たわいもない話

かくすればかくなるものと知りながらやむにやまれぬ大和魂

小春日和の大山へ

2018年08月10日 16時22分37秒 | 雲雀のさえずり

窓越しに空を見上げると、暗い夜空に灰色がかった雲がわずかに浮かびキラリと光る星が美しい。


今日の天気はよさそうだ!紅葉の大山に登ってみようと心に決めた。


ここ数日、曇り空が多く大山の山頂を望むことが出来なかった。


時計に目をやると、まだ4時過ぎだ。


今朝はこの時期には珍しい冷え込み、もうひと眠りするか、私はまた布団に潜り込んでうとうとしながら時間の経つのを待った。


5時20分起床、前日に準備しておいた登山服に着替え、コンビニでおにぎりと少しばかりのお菓子などを買って大山に向かった。


ようやく辺りが明るくなり始めた6時過ぎに下山駐車場に到着、登山靴に履き替え6時25分夏山登山口から山頂を目指して登り始めた。


二合目にさしかかった時、前方に60歳前後と思われる中年の女性が、登山道の高い段差を避けるように左右にジグザグしながら、今にも止まりそうな足取りで登っているのが見えた。


私は、今年の秋に入って三度目の登山、登山道の状況やペース配分など、多少の自信が有ったのでその女性に声をかけた。


「お疲れさんです。もし、よろしかったら一緒に登りましょうか」


足もとばかりに注意を払っていた女性は、私の不意の言葉に驚く様子もなく、汗にまみれた顔をゆっくりもたげ、私の顔を窺うよう見つめながらに言った。


「あと、どのくらい時間がかかりますかねー」


「今のペースなら、まだ、三時間くらいはかかると思いますよ」


私の返事を待っていたかのように、その女性は足を止めて大きく深呼吸した。


「頑張って登りましょう」


私はこの女性に頼まれもしないのに、女性にペースを合わせ寄り添うように登って行った。


「三合目の辺りから少しづつ景色が良くなりますよ。志賀直哉が暗夜行路のなかの銘文で描写した、中の海や米子の街などの風景はこの辺りから見たものかも知れませんね」


私が少しでも女性の気が紛れて元気が出るような話題を探し、話しかけながら登っているうちに女性の警戒心も和らいだようで


「私し、昨晩は大山の宿坊に一泊し、今日、米子を3時の広島行きの急行バスで帰るようにしています。1時には大山寺に下りなくてはなりませんが間に合いますでしょうか?」


私はこのままのベースで登れば1時には下山できるかもしれないと思った。


しかし、無責任な返事もできない。


女性の体は左右に大きく揺れ、足取りは相変わらず重そうである。


女性の疲労の度合いから考えると、今のペースを維持しながら登るのはかなり難しく思えた。


「そうですね。今のベースで途中休憩を取りながら登って、1時に下山が出来るか出来ないかギリギリのところですね」と答えた。


「そうですか。今日中にはどうしても帰らなくてはならないし、私し、登れるところまで登ってみてダメなら引き返します。どうぞ先に登ってください」


この女性の残念そうな、また、重苦から解放されるという“ほっと”したような表情を見て、できることなら何とかして山頂まで登らせてあげたい、そんな思いにも駆られたが、しょせんは人の身、我が身と変えることなど到底できない。


私は女性に別れを告げ、また、一人で登り始めた。


六合目の避難小屋で少し長い休憩を取り、再び山頂を目指した。


八合目の木道の付近まで登ってくると、すいこまれそうな天空の青空にはひとかけらの雲もなく、下界には赤や黄色に色ずいた紅葉が絨毯のように広がっていた。


山頂を覆う緑のキャラボクの林は、澄み渡った青空と美しいコントラストを描いて幻想的な光景を醸し出している。


今日はこの秋一番の小春日和だ。


「帰りには、あのキャラボク林の散策を楽しんでから下山しよう」


9時を少し過ぎた頃に山頂に到着。


山頂はすでに登山者で賑わいを見せていたが、その中でも特に中高年の男女の多さが目を引いた。


山頂の北側には、米子の街、弓ヶ浜半島、日本海や高霊山などが眼下に広がり、南側には中国山脈に連なる紅葉の山々、山頂から連なる縦走路には真綿のような薄い雲が谷底に向かって流れ、遠くの連山が霞んで浮かんでいた。


