福島原発事故メディア・ウォッチ

福島原発事故のメディアによる報道を検証します。

食品安全委員会の不都合ではまったくない無為無策をパブコメで徹底的に批判しよう!

2011-08-26 18:31:46 | 新聞
放射能汚染された食品の流通の制限で使われる基準を設定するのに『科学的な根拠を得る』ために厚労省から諮問されていた食品安全委員会が、『生涯に受ける累積線量は1人当たり100ミリ・シーベルト未満に抑えるべきだ」とする厚生労働省への答申案』を提出したのが7月の26日。それから国民のみなさまのご意見をちょうだいして、あとは厚労省の官僚たちが作業(操作・・・)をするのだが、その意見聴取(パブコメ)の期限がいよいよ明日27日17時までとなった。この安全委の答申は、どうみても私たちの安全を確保してくれるとは思えない。さあ、いまから駆け込みで厚労省にどんどん批判と怒りの声を送ってやろう!

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パブコメの対象となっている食品安全委の『評価(案)食品中に含まれる放射性物質』(以下「評価」とする)では、ヨウ素、セシウム、プルトニウム、アメリシウム、キュリウム、ストロンチウムについて、『個別に評価結果を示すに足る情報は得られなかった』とし、それを理由として、低線量被曝の健康影響について以下のようにまとめている。(p.9および222)

『放射線による影響が見いだされているのは、通常の一般生活において受ける放射線量を除いた生涯における累積の実効線量として、おおよそ100ミリシーベルト以上と判断した』
『100ミリシーベルト未満の線量における放射線の健康影響については、疫学研究で健康影響がみられたとの報告はあるが、信頼の置けるデータと判断することは困難であった。種々の要因により、低線量の放射線による健康影響を疫学調査で検証しえていない可能性を否定することもできず、100ミリシーベルト未満の健康影響について言及することは現在得られている知見からは困難であった』

要約すると、委員会は次の二つの事実を(3,300にのぼる文献をチェックした後でやっと!)認めている。

事実‐1:『おおよそ100ミリシーベルト以上で放射線による影響が見いだされている。』
事実‐2:『100ミリシーベルト未満については、「わからない」。』

彼らはこれらの事実を疫学データから得たという。疫学的には、明確に結論を出せるのは100ミリシーベルト 以上で影響があるということだけであり、100ミリシーベルト 未満は「疫学調査では検証しえていない可能性」を「否定することができない」と、疫学データの限界を認め、『現時点の科学的水準からは低線量の放射線に関する閾値の有無については科学的・確定的に言及することはできなかった』(p.220)と結論している。

しかし、疫学データに限界があり、それでは「よくわからない」ということなら、他の方法による研究も参照してはどうか。なにせ、『国内外の文献3300点を調査』してお勉強する時間(と金、文献3300点はただでは手に入らない)があったのだから。たとえば、東大アイソトープセンター所長・児玉龍彦教授は、遺伝子レベルで低線量被曝の影響を実証する研究が出ていると言っておられる。そうした最先端の知見を取り入れなかったことは、「評価」の結論の妥当性に疑義をもたせると同時に、委員会が最初から不都合な結論を出す気がなかったことを暗示している。

だが、さらに問題は、100ミリシーベルトという数値だ。みなさんすでにおなじみのこの数値は、今度もまた安全と危険を分かつ分水嶺、生と死の限界点、地獄の入り口の「しきい値」、白と黒の基準であるかのように扱われている。(過去すでにそういう言説が満ち満ちていた。たとえば、読売新聞は3月15日から4月4日までの間に、「100ミリ・シーベルト以下(未満)なら安全」という言明を、私たちのカウントでは11回、Web紙面に登場させた。)

新聞各紙の報道をみると、上記の「事実‐1」のみが取り上げられることによって、あたかも100ミリシーベルトがしきい値であるかのように扱われている場合が多い。

朝日7月26日14時3分
「悪影響が見いだされるのは、生涯の累積で100ミリシーベルト以上」とする結論をまとめる。

朝日7月26日23時52分
食品だけでなく外部からの被曝(ひばく)を含め「健康影響が見いだされるのは、生涯の累積で100ミリシーベルト以上。

読売7月26日12時49分
生涯に受ける累積線量は1人当たり100ミリ・シーベルト未満に抑えるべきだ」とする厚生労働省への答申案をまとめ、発表した。……[厚労省は]「政府全体で生涯100ミリ・シーベルトという基準を内部被曝(ひばく)と外部被曝に振り分けるなどの作業が必要になる。

