ヨナの福音こばなし帳

オリジナルのショート・ストーリー。一週間で一話完結。週末には、そのストーリーから人生の知恵をまじめにウンチクります。

だから言ったのに(7)ウンチク後編

2006-08-20 | だから言ったのに/ ケンタの舟
判断の甘さは、結果の重大さを理解していないときに、起こりやすいのです。たとえ失敗したとしても、たいしたことにならない、と思うと、「するべき選択」ではなく、忠告に逆らってでも「自分のしたいこと」を選びたくなるわけです。

絵の具を片付けることで、ケイにどういうことが起こるか。ケイが一人で料理すると、キッチンがどういうことになるか。知識が十分にないケイがアンプを操作すると、どういうことが起こりえるか。免許を取って喜んでいるケイが、無事にドライブを終えて、そして無事に車庫に車を入れたら、どういうことが起こるか。看護婦として慣れないケイが、医療の現場で失敗したら、どういうことになるか。

ケイは、その結果の重大さがわかっていなかったので、自分勝手な判断、甘い考えを起こしたわけです。そして、ケイの失敗は、ケイが思ってもいないほど、重大なことになりました。


「だから言ったのに」と言って、だれかが尻拭いをして、それで何とかなる失敗もあります。けれども、だれにもなんともできないことも起こりえるのです。

私たちは、毎日、いろんなことを、判断し、選び、決定しています。何時に起きるか。まず歯を磨くか、トイレに行くか、それとも食事をするか・・。中には、とても大事な選択もあるのです。失敗したら、だれも尻拭いできない、取り返しのつかない、そんな結果をもたらす選択もあります。もしかしたら、それほど大事だと思わなかった選択が、あなたの一生を左右することになるかもしれません。どの決定が、それほど大事なのことか、今のあなたにはわからないのです。

だから、いつも、考えましょう。あなたの選択は、何に基づいていますか。あなたの決定は、あなたにいのちをもたらすでしょうか。

私は、きょう、あなたがたに対して天と地とを、証人に立てる。私は、いのちと死、祝福とのろいを、あなたの前に置く。あなたはいのちを選びなさい。
(申命記 30章19節)


次回からは、新しいストーリーです。アクセスしてくださいね。

だから言ったのに(6)ウンチク前編

2006-08-19 | だから言ったのに/ ケンタの舟
ストーリーでは、いつも最初はいいのですが、最後で大失敗のケイ。いつも誰かが尻拭いです。何とかなる失敗はまだいいですが、そうばかりでもなかったですね。

失敗の原因は、もちろんケイにあるわけです。おねえさんも、おかあさんも、おにいさんも、おとうさんも、看護婦の先輩まで、ケイのことをちゃんと理解しているから、あらかじめケイが失敗しないように言葉をかけていました。そして、ケイもその言葉を忘れてしまったわけではありませんね。いつも思い出すのです。

ところが、ところが、です。ケイは、その言葉に従わないで、自分でいいと思って、しないように言われていたことをやってしまうわけです。

それで結果は、ご存知のとおり。

こういうことって、私たちにもあると思いませんか?

ダメだって言われていたのに、自分ではいいと思ってやってしまう。そしてやっぱり失敗して、誰かにその尻拭いをさせる。

「だから言ったのに」って、済ませられるあいだはまだいいですが、そんなことを繰り返していると、そのパターンが身についてしまいます。そのうち取り返しのつかない失敗をすることになります。

(次回は、解決の糸口をウンチクります。)

だから言ったのに(5)

2006-08-18 | だから言ったのに/ ケンタの舟
ケイは、看護婦学校を卒業して、念願の看護婦さんになりました。そして、病院に勤めるようになりました。

病院で実際に患者さんに接するのは、学校で習ったのとは、だいぶ様子が違います。実習もありましたが、ケイは、まだまだ慣れないことがたくさんありました。

ケイは先輩の看護婦さんと組になって、働いていました。その先輩は、とても親切な人で、ケイをいつも気づかってくれました。

「注射は、あなた、せんでええからね。私がするから。そうやないと、きっと大変なことになるから。」

その日は、いつになく、患者さんがいっぱいで、そして注射を受ける人がたくさんいました。先輩は大忙しです。どんどん、どんどん、待つ人が多くなります。ふたりでやれば、2倍早く進みます。

