米国初の女性大統領を目指す民主党カマラ・ハリス副大統領(60)と、返り咲きを狙う共和党ドナルド・トランプ前大統領(78)が争う大統領選は、11月5日の投開票まで1週間。最終盤も大激戦が続き「勝敗予測は不可能」な情勢だ。 11月の米大統領選は異なるビジョンの衝突であり、その結果は今後何年にもわたって米国経済に及ぼすとみられる影響を4業種に絞って取り上げる。
①大手銀行
米国の大手8行は、金融ショックへのクッションとして求められる資本要件の引き上げに直面している。資本要件引き上げは、自社株買いや配当を通じて株主に還元できる資金が減ることを意味する。各行は、新たなルールは消費者や企業への融資抑制にもつながると主張している。
ハリス氏が勝利すれば、2008年の金融危機を受けた国際的な銀行の新資本規制「バーゼル3」の最終化実施規則を米当局が前進させる公算が大きい。米金融規制当局が新たにまとめた資本規制強化案では、バンク・オブ・アメリカ(BofA)やゴールドマン・サックス・グループ、シティグループ、JPモルガン・チェースなどが求められる資本増強は9%になる。ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)によれば、民主党政権の場合、2025年7-9月(第3四半期)までにこの要件が最終決定される可能性は60%。
一方でトランプ氏が勝利すれば取り組みは先送りされ、最終的には内容も大幅に弱まるだろうと、専門家は指摘する。トランプ氏は他の多くの分野でも金融セクターへの規制を緩和する方向に傾くとみている。
②EV
テスラやリビアンといった電気自動車(EV)専業メーカーや、EV技術に大きな投資を行っているゼネラル・モーターズ(GM)などにとって、大統領選の結果は大きな意味を持つ。
ハリス氏が勝利すれば、新車のEV購入への最大7500ドル、中古EV購入への4000ドルの連邦税控除は続く公算が大きい。一方でトランプ政権となれば、「バイ・アメリカン」政策の強化を通じてEV税控除は廃止もしくは縮小される可能性がある。実際にトランプ氏は、EVを優遇するバイデン政権の政策を「大統領就任初日」に終わらせると明言している。
テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)がトランプ氏支持の姿勢を明確にして以来、同氏はEVに関するレトリックをいくぶん弱めた。それでも選挙運動では、「EV義務化」というレッテルを貼ってバイデン政権の政策を攻撃している。
専門家はクリーンエネルギー産業への補助金などを廃止するには、上下両院で共和党が過半数を占める必要があると指摘。ただ、トランプ氏が大統領令などの権限を行使し、規制変更を通じてこうした措置を制限する可能性はあると語った。
③小売り
トランプ氏が勝利すれば、消費財への急激な関税引き上げで小売業者は圧力を受けそうだ。関税は販売量と利益率の両方に打撃を与える恐れがあり、とりわけ中国からの輸入品への影響が最も大きいと専門家は指摘する。
トランプ氏は全輸入品に一律20%、中国からの輸入品には最大60%の関税を課すとしている。それに対する貿易相手国の報復などにより、関税の引き上げ合戦になる可能性もある。米国アパレル・フットウエア協会(AAFA)によると、米国で販売される衣料品の97%が輸入品であり、靴やその他の履き物も98%を輸入に頼っている。全米民生技術協会(CTA)によれば家電製品は90%超が輸入品だ。
国・地域別で見ると、中国からの輸入品が圧倒的に多い。各業界団体の調査では、輸入衣料品の3分の1以上、靴など履き物の半分余り、ノートパソコンの79%、スマートフォンの78%、ビデオゲーム機の87%が中国製となっている。
ハリス政権になった場合、トランプ氏が計画しているような一律の関税引き上げは行わず、特定の分野や製品、輸出規制に重点が置かれる公算が大きいとみている。
④エネルギー
石油、ガス、石炭の生産者は、トランプ氏が勝利した場合にはさまざまな経路で恩恵を受けるとみられ、共和党が議会支配権も獲得すればさらに追い風が吹くだろう。
対照的に民主党がホワイトハウスと議会を支配すれば、クリーンエネルギー生産者が恩恵を受ける。トランプ氏が当選した場合、特に脅威にさらされるのは洋上風力だろう。