蜘蛛網飛行日誌

夢中説夢。夢の中で夢を説く。夢が空で空が現実ならばただ現実の中で現実を語っているだけ。

羅甸語事始(十一)

2005年06月19日 06時15分37秒 | 羅甸語
このシリーズは他人様にラテン語を教えるなどといった、大それた企てで続けているのではない。あくまで自分の勉強のため。したがって講義調になるのは、これはわたしが自分自身に講義している心算なのです。だから読者におかれてはわたしの勉強態度を観察するくらいのラフな心持で読んでいただければと思います。
さて前回は第一変化名詞(Declinatio Prima)単数形と第二変化名詞(Declinatio Secunda)単数形までで終わってしまったので、今回はこれらの複数形の曲用からはじめてみようと思う。複数形の意味は二つ以上の対象(人または物)を指示する場合の語形態であることは直感的に判るのだけれども、これってじっくり考えてみると結構厄介な問題を孕んでいるのであって、たとえば日本語で「靴」といった場合、一足の靴つまり左右そろった靴を表すことも、どちらか片方だけの靴を表すこともあるけれども、英語ではshoeとshoesでは決定的に意味が異なる。ドイツ語でも通常は複数形のdie Schuheで靴を表現し単数形der Schuhを使うときは、ちょっと特殊な意味あいを帯びるようになる。そういえば古典ギリシア語には双数ってのがあったっけ。たとえば夫婦なんかも双数形で表す。日本語の感覚でいくと靴は左右で二つだろうが左右なくては用を足さないんだから、結局左右二つでひとつ、夫婦だって二人でひとりってことになる。靴の場合は問題ないけれども、夫婦の場合となると事情は微妙だ。いまどき「夫婦は二人でひとり」なんてことを広言しようものなら、個人の人格を無視する発言だって非難されるに違いないから。「靴」の例でもう少し考えてみると、いちいち複数形を使う言語と単数形ですませる言語ではどちらがより合理的なのだろう。いやまてよ、そもそも日本語に複数形、単数形なんて語形は存在しないのではなかったか。単数で「靴」、複数で「靴々」て言うじゃないかって。しかしこれは単数的表現、複数的表現なのであって、曲用としての単数形、複数形ではないのではないか。やはりこの件についてはじっくりと腰据えて考えなくてはならないなあ。
それでは第一変化名詞(Declinatio Prima)複数形と第二変化名詞(Declinatio Secunda)複数形を見ることにする。まず第一変化名詞(Declinatio Prima)複数形の曲用、またagricola(農夫)でやってみる。格の並びはominativ、genitiv、dativ、accusativ、ablativの順番。これ以降特に言及しない限り、格の並びはこれでいくことにする。教科書によってはominativ、accusativ、genitiv、dativ、ablativの順で曲用を上げているものもある。たとえば有名な松平、国原や(注1)やアモロス(注2)の教科書は前者、有田潤(注3)の教科書などは後者の並びになっているが、どちらが良いのかはわたしには判断がつかない。
では第一変化名詞agricola(農夫)男性名詞。agricolae、agricolarum、agricolis、agriclas、agricolisとなるが、このとき各曲用の母音は主格以外すべて長母音となる、すなわちae、a-rum、i-s、a-s、i-sと伸びて発音する。次に第二変化名詞Aegyptus(エジプト人)女性名詞だったことを思い出そう。Aegypti、Aegyptorum、Aegyptis、Aegyptos、Aegyptis、でこちらは各曲用の母音すべてが長母音となる。つまり、i-、o-rum、i-s、o-s、i-sと伸ばして発音する。まった七面倒臭いものだよ。

(注1)『新ラテン文法』松平千秋 国原吉之助 東洋出版 2000年11月30日第7版
(注2)『ラテン語の学び方』マヌエル・アモロス 南窓社 1977年10月15日第5刷
(注3)『初級ラテン語入門』有田潤 白水社 1993年12月10日第22刷