時間の経過に合わせるように登山者の数はさらに増え、景色に見惚れる人、記念写真を写す人、弁当を食べる人などで山頂は駅のホームのような混雑になった。


私は数枚の写真を撮って、ひんやりとした空気を胸いっぱい吸い込み、山頂からの眺望にみとれているとお腹が“グゥー”となった。


ベンチに腰を下ろし、コンビニで買ったおにぎりでも食べようと思い、横に目をやると二人組の男性が美味しそうな弁当を広げてていた。


山頂に着いたばかりの、この二人組、弁当を食べながら登るのに何十分かかった、下山は何十分で下りよう、などとタイムでも競っているような話が聞こえてきた。


「せっかく苦労して登って、そんなに急いで下りなくてもよさそうなものを、この小春日和、もっと山を楽しめばいいのに」


私はそんなことを考えながら、そうた、私も若い頃には山仲間たちと、今日は何十分で登った、次は何十分で登ってみせるなどと、タイムを競ったことを思い出し可笑しくなった。


老い先短いこの年になって、ようやく山の魅力、楽しみ方が解ったような気がしているが、そんな物でもなかろうと思いなおした。


山頂は団体の登山者なども増えてますます混み始め、山頂で一人さびしくおにぎりをぱくつくのがみじめに感じられ、キャラボクの林まで下がって食事をとることにした。


キャラボク林に向かう木道は、幅が狭い上に勾配がきつく、登山者の姿は全く見当たらなかった。


地蔵ケ池まで下りると、広さ8畳ほどの小さな池にうっすらと氷が張り、太陽の陽を受けまぶしく光っていた。


、もうすぐ霜月、山頂に吹く風が汗まみれの体を通り過ぎると、“ブルブル”と体が震える。


キャラボクの木を風除けに日だまりを探し、リックからコンビニで買ったおにぎりを手にすると、朝飯抜きの腹の虫が早くはやくと催促をする。


おにぎり、お茶、チーズ、などで腹を満たし、キャラボクの林を木道沿いに散策すると、石室、地蔵ケ池あたりがキャラボクの一番の密集地のようだった。


この辺りから眺める山頂には人影も見えず、透き通った青空と緑キャラボクのコントラストが映え、物音ひとつしない空間に一人たたずんでいると、真空地帯にでも分け入ったような錯覚に襲われた。


私はキャラボク林の自然の中で英気を養い、再び登山者で混雑すり夏山登山道へと引き返した。


「お疲れさまです。ご苦労さまです。頑張ってください」


山頂を目指す登山者に、道をゆずりながら声をかける。


「ありがとうございます。すみません。お先にどうぞ」


老若男女の登山者から返る感謝言葉、なんと素直で清々しい響きだろう。


私は六合目で少し休息を取り、このまま夏山登山道を下りようか、行者谷コースを下りようかと迷いながら五合目に向かった。


行者谷コースは30代の頃はよく使ったこともある、距離は短い代わりに急な坂道が続き、難所も多いため最近は全く通っていなかった。


六合目を100メートルほど下って、夏山登山道と行者谷コースの分岐点に到着、どちらのコースにしようかと思案している内に、足は無意識のうち行者谷コースに向かっていた。


この続きは次の機会に投稿します。


 


 


 

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熱燗で一杯

2018年01月29日 11時55分59秒 | たわいもないはなし
「お父さん、夜は外食にしようよ」

家内の言葉に従うことにして、近くの温泉に併設された食堂に行った

六十前後のおばさんが注文を取りに来た

家内は海鮮丼を

僕は、おでん、熱燗のお酒二合、玉子丼

おばさんが、最初に持ってきたのは玉子丼

次に、海鮮丼、そして、おでん

おでんをつつきながらお酒を待つ

お酒の来る気配がない

「お酒、まだですか?」

「今、お持ちします」

おでんを、殆ど食べ終わったころに

「おまたせしました」

熱燗がやってきた

玉子丼を肴に、一杯

体に気を使ってくれた、おばさんに感謝?

