ガエル記

本・映画備忘録と「思うこと」の記録

MAGI -天正遣欧少年使節

2019-01-19 06:56:21 | ドラマ

伊東マンショ(ドメニコ・ティントレットによる肖像画)

MAGI -天正遣欧少年使節 アマゾンプライムで観始めました。
かなり低予算で作られているように思えますが、なかなかそれなりに健闘しているのではないでしょうか。

天正遣欧少年使節、というもの自体に興味があるのですが現在日本のドラマではあまりない異国との交流がどのように描かれているのが気になるところです。
(現在の日本はもろに鎖国状態にあると思うのですよね)

伊藤マンショの幼児期、これは創作かなと思って検索したら本当にこのような過酷な逃亡生活だったのですね。
興味があったとか言いながらなにも知らない私でした。

このドラマを観ながら勉強します!

「デトロイト」キャスリン・ビグロー

2019-01-19 05:45:47 | 映画


TV放送で見ただけだけど、あまりの恐ろしさに慄いてしまいました。ビグロー監督作品は幾つか見てきましたが、いつもとんでもない恐怖が描かれていてその技術の高さと作品の持つ怒り・執念・悲しさに圧倒されてしまう。

この作品はもちろんかつてデトロイトで実際に起きた暴動を描いたものであるけど、その本質は人間がいかに矮小で惨めな存在になってしまうかを訴えたものだと思います。
この矮小で惨めというのは捕らえられて人権を蹂躙される黒人たちと女性たちでもあり、三人の警官たちの事でもあります。

本作で「悪の権化」となる警官は他の映画に出てくるような超能力だとか怪力を持った魔王ではないし偉大な権力を持っているわけでもないごく普通の一人の警官と彼に引き込まれた二人の警官で普通の拳銃しか持っていません。捕らえられた黒人と女性たちは人数としては勝ってはいても(しかも一人は元軍人であっても)3人の警官の前に抗う術もなくまっとうな人間としての権利など欠片もなく踏みにじられてしまいます。
警官たちをびびらせた発砲が実はおもちゃのピストルによるいたずらだったなどと言えはしないのです。そんなことを言えば殺されてしまう危機感を彼らは感じ取っています。おもちゃのピストルでびびらせられたという屈辱を白人の警官たちが許すわけがないのですから。
また黒人だけでなく白人の女性も白人の男性の気分を損ねれば同じように惨めな存在でしかないことが描かれます。黒人の男とねんごろになるような白人の女は罰を与えねばならない、という彼らの使命があるわけですね。

ビグロー監督はことさらにドキュメンタリーであるような筆致で物語を表します。
これは虚構の話ではない。実際にこの国で起きた真実なのだと、これがこの国で起きたことなのだと、そしてそれはいつでも再び起こりうる恐怖なのだと訴えていきます。
どさくさに紛れ店から商品を奪う黒人青年を執拗に追いかける警官たち。僅かの食品などを盗んだために弾丸を撃ち込まれ血を流し、車の下に隠れなければならない恐怖と屈辱。
何の罪もなく壁に張り付けと命じられ一人一人が自分の力のなさを感じ、殺されるしかない絶望を感じ、すべての尊厳を自ら捨てなければならない辱めを感じさせられていく。

観る者はいつかこういう事態が自分にもあるのかもしれないと考えなければならないのです。
それは捕らえられた黒人や女性だけではなく警官であるかもしれない。

黒人バンドのボーカルだったラリーの歌声があまりにも素晴らしいがゆえに悲しい。こんなにも美しい歌声を持った彼が歌手の道をあきらめなければならないのか。
それほどまでに彼はあの夜大切なものを破壊されてしまった。

こんなに恐ろしい映画作品はないでしょう。
人間の尊厳を奪う。
それはこういうことなのです。