< 2008年に掲載の フォトエッセイを 加筆・修正し、最掲載しています >
妙義山 ・ 第二見晴しより 金鶏山 日没まぎわ、蒼い風景に霧がまとわり付く。
< 35mm F5.6 - 8 1/125sec >
フォトエッセイ 写真家の見た風景
― 第十五話 ― ガラスの森
● 乾雪 ・・・ 北国の雪はパサパサに乾いた乾雪 (パウダースノー)。 樹木の枝に着いた雪は、少しの風でも吹き飛んでしまう。 だから、厳冬期の北海道などの雪景色には、樹氷はあまり見られない。
● 樹氷 ・・・ 関東地方の雪は雨で始まる。 やがて気温が下がり、湿った雪になる。 湿った雪は木の枝に付着しやすく、夜間の冷え込みで凍りつき、樹氷になる。
● 霧氷 ・・・ 木の枝の上側に積もる雪に対し、枝の裏側や幹までも白く染めるのが霧氷。 空気中に漂う霧が樹木などに付着して凍った状態。 けれどその命は短く、太陽が昇るにつれ 「 シュワ シュワ シュワ 」 と、音ともつかない音をたてて 氷の魔法が融け、元の枯れ木立ちに戻っていく。
1日目.
あるとき私は、妙義山・中間道を歩いていました。 妙義神社から白雲山の山腹を巻き、石門群へと続く自然遊歩道です。 遊歩道とは言え、倒木や落石のある、起伏の多い道が続きます。
未明から関東地方に降り出した雨は、山間部では雪になっていました。 ふんわりと綿帽子をかぶった妙義神社を訪ねてから、見晴し台を目指します。 表妙義の山々を見渡せる絶好の場所なのです。
雪は午後になって止みましたが、上空の雲は取れません。 夕方になって霧が出始め、金鶏 (きんけい) 山に雲海が広がりました。 「 もし、雲の切れ間から夕焼けが差し込んで、全体を赤く染めてくれたなら・・・ 」。 そんな淡い願いもかなわず、少し残念な気持ちで山を降りる事にしました。
「 明日、この雲海と朝日を写せたらいいな 」 など、期待しながら・・・。
『 ガラスの森 』 夜明けの金鶏山
< 35mm F4 1/125sec PLフィルター >
写真集 西上州の山 ( 上毛新聞社 刊 ) より抜粋
2日目.
午前4時半。 懐中電灯に照らし出された遊歩道は ガチガチに凍り付いて、ガラスの破片のように鋭く光っています。 靴の裏が裂けてしまいそうで、しかも、転んだら痛そうです。
そして まったくの予想外。 昨日 出ていた雲海は夜の冷え込みで凍りつき、一面の霧氷状態になっていました!
東の空が明るくなり始めると、表妙義の山々は濃いブルーから ムラサキ色へと変化していきます。 やがて、金鶏山の北壁に日が差し出すと、ガラス細工の森が黄金色に輝きました。
「 すべてはこの瞬間のため 」。 私は凍える指先でカメラを構え、無心でシャッターを切り続けます。 レンズを替え、露出を換え、構図を変えて、悔いの残らない撮影を心掛けます。
ふいに、金洞山の上空に、満月過ぎの月が目に入りました。 なぜだか、ウソをついた時のような後ろめたい気持ちが心をよぎります。 月は何もかもを見透かしているようで、「 しまった、見つかっちゃった 」 という気持ち。
「 今日、精一杯生きているか? 」 と、心に問いかけてみました。 と言うか、今日、月曜日は午後から出社しました・・・。
『 残 月 』 妙義山 ・ 第二見晴しより 金洞山
< 24mm F5.6 1/125sec >
日中に見える月のことを、「 嘘をついたような月 」 と表現したのは、俳人、尾崎放哉 ( ほうさい )。 夜に取り残されたうつろな月が、金洞 ( こんどう ) 山の背後に見えて
いた。
― 第十五話 ― ガラスの森 ― 終 ―
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