ヨナの福音こばなし帳

オリジナルのショート・ストーリー。一週間で一話完結。週末には、そのストーリーから人生の知恵をまじめにウンチクります。

木こりの娘(2)

2008-11-12 | 花さかじいさんII/ 木こりの娘
手にすると、それは上等な絹でできた、手の込んだ刺繍の入ったハンカチでした。

はっとして、娘は、立ち上がり、後ろを振り替えました。

藪の向こうに、白い立派な馬に乗った人がいるのが見えました。そのハンカチは、その人のものでしょう。取り出したハンカチが、風に飛ばされて、娘のところまで来たのに違いまりません。


娘は、ハンカチを持って、藪を抜けて、その人のところに進みました。

近づいてみると、白い馬に乗ったその人は、王子様でした。

娘は、何も言わず、手に持っていたハンカチを差し出しました。

王子様も、何も言わずに、娘が差し出したハンカチに手を伸ばしました。

そのとき、わずかに二人の手と手が触れ合いました。


王子様は、ハンカチを受け取ると、上品に会釈をして、そして、馬を進めて、森の中に消えて行きました。


娘は、その日以来、王子様のことが頭から離れません。でも、そんなことおとうさんやおかあさんに話しても、笑われるだけでした。なんといっても、相手は、王子様なのです。そして自分はと言えば、貧しい木こりの娘でした。

娘が、王子様のことを忘れようとすればするほど、王子様のことが思い出されてきます。おかあさんを手伝って家の仕事をしている時も、王子様のことばかり考えていました。森に木の実を拾いに入ったときには、いつもかならず、王子様に出合った、切り株のところに行きました。でも、王子様の姿を見ることは、再びありませんでした。

一年、また一年と、月日は流れましたが、娘の王子様を思う思いは大きくなるばかりでした。

(つづく)