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玉川上水 花マップ

玉川上水沿いの主な野草の生育地図を作ります

「木をしらべる」 小平の都道予定地の樹木調査の報告

2023-10-22 22:13:57 | 調査
小平市の中央公園の東側に南北に走る道路(小平都市計画道路3・2・8号府中所沢線、通称「小平都市計画道路328号線」)が計画されています。これが開通すれば公園の東側にある「どんぐり林」と玉川上水の樹林が失われることになります。道路予定地は36メートル幅とされているので、この樹林に何本の樹木があるかを知っておくことが必要だと考えて、このうち玉川上水の部分について調査を行いました。調査には子供を含む多くの方に協力いただきました。

方法
 場所は図1の通りで、計画される「328号線」は府中街道の西側を南北に走ることになります。


図1. 調査地の地図(東京都の説明会資料を改変)

 道路幅は36 mなので、玉川上水の該当部分の40 mの範囲とし、玉川上水沿いの歩道と柵内をカバーしました。なおその北のどんぐり林では道路予定地の幅は32 mで、ここには220本の樹木があるそうです。
 玉川上水の歩道沿いでは胸高周を1 cmの精度で測定しましたが、柵内は危険もあるので、長さ1 mの横棒の中央に長さ2 mの軸をつけたT字状の塩ビ管の測定具を用いました。横棒には10 cmごとに目印をつけ、樹木に近づけて直径を読み取りました。2 m以上離れた樹木については不正確さは避け難いですが、予備調査により誤差はさほど大きくないことを確認しました。対象としたのは、高さ1.2 mでの太さが1 cm以上のものとしました。株立している場合は最も太い幹を選び1本だけを測定し増した。

結果
 この範囲に26種、123本の樹木が確認されました。40 m幅ありますから予定道路幅の36 mよりはやや広いですが、工事の仕方によってはあるいはこれより広い範囲が伐採されるかもしれません。
 樹木ごとの直径を太いものから細いものに並べると図2のようになりました。


図2. 直径を太いものから細いものへと並べた図

 この図ではイヌシデ、クヌギ、コナラの3種を取り上げ、その他は区別しないで「その他」としています。最も太いのはイヌシデの直径56 cmでしたが、イヌシデで多かったのは直径10-20 cm程度の木であり、太いものにはクヌギとコナラが多く、樹種ごとの平均値はクヌギが42.0 cm、コナラが33.5 cm、イヌシデが18.4 cmでした。
 左岸と右岸で樹木に違いがあり、樹木の本数では左岸ではシラカシ、イヌシデが多く、コナラ、エゴノキなどが続きました(図3)。シラカシは細い木が多く、図2では右側に集中していました。これに対して右岸ではシラカシは少なく、イヌシデが最多で、ネズミモチ、コナラなどが続きました。


図3. 樹木本数の右岸と左岸の比較

 断面積を見ると、左岸でも右岸でもコナラが最大で、左岸ではクヌギ、イヌシデの順でしたが、右岸ではイヌシデが多く、クヌギは少数でした(図4)。


図4. 樹木の断面積の右岸と左岸の比較

 両岸の断面積の合計はコナラが40%、イヌシデが30%、クヌギが23%で、この3種で93%と大半を占めました(図5)。


図5. 両岸の合計断面積の内訳

まとめ
 328号線予定地の玉川上水部分は玉川上水全体から見ても状態の良い樹林があります(図6)。

図6. 328号線道路予定地の樹林

 この樹林には26種、120本ほどの樹木が生育していることがわかりました。この北側には道路を挟んで小平中央公園があり、「どんぐり林」と呼ばれる樹林があり、この一部も道路予定地です。

玉川上水の北側の小平中央公園の樹林のうち、道路予定地。現在、立ち入り禁止。ここの樹木の健全状態を調べて、段階によって違う色のテープがはられている(青木さん撮影)。

 東京都(建設局)によると、この夏に樹木医がここの樹木の健全度を判断した樹木が220本あったそうです。これを合わせると、328号線ができると、300本を大きく上回る樹木が失われることになります。

 今回私たちが調べた玉川上水の樹林の主要種はコナラ、イヌシデ、クヌギの3種で、これらが樹冠を形成し、その下にシラカシ、ネズミモチなどの常緑広葉樹などが生育しています。
 低木層にはムラサキシキブ、マユミなどが多く、キンラン、シュンランなど希少種を含め、多様な草本類も生育します。玉川上水全体では種子植物だけでも520種余りの野草が確認されています(玉川上水花マップ・ネットワーク資料)。また、この樹林では鳥類も84種の生息が確認されており(大出水資料)、これは皇居の鳥類相に匹敵します(西海ほか, 2014; 黒田ほか, 2017)。ことに森林性の鳥類が多く、それはこの豊かな樹林があることに起因します。
 一方、小平市はコゲラを「市の鳥」に選定しました(小平市立図書館 こちら)。その選定理由は小平の豊かな自然を象徴するものであるからとしています。私たちが小平、小金井、三鷹、杉並の4カ所で鳥類調査をしたところ、小平が最も豊富で、コゲラも最も多いことが確認されました(高槻ほか, 2023)。

玉川上水沿い4カ所でのコゲラの発見数の比較(高槻ほか 2023より)

キツツキがいることで、木に穴があけられ、それによって他の鳥類や昆虫が生息可能になって森林の多様性が豊かになることが明らかにされてます(Aitken and Martin, 2007など)。
 このようなことを考えると、この場所に道路が開通することはこの樹林の生物多様性に非常に深刻なダメージを与えることが想定されます。その意味で、私たちは、道路開通はすべきでないと考え、生物多様性の保全を重視する東京都にも(こちら)、コゲラを「市の鳥」とし、自然の豊かさを重視する小平市にも、この計画を見直すことを期待します。

謝辞 調査には以下の方にお手伝いいただきました。ありがとうございました。
青木計意子、市川 優、稲葉 希、上野かほ、上野やすこ、上野コウタ、尾川直子、岸 國男、作道ゆみこ、作道はな、笹川代志恵、澤口節子、関口隆彦、田村英和、中島光理、中島美知江、長峰トモイ、韓、丸山愛子、水口和恵、リー智子
10月8日に参加された方はお名前をお知らせください。takatuki@azabu-u.ac.jp

文献
黒田清子・小林さやか・齋藤武馬・見恭子・浅井芝樹 2017年 2013 年 7月から 2017 年 5月までの皇居の鳥類相.「山階鳥学誌」49: 8-30

高槻成紀・鈴木浩克・大塚惠子・大出水幹男・大石征夫 2023年 玉川上水の植生状態と鳥類群集.「山階鳥類学雑誌」55: 1-24

西海 功・黒田清子・小林さやか・森さやか・岩見恭子・柿澤亮三・森岡弘之  2014年 皇居の鳥類相(2009年6月-2013年6月).「国立科博専報」50: 541–557.

Aitken, K. E. H. and K. Martin. 2007. The importance of excavators in hole-nesting communities: availability and use of natural tree holes in old mixed forests of western Canada. Journal of Ornithology, 148: 425–434

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