今更留学記 Family medicine

家庭医療の実践と、指導者としての修行も兼ねて、ミシガン大学へ臨床留学中。家庭医とその周辺概念について考察する。

事前指示(Advance Directive)

2007-10-29 05:14:57 | Weblog
「厚生労働省 終末期の治療法 意思確認に診療報酬」

ちょうど事前指示の話を書こうとしていたら、タイムリーなニュースが目に飛び込んできました

事前指示を文書化しておけば、診療報酬を払うという仕組みを2008年度の診療報酬改訂で実現する方針のようです

ミシガンのフェターズ先生の外来に、事前指示について相談したいと受診した高齢男性がいらっしゃいました

米国の事前指示にはLiving will(生前の意思)Durable Power of Attorney for Health Care(代理人への委任)の二通りがあります。

前者は、「どのような治療を受けたいかを、ある程度具体的に表明しておく事」です

厚生労働省が勧めているのはこちらです

日本でも入院前に事前指示書をとる病院も増えてきています

項目の例としては
  • 心臓が止まっても心臓マッサージは希望しない
  • 人工呼吸器は希望しない」
などです

ただ、どこまで細かく決めていくかは難しいところです

例えば

「植物状態になり、回復の見込みが薄いときは,いっさいの延命治療を希望しない」

と決めた場合

  • 回復の見込みが薄いとはどの程度?
  • いっさいの延命治療とは何?
  • 肺炎になったら抗生剤(ばい菌を殺す薬)も使わないのか?
  • 食事をとれないとき点滴もしないのか?

いいだしたらきりがありません

文書化してしまう事によって、予期しない事が起きたときに、本人が希望しない治療方針を医療者がとる可能性もあります

例えば、

進行がんで余命6ヶ月と宣告された65歳の男性

まだまだ元気で、これから身辺整理をしようとしていた矢先に、のどに餅を詰まらせたとします

「いっさいの延命を拒否する」という意思表明を根拠に、この男性はいっさいの治療をしてもらえない可能性もあります

ある程度細かく事前指示を決めていても、想定外のことは起きるものです

そういった事をふまえてフェターズ先生は「代理人への委任」を強く勧めていました。

本人が意思表明をできなくなったときに、「本人だったらどうして欲しいと希望するだろうか?」

ということを代弁してくれる代理人(大抵は家族)を法律で決めておくのです

ただし、この場合重要なのは、代理人と本人が事前によく人生,死生観,死に方等についてよく話し合っておくことです

特に以前も書きましたが人工呼吸器の取り外し等の決定の場合は、本人が生前具体的に語っていた具体的な言葉を根拠に、代理人が治療方針を決定します

日本では「代理人への委託」を法で規定していませんので、身近な家族が意思決定をする事が多くあります

家族の中で誰が判断するか決まっておらず、混乱はしょっちゅうです

また生前の本人の意思が確認できていないと、家族が「本人ならどう希望するか」ではなく「自分がどうして欲しい気分か」で意思決定をしている事が多いように感じます

いずれにせよ、

「家族同士で死に際についてよく話し合っておく」

ことが日米共通の結論のようです

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