私は、父を越え、母に近づいた。
真夜中、ふと、目が覚めると、カーテンの隙間から
星明かりが、幽かに差し込んでいた。
私は、松煙墨で塗りつぶしたような天井を、ぼんやりとながめていた。
「人間は、精が抜けると、死にとうなるんじゃけ」
“宮本輝・幻の光”の一節が脳裏に浮かんだ。
以前、誰かから訊いたことのあるようなフレーズである。
私の記憶は、ビデオテープの早送りのように、幼少時代へと遡った。
飲んだくれの亭主と、六人の子供を育てる母がいる。
母は、空の米櫃に凭れかかり、
「もう、精も根も尽きはててしもうた」
と、呟いている。
母は、この苦境を、どう乗り切ったのだろうか。
もう、母に問うすべは、私にはない。
精根つくしても、問うすべはない。
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