産経2011.7.26 14:44
外部被ばくと内部被ばくを合わせた生涯の累積線量について、がんのリスクが高まるとされる100ミリシーベルトを超えないようにするべきだとの見解を取りまとめた。

日経 2011/7/26 11:55
「……生涯の累積線量が100ミリシーベルト以上で影響が見いだされる」とする評価書で合意した。

これに対して、「事実‐2」にも言及しているのは毎日新聞だけである。

『一方、食品安全委は100ミリシーベルト以下なら確実に安全という根拠は見いだせていない。』

これはマスコミだけの責任とはいえない(むしろ委員会の意をくんだマスコミが精いっぱい加担していると言える)。原因は「評価」自体にある。「評価」が、100ミリシーベルト未満の危険はあるともないとも言えないとしながら、その危険を考慮に入れたリスク評価を行っていないからだ。「100ミリシーベルト未満の放射線の影響はわかりません」と述べただけでは評価にならない。責任逃れである。危険はないと言っているに等しい。だから、マスコミで「100ミリシーベルト=しきい値」扱いが横行するのだ。「100ミリシーベルト未満の放射線の影響はわからない」とか、正直に無知を告白することが、科学的良心のあらわれであるなどと過大評価してはいけない。委員会は、自分たちの科学的・知的怠慢が、官僚権力のお気に召すことを知っているのだ。だから、「100ミリシーベルト未満の放射線の影響はわからない」ということから出発して、「あるかもしれない危険」を考慮に入れることなどは、彼らの「リスク評価」に入らないのだ。(この点は、ワーキンググループでも、複数の専門委員から繰り返し指摘が出ていたが、「評価」にまったく反映されていない。あたりまえのことを言う委員の指摘は考慮されない!)

 では、ここで、100ミリシーベルトの健康影響について、もう一度おさえておこう。わが国の『原子力利用に伴う障害防止』『放射性降下物による障害の防止』のオーソリティーである原子力安全委員会は、『低線量放射線の健康影響について』なる文書において、以下のように言明している。

『100mSvを超える被ばく線量では被ばく量とその影響の発生率との間に比例性があると認められております。一方、100mSv以下の被ばく線量では、がんリスクが見込まれるものの、統計的な不確かさが大きく疫学的手法によってがん等の確率的影響のリスクを直接明らかに示すことはできない、とされております。このように、100mSv以下の被ばく線量による確率的影響の存在は見込まれるものの不確かさがあります。
そこでICRPは、100mSv以下の被ばく線量域を含め、線量とその影響の発生率に比例関係があるというモデルに基づいて放射線防護を行うことを推奨しております。また、このモデルに基づく全世代を通じたがんのリスク係数を示しております。それは100mSvあたり0.0055(100mSvの被ばくは生涯のがん死亡リスクを0.55%上乗せする。)に相当します。』

まとめよう。1)100ミリシーベルトを超えたら、被ばく量と(がん)発生率とは比例する。2)100ミリシーベルト以下では、がんリスクはあるだろうが、疫学的にそれを明示できない点で、不確かとなる。3)100ミリシーベルト以下の被ばくでは、健康被害が不確かだけれども存在するから、ICRP(国際放射線防護委員会)は、100ミリシーベルト以下の場合でも(100ミリシーベルトを超えた場合と同様に)がん発生率と被ばく線量に比例関係があるというモデルに基づいて放射線防護対策をするように各国政府に勧めている。4)ICRPは100ミリシーベルトで、がん死亡リスクが0.55%増えると見積もっている。

これがわがニッポン国の担当官庁の見解である。ところが、100ミリシーベルト以下も以上も比例関係を認めるこの「直線モデル」に関して、「評価」では以下のように書かれている。(p.221)

『国際機関において、比較的高線量域で得られたデータを一定のモデルにより低線量域に外挿する事に関して、閾値がない直線関係であるとの考え方に基づいてリスク管理上の数値が示されているが、もとより、仮説から得られた結果の適用については慎重であるべきである。』

