野分が過ぎ去り、すいこまれそうな青空が深く広がっていた。
肌を包み込むような穏やかな風が、爽やかにほほを通り過ぎ、うねりの残る日本海ではサーファーの群れが燕のように波と戯れている。
海辺の断崖下の狭い道を進むと、傍らに、西国を見つめて立つ、お地蔵さんが不動の姿で祀られている。
「お地蔵さん、お地蔵さん、お地蔵さんはどうしてこんな寂しいところに立っているの?」
「わしには、足があっても歩けない。わしを祀った人間に聞いてくれ」
「お地蔵さん、お地蔵さんはいつも何を考え、何を見ているの?」
「わしは何も考えていないし、何も見てはいないよ」
「お地蔵さん、お地蔵さんはどうしてそんなに大きな頭をし、大きく眼を見開いているの?」
「そんなこと、わしを彫った石工に聞いてくれ」
「お地蔵さん、お地蔵さん、毎朝のように賽銭を供えているのにどうして願いを叶えてくれないの?」
「お前はバカか、わしが、お前の賽銭で、一度でも美味いものを食ったところを見たことがあるのか」
「お地蔵さん、お地蔵さん、お地蔵さんに願いを叶えてもらうにはどうすればいいの?」
「わしは、ごらんのとおりの石頭、脳もなければ動きもできぬ。わしに、願い事をするのなら、お前も、わしのようになることだ」