ヨナの福音こばなし帳

オリジナルのショート・ストーリー。一週間で一話完結。週末には、そのストーリーから人生の知恵をまじめにウンチクります。

自由だから愛(3)

2008-11-19 | 自由だから愛/ お父さんの橋
そのお金持ちの主人には、一人、息子がいました。もうりっぱな若者になっていました。

ある朝、彼が馬に乗って、街まで出かけたときのことです。ある畑の横を通りかかったとき、女奴隷が、主人に鞭で打たれているのが目に入りました。

はじめは、いつものことと、それほど気にしていなかったのですが、その主人は鞭で打つことをいっこうに止めようとしません。女奴隷は、悲鳴をあげることすらできず、ただからだを丸めて、打たれるばかりです。

彼は、その様子を見て、あまりにもひどいと思い、その主人に声をかけました。

「そんなに鞭で叩いたら、奴隷がダメになってしまうぞ」

「何を、若造。わかったような口を聞くな。こいつは、いくら口で言っても働かないんだ。太った牛より頭が悪いから、こうして叩いて、仕事させるしかないんだよ」

「それだったら、叩くのを止めて、働かせればいいじゃないか」

「若造。俺様が買った奴隷をどうしようと、俺様の勝手ってもんよ。ガタガタ言ってないで、とっととうせやがれ」

その横暴な主人は、若者と話をし始めたので、その女奴隷を打つ手が止まりました。

女奴隷は、体中に走る痛みをこらえて、やっぱりからだを丸めたままでしたが、顔を少し上げました。

若者に、ちらっとその顔が見えました。



彼は、すぐにそれがだれだか気がつきました。

(つづく)