ヨナの福音こばなし帳

オリジナルのショート・ストーリー。一週間で一話完結。週末には、そのストーリーから人生の知恵をまじめにウンチクります。

ぼくはセミになったのさ(6)

2008-06-28 | 放蕩息子Part2
あるひっそりとした明け方のことです。一匹のセミが、静かに、地面に横たわっていました。もう、飛ぶ力も、歌う力も、そして、息をする力もありませんでした。

セミは、生まれてこの方、幼虫のときの7年間は、ずっと地面の中にいました。そして、セミになって、7日間、毎日、光の中を、飛び回りました。セミは、自分が真っ暗な地面の下から出て、光の中を飛べることが、嬉しくて嬉しくて仕方ありませんでした。それで、いつも大きな声で歌っていました。

「ぼくは、もう闇の中には、戻らないよ。
ぼくはセミになったのさ。
 ぼくは、光の中で生きるんだ。」

森では、今日も、いつもの一日が始まります。

(次回は、このストーリーから、人生の知恵をまじめにウンチクります。)


ぼくはセミになったのさ(5)

2008-06-27 | 放蕩息子Part2
次の日も、また次の日も、セミは、毎日、飛び回りました。セミは、自分が地面の下から出て、光の中を飛べることが、嬉しくて嬉しくて仕方ありませんでした。それで、いつも大きな声で歌っていました。

そして、夕方、またその木のところに帰ってきました。その日見た、地上の世界のことを、あれこれと思い出していました。それというのも、生まれてこの方、幼虫のときの7年間は、ずっと地面の中にいたのです。

夜になると、いろんな昔の友だちが捜しにやって来ました。そして、みんな、土の中に戻ってくるように誘いましたが、セミは、いつも、決まって、こう答えるのでした。

「悪いけど、ぼくは、もう土の中には、戻らないよ。
だって、ぼくはセミになったのさ。
ぼくは、光の中で生きるんだ。」

そうすると、昔の土の中の友だちは、ブツブツ言いながら、また土の中に戻って行きました。

(つづく)


ぼくはセミになったのさ(4)

2008-06-26 | 放蕩息子Part2
その次の日、セミは、また一日、光の中を、声高く歌いながら、飛び回りました。そして、夕方、またその木のところに帰ってきました。その三日間見た、地上の世界のことを、あれこれと思い出していました。それというのも、生まれてこの方、幼虫のときの7年間は、ずっと地面の中にいたのです。

もうすっかり暗くなった頃、ムカデが現れました。
「へえ、あんたもそんなところに、行けるんだね。
とんと知らなかったよ。
木の上になんか止まってないで、
早く、土の中に戻って来なよ。
あやとりの続きをやるんだからね。」

セミは答えました。
「悪いけど、ぼくは、もう土の中には、戻らないよ。
だって、ぼくはセミになったのさ。
ぼくは、光の中で生きるんだ。」

ムカデは、ブツブツ言いながら、また土の中に戻って行きました。

(つづく)


ぼくはセミになったのさ(3)

2008-06-25 | 放蕩息子Part2
次の日、セミは、また一日、光の中を飛び回りました。そして、夕方、またその木のところに帰ってきました。その日一日見た、地上の世界のことを、あれこれと思い出していました。それというのも、生まれてこの方、幼虫のときの7年間は、ずっと地面の中にいたのです。

もうすっかり暗くなった頃、団子虫が現れました。
「おい、こりゃあ、いくら捜しても、みつからないはずだ。
こんなところにいたなんて。
木の上になんか止まってないで、
早く、土の中に戻って来いよ。
しりとりの続きをやろうよ。」

セミは答えました。
「悪いけど、ぼくは、もう土の中には、戻らないよ。
だって、ぼくはセミになったのさ。
ぼくは、光の中で生きるんだ。」

団子虫は、ブツブツ言いながら、また土の中に戻って行きました。

(つづく)


ぼくはセミになったのさ(2)

2008-06-24 | 放蕩息子Part2
夕方、セミは、またその木のところに帰ってきました。セミになって、始めて見た、地上の世界のことを、あれこれと思い出していました。それというのも、生まれてこの方、幼虫のときの7年間は、ずっと地面の中にいたのです。

もうすっかり暗くなった頃、モグラが現れました。
「あれ、こんなところにいたのか。
ずいぶんと探し回ったぞ。
木の上になんか止まってないで、
早く、土の中に戻って来いや。
トンネルの続きを掘ろうや。」

セミは答えました。
「悪いけど、ぼくは、もう土の中には、戻らないよ。
だって、ぼくはセミになったのさ。
ぼくは、光の中で生きるんだ。」

モグラは、ブツブツ言いながら、また土の中に戻って行きました。

(つづく)