ヨナの福音こばなし帳

オリジナルのショート・ストーリー。一週間で一話完結。週末には、そのストーリーから人生の知恵をまじめにウンチクります。

母の手(7)ウンチク編

2008-05-18 | 続どろんこハリィ/ 母の手 /復活の朝
教会と言えば、多くの方がすぐ思い浮かべるのが、十字架でないかと思います(ヨナの勝手な思い込みかもね)。アクセサリーになった十字架は、とてもバランスの取れた美しい形ですが、実のところ、これは死刑の道具なのです。ギロチンや電気椅子、絞首刑台と同類です。

イエス様は、十字架に、生きたまま釘付けにされました。復活されたイエス様の手には、その釘の跡がありました。イエス様が仮にどんなに十字架のことを忘れようとしても、忘れることはできません。その手には釘の跡が消えずに、あり続けるからです。

イエス様が、その手の釘の跡を見て、思い浮かべるのは、十字架の苦しみではありません。イエス様がいのちがけで愛する あなたのこと なのです。

「キリストは、私たちのために、ご自分のいのちをお捨てになりました。それによって私たちに愛がわかったのです」(ヨハネの手紙第一 3章16節)

イエス様が十字架で経験された苦しみ、痛み、そして死は、本来、あなたがあなたの自身の罪のゆえに身に負うべきものです。イエス様は、それを、あなたに代わって、受けてくださいました。

「しかし、彼は、
私たちのそむきの罪のために刺し通され、
私たちの咎のために砕かれた。
彼への懲らしめが私たちに平安をもたらし、
彼のうち傷によって、私たちはいやされた。
私たちはみな、羊のようにさまよい、
おのおの、自分かってな道に向かって行った。
しかし、主は、私たちのすべての咎を
彼に負わせた」
(イザヤ書 53章5―6節)

それほどまで、イエス様に愛されていながら、私たちは、イエス様の愛を疑います。「イエス様は、私のことなんか、気にかけていない。忘れてしまっている。どうでもいいんだ」そう思うことがあります。

そんな時、言葉でなんと説明されても、聖書をどんなに勉強しても、頭でどんなにイエス様のあなたへ愛を知ったところで、本当の解決にはならないでしょう。

イエス様の手に、十字架に釘つけにされた、その跡があることを思い出してください。

イエス様があなたを忘れることは決してありません。その手には釘の跡が消えずに、あり続けるからです。イエス様が、その手の釘の跡を見て、思い浮かべるのは、イエス様がいのちがけで愛する あなたのこと です。


「女が自分の乳飲み子を忘れようか。
自分の胎の子をあわれまないだろうか。
たとい、女たちが忘れても、
このわたしはあなたを忘れない。
見よ。わたしは手のひらに
あなたを刻んだ」
(イザヤ書 49章15-16節)


次回からは、新しいストーリーです。アクセスしてくださいね。

母の手(6)

2008-05-17 | 続どろんこハリィ/ 母の手 /復活の朝
「右手?」
ミンは、おかあさんの手に目をやりました。

おかあさんも、自分のつぶれた右手に目を落としながら、言いました。

「あれは、あなたが歩き始めて しばらくした頃のことでした。
歩くのを覚えたあなたは、歩くのが楽しくて、家の中をヨチヨチしていました。
そんなあなたを横目で見ながら、かあさんは、手仕事をしていました。
あなたが玄関の柱に手をかけて、外をのぞくようにしていた、
ちょうどその時、
突風にあおられて、重たい扉が、閉じようとしました。
かあさんは、あなたを守りたい一心で、あなたのところに飛び込みました。
重たい扉が、あなたの手をはさむ前に、間一髪、かあさんの手が扉と柱の間に入りました。
鈍い音を立てて、重たい扉は、かあさんの右の手を挟みました。
でもあなたの手は、小さかったから、無事だったんです。

だから、この、つぶれた右手を見るたびに、あなたのことを思い出します。

この右手がある限り、
忘れようとしたって、私にあなたのことを 忘れるなんてことはできやしない」



「かあさん、ごめんなさい。僕が誤解していました。僕を赦してください」

「いいんですよ。こうして立派になったあなたと会うことができたんだから」

それから、ミンは、おかあさんと一緒に幸せに暮らしました。そして、おかあさんのつぶれた右手を、何より誇りにしていました。

(週末は、このストーリーから、人生の知恵をまじめにウンチクります。)

母の手(5)

2008-05-16 | 続どろんこハリィ/ 母の手 /復活の朝
おかあさんは、静かに話し始めました。

「切符を買う長い列をずっと並んで、やっと切符を手にして、お金を払っている間に、私は、かばんを盗まれてしまった。それで、駅の警察署に行きました。ところが、警察署で、泥棒扱いされてしまって、留置所に入れられたんです。翌日、間違いだとわかって釈放されたときには、あの場所に、あなたの姿はもうなかった。

必死になって探しましたよ。でも見つからなかった。

ここにいれば、いつか、きっと会えると思って。ただあなたの無事を願いながら、あれから毎日、かかさずここに来ていました。

この右手がある限り、私にあなたのことを 忘れるなんてことはできやしない」

おかあさんは、左手で、あのつぶれた右手をさすりました。

(つづく)


母の手(4)

2008-05-15 | 続どろんこハリィ/ 母の手 /復活の朝
その婦人は、立ち上がりました。ミンを見る目は、潤んでいます。何か言いたげですが、ことばはありません。


ミンが、口を開きました。
そして、あっさりした口調で言いました。

「かあさん・・ですか。小さかった僕を、荷物と一緒に 駅で捨てた。

ひとりで待っている間、僕がどれほど、不安だったかわかりますか。置き去りにされたとわかったとき、どんなにショックだったか。

あの後、荷物はみんな、おとなたちにかっぱわれてしまった。自分が着ていたもの以外、何もなかった。同じような境遇の子どもたちと一緒に、道で生活しましたよ。いつもおなかをすかせていた。食べるためには、何でもやった。少し稼ぎができると、それを狙う大きい子どもやおとなたちがやって来た。渡さないと、散々殴られた。それでも、なんとか生き延びました。

見てください。今では、一人前の商人です。

なにも、今頃になって、僕の前に現れるなんて」


おかあさんは、驚いた様子で、ミンを見つめました。
そして、言いました。

「私が、あなたを捨てた? そんなこと、あるはずがありません」

(つづく)

母の手(3)

2008-05-14 | 続どろんこハリィ/ 母の手 /復活の朝
年月が流れました。
戦争は終わりました。

駅にひとり取り残されたミンも、なんとか生きるすべを得て、おとなになっていました。頭の良かったミンは、小さな商売から始めて、だんだん成功し、立派な商人になっていました。


ある日、ミンは、仕事で旅をするために、あの駅に行きました。

駅の周りには、露天で小さな店を出している人たちがたくさんいました。食べ物もあれば、着る物、生活雑貨、何でも売っています。

ミンは、列車の中で食べるものを買おうと、あれこれ見ながら、ゆっくり歩いていました。

すると、不意に、後ろから声がかかりました。

「あの、もしや、ミン・・じゃないかい・・・」

ミンが振り返ると、わずかの野菜を地面に広げて売っている、くたびれた姿の初老の婦人がいました。

「ミン・・だね。やっと会えた。かあさんだよ。ここにいれば、いつか、きっと会えると思っていた・・」

(つづく)