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たわいもない話

かくすればかくなるものと知りながらやむにやまれぬ大和魂

からす天狗の恩返し (12)

2011年11月06日 17時17分32秒 | カラス天狗の恩返し

あくる朝、小窓から差し込むうす明りで勇翔は目を覚ました。

 

家の中には人の気配はなく、囲炉裏に掛けられた茶釜が “シューン、シュ-ン”と寂しそうな音を響かせ、煙草の煙のような湯気を立てていた。

 

「此処はいったいどこだろう。何故、僕はここにいるのだろう・・・・?」

 

勇翔は前夜の出来事をおぼろげに思い出しながら、それが真実だったのか幻想だったのか、夢心地の中にでもいるような気持で呆然と立ちすくんだ。

 

「昨夜の出来事が真実だとすれば、村人はいったい何処へ行ってしまったのだろう」

 

勇翔は狐にでも化かされたような不思議な感覚に襲われ、戸外の様子でも確かめようと土間に降りようとした。

 

その時、“ギィギィギィュー”ときしむような音をたてて玄関の引戸を開けて義助夫婦が顔を覗かせ、その姿に勇翔は“ハッ”と我に返った。

 

「勇翔さん、よく眠っていたが、少しは疲れがとれかね!」

 

義助は勇翔の元気そうな姿を見て、安堵したように優しく話しかけた。

 

「もう大丈夫です、みなさまのおかげで十分に体力を取り戻すことができました。」

 

勇翔は義助に駈け寄ると、手を固く握りしめ“ニッコリ”微笑みながら、昨夜の出来事は夢ではなかったのだと改めて確信した。

 

義助は背負っていた竹籠をゆっくり土間に降ろすと、少し表情を曇らせながら言った。

 

「実は、昨夜の勇翔さんとの約束を果たそうと、朝早くから食糧を集めるために村人の家々を回って来たが、この村も、今年の冬は特に食べ物に事欠き、村人を飢えさせるわけにもならず、これだけ集めるのが精いっぱいだった、これだけで勘弁してくれ」と言って、土間に置いた竹籠を勇翔に見せた。

 

勇翔が竹籠の中をのぞくと、雑穀・芋・干し柿・乾物、そして村人も滅多に口にしないであろう菱餅まで入っていた。

 

「村主さん、こんなにたくさんの食物を恵んでいただきありがとうございます。」

 

勇翔は村人の温かい慈愛に触れ、胸に熱く込み上げる感情が抑えきれず、とめどなく涙が溢れた。

 

「これで、おじいさんを飢えから救うことができる」

 

勇翔は、今まで張りつめていた義精神から解き放たれ、すぐにでも岩谷に飛んで帰りたい思いに駆られたが、ふと村の人たちのことが頭をよぎり心配になった。

 

「村主さん、僕がこんなにたくさんの食物をいただいて、村のみなさまは大丈夫ですか」

 

「わしらのことは心配いらん」

 

と義助は答えただけで多くを語らず、家の外に出ていって叺を抱えて戻って来ると、土間に叺をおいて竹籠の食物を手際よく詰め替えながら、女房に

 

「雪道は腹の空くものだ、勇翔さんに力のつくものを食べさせてやってくれ」言った。

 

義助の女房が、保存食用に蓄えていた丸餅を亀壺から出して、囲炉裏の火で焼き、それに味噌をつけてさらに焼くと、こうばしい香りがあたりに漂った。

 

「今日は久々の雪晴れ、急いで帰らなくても荒れることはないでしょう。しっかり腹ごしらえをしてからお帰りなさい」

 

そう言いながら義助の女房は、美味しそうな香りのする丸餅に沢庵とお茶を添えて勇翔に食べさせた。

 

そして、食事が終わるのをみはからって、白いおにぎりを竹の皮に包んで勇翔に持たせた。

 

勇翔が帰り支度を整えて土間に下りると、義助は勇翔に叺を背負わせて、荒縄で硬く縛ると、静かに玄関の引き戸を開けた。

 

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