ソードアート・オンライン(6) ファントム・バレット (電撃文庫) 価格:¥ 662(税込) 発売日:2010-12-10 |
読了。
なんつーか普通。良くも悪くも普通のお話。
このフラットな感想の原因はどこにあるのかなーと考えると、結局、僕は今回題材になっている「GGO」というネトゲの仕様にあまり魅力を感じなかったんだなと。や、僕がこの作品に感じていた魅力の大部分は、「非常にリアルなネトゲ世界を舞台にしている」というところと、「キリトが俺TUEE主人公である」というところにあったのですよ。で、これまで舞台になっていた「SAO」や「ALO」は、読んでいて「自分もこのゲームをプレイしてみたい」という気持ちになったんですけど、「GGO」は物語の展開のために用意されたバトルフィールドという印象ばかりが際立ってしまい、特にプレイしてみたい気にならなかったんですよね。なので、前者の魅力に関してはごっそりと失われているように思えました。ぶっちゃけ兵器とかに興味ないから、実在の銃の名前とか特徴とか書き連ねられてもクドいだけなんだよなー。
あとは、物語がリアルの方に傾きすぎてしまったのも、個人的には減点材料だったり。
今回は物語そのものがシンプルな構図だったこれまでとは違い、凝った話にしようという試みが随所に見られ、5巻の時点から「果たしてネトゲ内で撃った相手をリアルで殺すことが可能なのか? 可能だとすればどのような仕組みになっているのか? そして犯人は?」と含みを持たせた伏線がバラ巻かれていて、多少なり〝謎解き〟の要素が組み込まれていました。キリトとシノンの前に立ちふさがる死銃のキャラネームにもトリックが仕込まれていましたし、一つのエピソードを通して「展開の中でミスリードを誘いつつ、ネトゲとリアルが交差する事件を描く」ことはできていたんじゃないかなと思います。このへんは『アクセル・ワールド』の1巻から現れていた、川原さんの非凡な構成力がいかんなく発揮されていました。
ただ、じゃあそういった凝った仕掛けが面白さに繋がっていたかというと、僕はあまりそういう風には感じなかったんですよね。完成度の高い話が全て面白いわけではないというのは何とも皮肉ですけど。
すげえ身も蓋もないことを言うと、キャラクターの心情がサッパリ理解できないです。同様に、そうしたキャラクターたちが生活する作中世界の倫理というかモラルというか、設定、ルールのようなものに頭がついていきません。
6巻では導入で和人と直葉のやり取りが描かれますけど、もうこの時点でシリアスとコメディのさじ加減がおかしいんじゃないかとすら思いました。いきなりすごく深刻ぶって「ネトゲを通じて人を殺したこと」をトラウマとして扱うのは何だかよくわからないし、その事実を話して聞かせただけでシノンが「キリトは私と違って強い、すごい」って持ち上げまくるのもよくわかりません。
なんていうんですかね。一言に俺TUEEと言っても色々あると思うんですよ。そしてバトルの勝敗などのわかりやすい描写で俺TUEEを書くのと比べると、もっと深い部分の俺TUEEを書くのって難しいと思うんです。いわゆる心や精神の強さみたいなものって、上手く書ければめっちゃ盛り上がりますけど、下手すると興ざめしてしまう部分でもあるわけで。そういう意味で、直葉や看護師さんに優しい言葉をかけられた程度でケロッと立ち直って、ゲーム世界で意気揚々と活躍するキリトの描かれ方は、なんだか薄っぺらい感じがしてしまいました。
作中で持ち上げられているほど魅力を感じない、という乖離が主人公に起きてしまうのはキツイです。『STAR DRIVER』じゃありませんけど、主人公が魅力的だとご都合主義にも盛り上がることができるんですが、主人公に魅力を感じないとご都合主義を見て気持ち悪くなってしまいます。
よって、ネトゲ世界の楽しさも俺TUEE要素もそぎ落とされてしまった『SAO』に、僕はあまり魅力を感じませんでしたという結論に至る。
以下雑感。
・これまでは歪んだエリートが最終ボスだったから今回は社会不適合者にしよう! みたいな。んー。なんかもっとこう、「普通の人」を敵役に据えられないものか。正直この作品って、ラスボスになるのが精神に異常をきたしている人ばかりだから倒したときの爽快感に欠けるんだよなあ。事件がゲーム絡みってこともあり、作者自身が「ゲームをやってる人は異常者」という偏見の持ち主なんじゃないかと邪推してしまう。俺は自覚してるんですよー的な。
・で、そうした「異常者」を基本人生勝ち組なのにドロップアウト気取りのキリト君がブチ倒すってのは、『乃木坂春香の秘密』や『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』に見られた「社会的弱者(=オタク=読者)を〝救われる〟ヒロイン側に置き、カッコイイ主人公に〝救わせる〟(肯定させる)ことによるカタルシスを狙う構図」を彷彿とさせてちょっと辟易としてしまう。
・ちゅうかコレ毎回書いてる気がするけど、MMORPGやゲーマーの書き方が極端すぎるよね。正義のプレイヤー(でも異常にネトゲに執着してる)と悪のプレイヤー(同様に異常にネトゲに執着している)だけじゃなくて、ゲームはゲームと割り切って気楽に楽しんでるキャラがいたほうが面白いと思う。尺的に厳しいのかもしれないけど、物語に深みと説得力を持たせるために、ヒーロー(とヒーローに心酔する信者)と異常者という両極だけではなく、おそらく一番多く存在するであろう一般プレイヤーをもっと描くべき。それがこの作品の一番の弱点。主人公たちの特殊性を前面に出した構成になっているのに、一般プレイヤーの描写がないせいで、主人公たちの特殊性が全く際立たない。これって『アクセル・ワールド』でも同じなんだよなー。
うーん。
もう続きは読まなくてもいいかな。
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