蜘蛛網飛行日誌

夢中説夢。夢の中で夢を説く。夢が空で空が現実ならばただ現実の中で現実を語っているだけ。

煙霧之記憶

2005年06月18日 16時18分19秒 | 彷徉
川崎の街を偶さか歩くことがある。といっても川崎大師参詣の帰りに新川通りの近代書房やいさご通りの大島書店を覗いてみるくらいだから、ほとんど駅前周辺なのでとても「歩いた」などといえるものではない。もっとも川崎の街は駅前とお大師様と風俗店以外どこといって名所旧跡があるわけでもないように思う。駅から産業道路まではだいたい住宅街だし、産業道路より東側はもう工場地帯になる。もちろんしっかりと調べればそれなりの場所があるのだろうけれど、わたしの勉強不足ゆえというか単なる怠慢のために、そのようなところを知らないだけなのかもしれない。
むかしわたしの友人がさいか屋にあったU堂書店でアルバイトをしていたことがある。どのような経緯かは知らぬが、そこで知り合ったU堂書店従業員の女性と結婚してしまった。今では中津川渓谷の近くに住んでいるらしい。彼とはもう何十年も会っていないが、わたしと川崎の接点といえばそれくらいなものだ。しかしそれにしてもわたしは川崎という街が好きだ。断っておくが川崎市ではない。あくまで川崎の街、行政的表現を敢えてするならば川崎市川崎区ということになるのだろうか。
話はさらにさかのぼって、昭和三十七年TBSの東芝日曜劇場で芸術祭参加作品として放映された「煙の王様」がえらく気に入てしまった。じつはわたしはリアルタイムでこの作品を観ていない。再放送されたものを観ているのだが、演出が円谷一で音楽がたしか山下毅雄だったと思う。なんせ手元に資料がないもんでWebサイトで確認しながら書いている。当時TBSのドラマ主題曲にはやたらと山下毅雄の名前が出ていたように記憶しているのだけれど、これは単に彼の曲の印象が強かったので(或る意味のワンパターン)それでそのように思い込んでいるのかもしれない。「煙の王様」の主題曲も「七人の刑事」のように口笛ベースの曲だった。もちろん七刑のような重苦しいものではなくて、いかにも未来志向の軽やかなもの。母親役の菅井きんはまだ三十代半ばくらいだったはずだが、本当にオバさんっぽくて、わたしは子供ながらにこの女優さんは怪優だと思った。足を怪我して会社を首になってしまう長男役の佐々木功はスマート過ぎてちょっと主人公のポパイ一家の雰囲気ではなかったなあ。浜川崎か安善あたりの操車場に留められている廃車になった客車が一家の住まいという設定は、当時それほど奇抜なものでもなかった。まだまだ日本は貧しかったから。それとポパイがアルバイト先を辞めるとき退職金代わりだといって強引に持ってきてしまう原動機つき自転車。今でこそ見られなくなったが、自転車に小型の発動機をつけたもので、それにのって走ってゆくラストシーンは印象的だった。発動機付き自転車に颯爽またがり出前持ちのポパイが向かう先には東京電力の発電所がそびえていた(と思う。この部分はまったくわたしの記憶を頼りに書いてるもので)。しかし劇中でのポパイはたしか小学生のはずだ。つまり当時は自転車に小型エンジンをつけただけの乗り物には運転免許証は不要だったということか。その辺の事情は定かでないが、ま、いずれにしろお芝居なんだからあまり硬いことはいいっこなし。
とにかくガキのくせにやたらと生活力のあるポパイの日常を描写したこの「煙の王様」は映画化もされているが、わたしはテレビバージョンを是非もう一度観てみたい。ビデオやDVDで発売されていれば購入しようとも思っているのだが、そのような情報も聞こえていない。