『名も無く豊かに元気で面白く』

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黒田総裁の“「緩和策あと2、3年維持」”で「伝家の宝刀」を切ってしまった政府・日銀

2022-09-28 07:38:46 | 日記
止められない円安、巨大な市場をコントロールできない
「当面というのは数カ月ではなく、2~3年の話と考えてもらっていい」--。大規模な金融緩和策の維持を決めた金融政策決定会合直後の記者会見で「当面、金利を引き上げるようなことはない」と強調した直後、日銀の黒田総裁が付け加えたひと言は日銀総裁の発言の重要性を語るエピソードとして末永く語られることになるのだろうか。
あの直後、歴史的な水準にあった円安が一段と勢い付き、政府はついに24年ぶりの円買い介入に踏み切らざるをえなかった。日本時間の翌23日未明、国連総会で演説するため、米国訪問中の岸田総理はニューヨーク証券取引所での会見後の質疑で、この介入に触れて、「投機による過度な変動が繰り返されることは決して見過ごすことはできない」と指摘。「過度な変動には断固として必要な対応をとる」と強調した。
日銀が緩和策を維持することを前提に、経済運営に政府・日銀が結束して取り組む姿勢を強調したのである。政府・日銀の一枚岩は維持されているように見える。
しかし、専門家の間では、主要国の中で唯一マイナス金利を保ち、内外の金利格差の拡大が続く中で、こうした介入が円高に向かうきっかけになるとの見方は皆無に近い。むしろ、介入を繰り返せばその効果が薄れるとか、原資となる外貨準備には限りがあり巨大な市場をコントロールすることは難しいとの見方が溢れている。
「伝家の宝刀」を使ってしまった以上、円が歴史的な安値水準への道を辿るリスクは限りなく大きくなっている。
次の総裁の手足を縛る発言
現在2期目の任期中にある黒田総裁は77歳と高齢だ。来年4月8日に今の任期が切れた後、続投できるとの見方はほとんどなく、市場では日銀OBを軸に展開するとみられる次の総裁選びの行方に関心が移っている。
そうした中で、金利の引き上げについて、2、3年はないと考えてもらった方が良いという黒田総裁の22日午後の発言は、次の総裁の手足を縛る発言だ。市場はこの言葉に敏感に反応して、外為市場では一時1ドル=145円台後半という24年ぶりの円安水準を更新。政府・日銀はこの日夕方、1998年6月以来、24年ぶりとなる円買い・ドル売りの為替介入に踏み切った。夜になって、財務省で記者会見を開いた鈴木財務大臣は、為替が原則として市場で決まるものだと前置きしつつ、「投機による過度な変動が繰り返されることは決して見過ごすことができない」と述べ、介入を正当化した。 
エコノミストの間ではこのところ、円の安値の目途について「1998年の1ドル=147円66銭」と「1990年の1ドル=160円20銭」の2つが有力になっている。「1ドル=147円66銭」を割り込めば、次は「1ドル=160円20銭」が視界に入ってくるため、22日に1ドル=146円に迫ったところでなんとか押し戻しておきたいというのが、政府・日銀のハラだったのだろう。そのため、介入に踏み切ったものと推察される。
だが、為替介入に市場の流れを変えるほどの力はなく、ほとんどが一時的なけん制で終わるというのが過去の教訓から得た経済の常識のひとつだ。特に、ドル売り・円買い介入は、日本にとって原資となる外貨準備に限りがあり、巨大な市場をコントロールすることが難しいという問題がある。
過去の介入も成功していない
ちなみに、原資となる外貨準備は8月末時点で約1.29兆ドル(185兆円)程度。これに対し、国際決済銀行(BIS)の2019年4月調査によると、日本の外国為替市場の1営業日あたりの平均取引高は約3700億ドルで、外貨準備のすべてが介入に投入できるわけではないものの、全部投入しても3日分しか外貨準備はない計算になる。
実際、過去の介入も成功には程遠い。これまで最後の介入となっていた1998年の4月と6月の「ドル売り・円買い」介入は、効果が乏しかった。基調としての円安にピリオドが打たれたのは、同年8月のことだ。ぞの原因は、介入ではなく、ロシア危機があらわになったことだったとされている。
加えて、鈴木大臣の会見ほど、介入の弱々しさを感じさせる会見も珍しかった。というのは、介入が単独か米政府との協調介入かと問われて、「関係する通貨当局とは常に連絡を取り合っている。何をもって単独かということもあるが、日本の立場の理解のため各国とは常日頃連携をとっている」と述べ、回答を避けたからである。
その数時間後には、米当局は日本のメディアの取材に応じ、「米財務省は為替介入には参加していない。日本の当局は為替介入は最近の円のボラティリティー(変動)の高まりを抑えるのが目的だと述べており、我々は日本の行動を理解している」と述べたという。
すぐ実情がわかることなのに明言を避けたのは、協調介入に比べて単独介入は力不足の感が免れないことを、鈴木大臣が自覚していたからだろう。足元を見透かされかねない物言いだった。
黒田総裁の「2、3年」発言の是非
一方で、政府・日銀は日本の景気の弱さを金融緩和維持の大義名分としている。中小企業が経営危機に瀕しかねないというのだ。
だが、金利が上がれば、発行額の膨大な国債の利払い費が膨らんで財政難に陥りかねない政府の懐具合や、流動性の供給のためとして国債を市場から吸い上げて多くを保有している日銀の含み損発生リスクの存在が、政府・日銀が緩和策に拘る理由との見方も絶えない。
さらに、市場から退場すべきゾンビ企業を延命させる結果になっており、長年の金融緩和の弊害は明らかだとの指摘もある。とっくに、金融政策の正常化が必要な時期が到来していたとの声も少なくないのが現状なのだ。緩和策そのものへの疑問符も尽きないわけだ。
そうした中で、今後、是非を問われかねないのが、黒田総裁の「2、3年」発言だ。黒田氏本人としては金融緩和維持に対する強い決意を表現したかったのだろうが、余計な一言だったとみなされても仕方がない。為替介入しか残されていない状況では、この「伝家の宝刀」をできる限り温存して、市場のけん制に使い続けるべきだったからである。結果として、円安を加速してしまった以上、「言わずもがなの一言だった」という批判が強まっても何ら不思議はない。
いずれにせよ、米国で異常なインフレが鎮静化して政策金利がピークアウトするのは来年末以降というのが、現下の市場やエコノミストの一般的な見方だ。それまでは円安の最大の原因である日米金利格差の拡大が止まるとは考えにくい。
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