ?そんなことはないと信じたいですけど。

第一部のシメの3曲は濃厚でした。僕の初日(19日)は「クロスロード」~「リトル・クィーン・オブ・スペイズ」~「レイラ」、21日から千秋楽は「レイラ」に代わって「コカイン」。

お馴染み「クロスロード」は近年のライヴ風にソロ・パートを回して(千秋楽のクリスのピアノ・ソロは鬼気迫る名演)、あまり間延びしない軽い感じ。僕は(ナマで観たことはないけ)クリームやドミノス時代のネチョネチョしたヤツが好みだけど仕方ありませんよね。
そして僕は初めてナマで耳にした、これまたロバート・ジョンソンの「リトル・クィーン・オブ・スペイズ」。♪スペードのクィーンみたいな可愛いオンナ...という如何にもブルース!でねっとりとしたギターを聴かせてくれました。

19日はここから「レイラ」に続きました。俗に言う”エレクトリック”な「レイラ」です。僕がエリックのショウを観始めた30数年前と比べれば(あくまでも当時との比較です)キーは低いし声は出ていないし、正直かったるい演奏かもしれません。しかも『バルコニー』で聴かせてくれた最新のアコースティック・バージョンが素晴らしかったので、今回はそっちを見せてくれるものだと思っていました。
そしたら初日のレビューに「1万人の観客「レイラ」で総立ち!」と書いてあったのでびっくり。
しかも何だかんだ言ったって僕は「レイラ」が大好きです。イントロのギターソロからむせび泣くようなボーカル、そして終盤の天に昇っていくようなコーダ。この時点で涙腺なんてもう何度目かの崩壊のときを迎えていました。あのコーダを聴くだけでも観に行く価値があると思います。
でもこの曲はオリジナルが完璧すぎるし、どんな超絶ギタリストと共演してもデュアンのようなスライドは聴けません。唯一デレク・トラックスがバックに付いたときは近いものがありましたっけ。
ただ良く考えてみれば、これを目の前で演奏しているのは御年78歳の立派な後期高齢者。それを思えばフルバンド・バージョンで観れただけでも幸せ者だったんですよね。

後半の3公演は「レイラ」に取って代わって「コカイン」(今回はJJ祭りのようでした)が第一部の〆に。ネイザンのゴキゲンなベースの乗って始まる様はトリハダものです。
この曲は許されるけどローリング・ストーンズの「ブラウン・シュガー」はダメってのが理解できないくらいのドラッグ賛歌。
でもあのコーラスの

She don't lie, she don't lie, she don't lie
Cocaine!
That dirty cocaine

を大合唱するのってめっちゃ気持ち良いんですよねぇ。

そして21日は特別な日(って思っていたのはお客さんだけ?爺さんにとっては通過点?)だから、続いて「レイラ」って確信していたし、千秋楽も「これで最後だし、そのために一曲({ケリー」)飛ばしたんでしょ?」って疑いの余地がなかったのにおしまい。我が道を行くエリック爺さん健在でした。会場の雰囲気、空気読めたら普通は勢いで演っちゃいますよ。

結局全日通してアンコールはジョー・コッカーの「ハイ・タイム・ウィ・ウェント」の一曲のみ。しかもエリック爺さんではなくキーボードのポールのリードボーカルで。
ただ、このポールの歌声がまた圧倒的に素晴らしかったんです。彼はこの武道館公演のあと、自身のバンドを従えてオランダをツアーで回るとか。遠目にはドクター・ジョンを彷彿させる雰囲気も含めて、今後ちょっと追っかけてみたいアーティストと出会ってしまいました。
エリック爺さんはというと、そのポールの歌声やメンバーのノリノリのソロプレイを笑顔で見守りながら淡々とリズムを刻んでいました。

彼のスゴいところってそういう”決して出しゃばらず、メンバーを立てて自分は裏方に徹する”ことができるところじゃないかな。ギター・バトルはお手の物だけど、アンディがいた頃も彼がボーカルとってるときは絶対前面に出なかったし、ジェフやジョージと一緒だったときも一歩下がってギタリストになりきっていましたもんねぇ。
エリック爺さんのそんなメリハリがつけられるところが大好きです。

千秋楽、終始ゴキゲンでずっとニコニコ優しい笑顔を振りまいていたし、多分一番喋っていたと思います。その中で何故か恥ずかしそうに「また会いましょう!」的なことを仰っていましたよね?
アンコール後の鳴りやまないカーテンコールの中、名残惜しそうに観客席に向って笑顔を見せてくれていた爺さんでしたが、スクリーンに映し出されたおカオのアップが一瞬だけ寂しそうに見えたのは僕だけではないはず。
近年(というかこの2年)はジェフをはじめ、同世代の仲間たちが次々と鬼籍に入られています。爺さんはとっても元気そうだったし、もうすぐ80とは思えないほど指はキレイだったし(関係ないか)、まだまだ大丈夫だとは思います。
今回の武道館100回なんてきっと通過点だから、きっと110回、120回と次の目標を定めていることでしょう。その時はもう立ってギターが弾けないかもしれません。もしかしたら10曲くらいしか演れないかもしれません。ジョニー・ウィンタースの晩年のように車椅子に乗ってくるかもしれません。でも僕もまた絶対にその瞬間にに立ち会って一緒にお祝いしたいので、エリック爺さん、いつまでもお元気でいてください。

素晴らしい時間を貴方と共有できて幸せでした。たった17曲かも知れないけど、研ぎ澄まされた濃密な時間でした。感謝の言葉しかありません。三度も行かせてもらえたわがままを許してくれた家族、あの時間を共有できた全ての皆さんにも感謝します。

オツカレサマデシタ!