中国の王毅外相が歴史的な訪問と位置付けている『米中首脳会談』が9/25行われます。崩壊の危機がある中国経済問題やサイバー攻撃問題や人権弾圧問題、南シナ海や東シナ海での埋め立て問題、領海問題などが議題に上るはずです。さらに失脚した中国の共産党の大物政治家、令計画氏の弟で米国に亡命している元国営新華社通信記者の令完成氏が、国内から共産党の機密資料約2700点を持ち出しており米国内の不正蓄財700億円を放棄する代わりに身柄の返還を要求しており、米国がどう対応するのか注目されます。機密書類が本物で700億円以上の価値があるということでしょう。米国としては目先の問題が山積しており、中国側が要求している内容がはっきりしない「新型大国関係」を表明する訳にはいかないでしょう。いずれにしてもどのようになるかで世界情勢に多大な影響を与えます。
以下コピー 中国の習近平国家主席は9月にアメリカを訪問し、オバマ大統領と公式会談を行う予定である。世界情勢は不確実性が増しており、このタイミングでの米中の首脳会談が特別な意味を持つものになることは間違いなさそうだ。
2010年、中国経済は日本を追い抜いて世界で2番目の規模を誇るまでになった。米中は「G2」として世界を牽引するようになるとも言われ、中国はアメリカに対して「新型大国関係」の構築を提案している。しかし、新型大国関係が具体的に何を意味するのかははっきりしない。アメリカは中国とどのように向き合うべきかを模索しているが、結論は出ていない。
中国が提案する新型大国関係にストップをかけたのは、ロシアによるクリミアの併合である。ロシアは、親ロシア政権が倒されたクリミアに進入し、事実上クリミアを併合した。それに対して欧米諸国は対ロシア制裁を強化している。厳しい経済制裁を受けているロシアは中国に急接近し、中露関係はいっそう緊密になった。一部の研究者は現在の世界情勢を「新しい冷戦構造」とまで表現している。
ただし、中国は自らの立ち位置を決めかねている。ロシアに傾倒し、アメリカと距離を置きすぎると、さまざまなリスクが発生する。習主席は米ロの間でバランスを取ろうと努力している。
中国のアメリカに対する態度と本音
中国政府はことあるたびに官製メディアを動員してアメリカを批判する。だが、中国人は根っから反米的というわけではない。習主席自身も娘をハーバード大に留学させていた。
ただ、個人の感情と国益は話が別だ。米中はイデオロギーと価値観をめぐり激しく対立している。中国共産党は、アメリカ人から「信じるに値しない政治勢力」だと見られている。中国共産党の側は、アメリカは常に共産党政権を転覆しようとしている、と警戒している。中国がもっとも恐れているのは、CIAが中国でジャスミン革命を引き起こそうとしているのではないかということである。
中国の政府系シンクタンクの研究者の多くが米中関係を定義するときにいつも喜んで使う表現がある。それは「相手に我あり、我に相手あり」というものだ。要するに、米中の相互依存関係が日増しに強まっているということである。政府御用達の研究者であっても、アメリカと本気で対立したくはないのだ。
しかし指導部の中には、中国の強さを明確に示さなければ米中は本当の新型大国関係を築けないとの考えが根強い。9月3日に行われた抗日戦勝70周年記念の軍事パレートは、対日関係ではなく対米関係が主軸だった。これは習主席にとって危ない賭けであった。というのもアメリカの空母を撃沈できるとされる新型ミサイルをお披露目したからである。中国はかねてより軍拡に走っていると批判されているが、中国はその都度、平和的台頭であると主張し批判をかわしてきた。しかし、今回の軍事パレートで図らずも軍拡路線が証明されてしまった。
なぜ習主席はこのような賭けをしたのだろうか。
1つは中国国内へのメッセージである。すなわち、2年前に習主席は中華民族の復興を国民に約束した。パレードにおいて最新兵器を展示したことで、習主席の公約が実現されていることを示したのである。もう1つはアメリカへのメッセージだ。すなわち、中国はアメリカと共同でG2という新型大国関係を構築する十分な力を備えているとのアピールであった。
中国は本気で対米関係を改善したがっている
オバマ政権は残りの任期がもうわずかだが、中国という大国をどのように取り扱ったらいいのか、いまだに方針が定まっていない。
人権や自由という価値観の違いについて、アメリカは中国にクレームをつける。だが、貿易については中国とできるだけ利益を共有しようとしてきた。米中の産業構造は競合する要素が少なく補完的だからである。
アメリカ国内では、アメリカ人の雇用機会が中国に奪われているとの批判が依然として根強い。だが、アメリカは中国製品の輸入を減らせばインフレ再燃の心配が出てくる。一方、中国は近年、人民元を切り上げ人件費も上昇している。その中でアメリカ市場の重要性はますます高まり、まさに米中は相互依存の様相を強めている。
また中国は、オバマ政権のあとに共和党政権が誕生する可能性が高まっていることを警戒している。共和党政権が中国に厳しいということは、今までの米中関係の歴史で実証されている。だからこそ、習主席は本気で対米関係を改善しようとしている。
習近平はどこまで妥協するの
中国は大国であるが、強国ではない。経済力は強化されているが、政治は依然として不穏な状況である。
習主席は今回の訪米を利用して、なんとしてでもアメリカと新しい関係を築こうとするだろう。具体的にはアメリカと利益を共有することで中国の内政の安定を担保する。逆に、今よりもアメリカとの関係が厳しくなれば、内政はさらに不安定化することになる。
習主席がオバマ大統領との首脳会談で何について譲歩するのかが注目される。人権弾圧問題、南シナ海や東シナ海での埋め立て問題、領海問題などについて、中国が大きく譲歩することはないだろう。だが、さまざまな活動を短期的にトーンダウンさせることでアメリカからの批判をかわそうとするだろう。
米中が利益を共有できる分野は国際貿易と直接投資である。習主席はアメリカへの利益提供として、飛行機などの買い付けを行うと思われる。米中が確固とした信頼関係を築くことはないだろう。だが、ぎりぎりのところで正面衝突は回避されるものと思われる。 柯 隆 氏 富士通総研