ケイは、先輩の言ったことを思い出しました。

「注射は、あなた、せんでええからね、って言っとったな。でも、私、看護婦学校もちゃんと卒業したし・・」

ケイは、自分でも注射をすることにしました。お医者さんの出した注射の処方箋と、カウンターに用意されいる注射の薬を確認して、学校で習ったとおりに、注射器に薬を入れました。とてもうまくいきました。そして、待っている患者さんに声をかけました。

「ちょっとチクッとしますけど、痛くないですからね。」

ケイは、そう言いながら、ニコッと笑って、自分の緊張をほぐそうとしました。狙いをよーく定めて、思い切って患者さんの腕に浮き出ている血管に「ブスッ」と注射針を差し込みました。患者さんは、ビクッとしましたが、とりあえず、うまくいっているようです。

ケイはシリンダーをゆっくり押し込んでいきました。かなり緊張して、手が震えましたが、なんとか、無事、終えることができました。

「ほら、私、ちゃんとできるやん。」

ケイは、ホッとして、そしてウキウキしながら、注射針を患者さんの腕から抜きました。

「はい、もう終わりましたよ。」


ところが、その患者さんは、目を白黒させて、倒れてしまいました。

先輩が、そのことに気がついて、飛んできました。

「だから言ったのに。」


その患者さんは特別なアレルギー体質で、注射によって急激なアレルギー反応を起こして、倒れたのです。ケイは、患者さんの苗字だけを確認して、名前を確認しなかったので、他の人に出された薬を注射してしまったのでした。そして、その患者さんは、数日後に亡くなりました。

(週末は、このストーリーから、人生の知恵をまじめにウンチクります。)

だから言ったのに(4)

2006-08-17 | だから言ったのに/ ケンタの舟
ケイは、自動車教習所を卒業、筆記試験にも無事一発でパスして、念願の運転免許を手に入れました。家には、おとうさんの自動車が一台あるだけです。でも、おとうさんは電車通勤で、普段は、車庫に置かれています。

ケイはおとうさんに頼みました。すると、おとうさんは「使ってもええよ。」と言ってくれました。

「ただ、車庫には入れんでエエから。戻ってきたら、家の前に停めときなさい。そうやないと、きっと大変なことになるから。」

ケイは、一人で、ドライブに出かけました。運転席から見る町は、助手席から見るのとは、また違った眺めに見えます。とは言っても、運転をするのに精一杯で、ほとんど景色は目に入りませんでした。制限時速を守って、赤信号では必ず止まって、安全運転で、ドライブしました。

ケイは、そろそろ、家に帰ることにしました。そこで、せっかく用意していたお気に入りのCDを持ってきたのに、かけていないことに気がつきました。帰り道では、そのCDをかけました。が、運転するのに精一杯で、まったく耳には入りませんでした。

さあ、無事、家に着きました。そこで、おとうさんの言ったことを思い出しました。

「車庫には入れんでエエから、って言っとったな。でも、私、卒験でもちゃんとできたし・・」

ケイは、自分で車庫に入れることにしました。教習所で習ったことを思い出して、目印になるポールを探しましたが、家の車庫にはそんなものはありません。

「まあ、こんなもんか・・な・・」

かなり緊張しましたが、何度も前に行ったり、後ろに行ったりしながら、なんとか、無事、車庫に入れることができました。

「ほら、私、ちゃんとできるやん。」

ケイは、ホッとして、そしてウキウキしながら降りようと、思いっきりよくドアを開けると、ドアは、鈍い音を立てて、壁にぶつかりました。


夜、おとうさんが帰ってきました。

「ケイ!!!」

おとうさんが叫んでいます。

「私、安全運転でドライブしてん。ほんで、ちゃんと車庫入れもできてんで。ほんで、うれしくて、ドアを開けたら・・・」

「だから言ったのに。」

その後、おとうさんが何を言っていたか、ケイにはよく聞き取れませんでした。おとうさんは、頭を抱えたまま、口の中でグチャグチャ言いながら、そのガツンとへこんだドアを眺めていました。