えっ、えーっ、『慎重であるべき』って、これでは原子力安全委員会がテキトーなことを勝手に言ってますが、私たちはそんなに軽薄なことはいたしません、と言っているのに等しい。さすがに、この箇所についてワーキンググループ第9回会議で、『しきい値ありのほうに振っているのかということになりかねない』と指摘があり(第9回ワーキンググループ議事録p.22)、座長も『やっぱりそうとらえるのは何らかの形でまずいと思いますので、・・・意味的には肯定的な感じで、少し踏まえた形に書き直しを、若干、順番を変えるなりをさせていただこうと思います。・・・ニュアンスが逆であるというふうにされないことは大事なことだと思います』(第9回p.23)と応じていたが、実質的な変更はなされなかった(草稿段階の「しかしながら」が(案)で「もとより」に変わっただけ)で、「直線モデル」の適用に対してもとより「意味的には肯定的」になっていない。

委員会は、ICRPなどの国際的な流れにさからって、「直線モデルの適用に慎重であるべき」と答申したが、それがなぜか、科学的な根拠が出されていない。国際的な流れであり、国の原子力安全委員会も採用しているものをあえて採用しないのなら、最低限、科学的・合理的な根拠と議論が必要なはずではないか・・・。

100ミリシーベルトがしきい値的な基準として一人歩きしないよう、100ミリシーベルト以下についても、被曝線量と確率的影響の関係を明示すべきだ、とワーキンググループで指摘した委員もいた。また、 ワーキンググループでの議論が「評価」に十分反映されていないことに対して懸念を表明した委員もいた。しかしそうした意見が、放射線防護政策の「モデル」となるはずのしきい値の点に関して、まったく取り上げられていないということは、この委員会自体が、どこそこのシンポジウムなどと同様に、まったくの「やらせ機関」であることを示してはいないか?

こうして、形式だけの「やらせ委員会」が出す結論は、結局のところ、厚労省の官僚にフリーハンドを与えることになる。『生涯累積線量』だけを示して、食品別・核種別・事故後の期間別等の具体的指針を与えていないから、最悪の場合、いや最悪ですらない、ごくあたりまえの成り行きを考えただけで、現在の「暫定規制値」を暫定でなく据え置くことを許してしまう。

「平均寿命80年とすれば、年に1,25ミリシーベルト」など、あたかも「評価」が規制値の引き下げを求めるものであるかのような報道が行われているのに騙されてはいけない。生涯累積線量を年度ごとにどのように配分するかという点について、まったくリスク評価がなされていないから、「今だけのことですよ」と言い訳しながらとんでもなく高い規制値を前倒しされることに歯止めがかからない。新聞報道によれば、すでに座長は「暫定規制値」据え置きを容認するシグナルを厚労省に送っている

『ただ作業部会座長の山添康・東北大教授(薬学)は「現在の規制値はかなり厳しい」と指摘。食品中の放射線量が減少していることや生涯の累積線量を考えれば「現在の規制値を極端に変更する必要はないのではないか」との見解を示した。』日経ウェブ版 2011/7/26 11:55)

暫定規制値の据え置きに、厚労省も食品安全委員会もどちらも責任を取らずに済む無責任体制になっているのだ。

最後に見逃せない点がもう一つある。「評価」は、基本的考え方として次のように述べている。(p.19)

『科学的知見の制約から内部被ばくのみの報告で検討することが困難であったため、食品からの放射性物質の摂取と外部被ばくとの関係については、当面は、外部被ばくは著しく増大してないことを前提として検討することとした』

『外部被ばくは著しく増大してないことを前提』なんて勝手な前提をするな!累積の外部被曝線量はすでに、飯舘村で15.9ミリシーベルト、福島市で7.4ミリシーベルトに達し、今後も累積していくのは確実ではないか(東大物理学部長早野先生)。「評価」の前提はまったく成り立っていない。外部被曝が増大していることを前提とし、また呼吸による内部被ばくも考慮すべきであるのは言うまでもない。

締め切りまで間がないが、みんなで、食品委員会に怒りの声を殺到させよう!

原発事故をまねいたのと同じ無責任体制で汚染食品を食べさせられるのは断固拒否だぞ!!!


付録:パブコメ関係のURLは以下の通り。

『放射性物質の食品健康影響評価に関する審議結果(案)についての御意見・情報の募集について』
http://www.fsc.go.jp/iken-bosyu/pc1_risk_radio_230729.html

・電子メールの場合
食品安全委員会ホームページの下記URLより送信可能です。
https://form.cao.go.jp/shokuhin/opinion-0316.html
・ファックスの場合
03-3584-7391

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