たわいもない出来事でした


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駄 感

2017年02月21日 09時56分28秒 | 雲雀のさえずり

 ○ 荒海の 沖の御前に 春問わば


  われに希の 有や無しかも


       白 雲 善 恕
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駄 感

2017年02月15日 10時21分10秒 | 雲雀のさえずり
 
  ○ 雪きれし 青空のぞき 心晴れ

   足取り軽く 買い出しに行く



       白 雲 善 恕
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2017年02月12日 11時55分53秒 | 雲雀のさえずり

 ○ ドカ雪に 途絶へし家の 道をかき

   老人(ひと)の心の 琴線に触れ

           
           白 雲 善 恕
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2017年02月10日 10時12分21秒 | 雲雀のさえずり


 ○  春雷の 海を引き裂く 閃光に

   この散歩道 避難場もなく


         白 雲 善 恕
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2017年02月09日 16時56分54秒 | 雲雀のさえずり
 
 ○ 登りては 落ちくる水や 陽とともに

   巡り巡りし 人生一路

      
            白 雲 善 恕
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2017年02月08日 09時43分34秒 | 雲雀のさえずり

 ○ 終活を 愛しき人に 裏切られ


 ○ 天敵は 古希を過ぎても 壁となり


白 雲 善 恕
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駄 感

2017年02月05日 11時59分00秒 | 雲雀のさえずり

  ○  三日月も 煌めく星も かすみくる
     
     脳裏を走る わらじ懐かし 


  ○  松明の ゆらじ炎や 深山雪

     奥宮めざす 行者らの波


         白 雲 善 恕
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早春の香り

2015年02月06日 17時25分40秒 | 雲雀のさえずり

今日はこの時期としては珍しく穏やかな朝だった。

「おい! 海に波はあるか?」

私は、窓を開けている妻に尋ねた。

「波は、ないみたいだよ!」

私の家は、海から三百メートルほど離れた、日本海が一望できる高台にある。

「ほんなら、モンバ(二月から三月にかけて海岸の石や岩に着く、岩ノリ、ヒラメ、カヤモなどの海藻の一種)を採りに行ってく―けん!」

私は素早く服に着替え、胴長を車に積んで、心を弾ませながら海岸に向かった。

昔は、モンバを専門に採る人もいて、それを買って食べることもできた。

しかし、この頃はこのような人は殆どいなく、食べようと思えば、自分で採りに行く以外に方法はなくなってしまった。

海岸に着くと、遠目には穏やかそうに見えた海だが、一メートルくらいの波が立っていた。

波をかぶりそうだったので、モンバ採りをやめようかとも思ったが、せっかく来たのだからと考え直し、胴長をはいて海に入った。

岩にはモンバがついていたが、腰をかがめながら深みに入って行くと、時より押し寄せる大きな波が胴長に入りそうになる。

「こりゃー だめだ!」

しかたなく、水際の石についたモンバを少し採った。

私が家に帰ると、妻は台所で洗い物をしていた。

「今日は波があって、だめだったわぁー」

と、流し台に、ビニル袋に入れたモンバを置いた。

「これだとれりゃー 十分だがん」

妻はモンバを洗いはじめた。

「おとうさん、今日のモンバは砂がいっぱいまざっちょうなー」

と、ぶつぶつ言いながら洗っていた。

夕食になって、私がテーブルに着くと、ささやかな食卓に、さっそくモンバも並んでいた。

「どんなー 食べられ―かいな?」

「まだ、私は食べちょらんけんわからんわ」

私は醤油づけしたモンバにはしをつけた。

「やっぱり、初物は美味いなー」

妻もモンバにはしをつけた。

「うまい。熱いご飯にのせて食べーと、何杯でもご飯が進むよなー」

と、ニコニコしながら言った。

やはり、自分で苦労して採った初物のモンバは、何ものにも代えがたい早春の香りであった。

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