しばらくして、おとうさんは、新しい自動車に買い換えました。(たしか、アルファ・ロメオと言っていました。)一番のお気に入りを、思い切って買ったそうです。

(つづく)

だから言ったのに(3)

2006-08-16 | だから言ったのに/ ケンタの舟
ケイのおにいさんは、ギターを弾きます。ケイは、おにいさんから、ギターの弾き方を習っていました。最初は、指が痛かったのですが、毎日練習するうちに、だんだん、慣れてきました。でもまだへたっぴです。

ある日、おにいさんは、新しいギターを買ってきました。これまでのヤツは、木の箱みたいで、真ん中に穴が開いていました。(たしか、おにいさんは、アコースティックとかテイラーとか言っていました)。今度のヤツは、見た目は小さいのですが、重いのです。色は黒と白で、真ん中に穴はなく、その代わりに、出っ張ったものが3つ付いていました。(たしか、ストラトと言っていました。)

おにいさんは、新しく買ってきたギターを弾いて見せてくれました。ところが驚いたことに、音がとても小さいのです。ケイは心配して、言いました。

「おにいさん、このギター壊れてるんちがうん。取り替えてもうたら。」

おにいさんは、笑いながら、ギターに線をつけて、線の反対側を新しい箱につなぎました。(たしか、アンプと言っていました。)すると、今度は、とてもカッコイイ音がします。エリック・クラプトンみたいな音です。(内緒ですが、それは音のことで、おにいさんは、それほど上手ではありません。)

ケイが頼むと、おにいさんは、いつでも弾いていいと、言ってくれました。

「ただ、弾くときは、アンプにはつながんとって。そうせんと、きっと大変なことになるから。」


ケイは、一人で、おにいさんの新しいギターを弾いてみました。前のよりも、ずっと指が楽です。ケイは、いろいろやっていました。が、やっぱり音が小さいので、物足りません。

ケイは、おにいさんの言ったことを思い出しました。

「弾くときは、アンプにはつながんとって、って言っとったな。でも、これやったら、音がよーわからへんし・・」

ケイは、ギターをアンプにつなぐことにしました。線をつないで、アンプのスイッチをONにしましたが、音が出ません。たしかに、ランプがついているので、電気がきていることはわかります。

「たぶん、ボリュームが、小さすぎやねんわ。思い切って、全部フルテンにしてみよ。」

それから、ケイは、ギターのほうのつまみも全て全開にして、そして、ギターを力いっぱい弾きました。すると、アンプは、爆音を立てたかと思うと、煙を上げ、また、音が出なくなりました。

「ケイ。どないしたん。」

おにいさんが、その爆音を聞いて、飛び込んできました。

「私、自分の音が聞いてみたかってん。そんで、アンプにつないだら・・」

「ケイ、これは古いチューブ・アンプで、スイッチを入れても、しばらくせんと、音が出ーへんWWW・・・LLRREIJFOHOWIBOHFOGWUYOEWY・・・。」

その後、おにいさんが何を言っていたか、ケイにはよく聞き取れませんでした。たとえ聞き取れたとしても、意味がわからないことばが多すぎて、理解できなかったでしょう。とにかく、そのアンプは、使えなくなってしまいました。

しばらくして、おにいさんは、またアンプを買いました。(たしか、ツイン・リバーブと言っていました。)一番のお気に入りを、思い切って買ったそうです。

(つづく)