今更留学記 Family medicine

家庭医療の実践と、指導者としての修行も兼ねて、ミシガン大学へ臨床留学中。家庭医とその周辺概念について考察する。

プライマリ・ケアって何?

2009-04-07 00:12:22 | 家庭医療
卒後臨床研修で語られる「プライマリ・ケア能力の習得」

家庭医療などが掲げる「プライマリ・ケア」

実は、別のものをさしているのですが混同されているのが困ったところです

定義としては、以下に詳しいのですが


定義の違いを認識するにはIOMによる定義をみると、分かりやすいです

以下引用
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  • The care provided by certain clinicians―Some proposed legislation, for example, lists the medical specialties of primary care as family medicine, general internal medicine, general pediatrics, and obstetrics and gynecology. Some experts and groups have included nurse practitioners and physician assistants (OTA, 1986; Pew Health Professions Commission, 1994);
  • A set of activities whose functions define the boundaries of primary care―such as curing or alleviating common illnesses and disabilities;
  • A level of care or setting―an entry point to a system that includes secondary care (by community hospitals) and tertiary care (by medical centers and teaching hospitals) (Fry, 1980); ambulatory versus inpatient care;
  • A set of attributes, as in the 1978 IOM definition―care that is accessible, comprehensive, coordinated, continuous, and accountable―or as defined by Starfield (1992)―care that is characterized by first contact, accessibility, longitudinality, and comprehensiveness;
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つまり初期臨床研修における「プライマリ・ケア」とは3番目の、病院などにおける「初期対応」のことをさしています

一方で、家庭医療などで掲げるプライマリ・ケアとは1、2、4番目のことであり、地域において主にcommon diseaseを対象として、ACCCCACCCAを掲げた包括的な診療のことです

さらに言えば、後者は初期臨床研修の中では、地域医療の枠として学ぶものです

そして、前者の初期対応は、初期研修である程度習得するものですが

後者は初期研修の2年間で習得できるものでは到底無く、これ自体を「専門性」として考え、

家庭医療学会では「後期研修」としてさらに3年間の研修が必要だとしているわけです

そういった定義をふまえて、m3.comから引用です

山下先生が定義されている「ファースト・エイド」はまさに本来、初期研修が習得目標とするべき「プライマリケア」であり、

このあたりの定義の混同による、現場の混乱がみてとれますが

山下先生がおっしゃっている内容は、私も大筋賛成です

<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<(以下引用)

今の臨床研修目標はレベルが低すぎる-山形大学医学部付属病院長・山下英俊氏に聞く◆Vol.1

学ぶべきは「プライマリ・ケア」ではなく「ファースト・エイド」

2009年4月6日 聞き手・橋本佳子(m3.com編集長)


 2010年度から卒後臨床研修制度の改正が予定されている。(1)必修科目を7科から、内科、救急医療、地域医療に削減、(2)都道府県別に研修医の募 集定員の上限を設定――が見直しのポイント。この見直しを研修の担い手である大学病院や臨床研修病院のトップはどう見ているのだろうか。  厚生労働省の医道審議会医道分科会医師臨床研修部会の委員を務める、山形大学医学部付属病院長の山下英俊氏に聞いた(2009年3月26日にインタ ビュー)。

写真
「総花的なプログラムのため研修目的がはっきりせず、悩んでいる研修医は多い」と指摘する山下英俊氏。

 ――まずは現行制度の評価すべき点、あるいは問題点をお教えください。

 2004年度の臨床研修の必修化以前は、各病院が独自に研修をしており、研修目的がはっきりしていなかったのですが、今の制度になり、「これを教えよう」と研修目標が明確になった点は評価できると思います。

 もう一つ、評価すべきは身分が安定したこと。2年間は給与が出るため、アルバイトをしなくても生活ができ、研修に専念できるようになりました。

 ――その研修目標自体は、適切であるとお考えでしょうか。

 そこが重要で、研修目標が明確になったことはいい点でもあり、一方で問題点でもあるのです。つまり、研修目標を低く設定しすぎたと思っています。

 社会が必要としているのは、幅広く基礎的な知識や技量を持ち、その上で高度な医療ができる医師ではないでしょうか。研修の必修化以前は、この高度、あるいは専門特化した医療しかできない医師、“専門バカ”しか育ててこなかったという反省があります。ただし、この点に異論を唱える人もいますが。

 やはり各専門分野のスペシャリスト、名医は必要です。しかし、このような医師にも、ある程度の広がりを持った医療をしてもらいましょう、というのが研修の本来の目的であるとすれば、まず「自分がどういう医師になるか」が明確になっていなければなりません。

 コモンディジーズが多い一方で、高度な医療、難しい病気も世の中には数多くあります。両者を一番頭が柔らかく、一番鍛えなければならない時期に経験する必要があります。しかし、「難しい病気はいいです。簡単な病気だけを診ていればいいです」というのが今の研修目標であり、なぜわれわれは社会のために苦労してがんばっているか、その部分が飛んでしまっています。高度な医療はチームで取り組む必要があり、多くのスタッフが手間をかけ、時には悩みながら実践しています。その姿を若い人に見せなければならない。それが次の世代を育てることにつながるのです。

 ――「ある程度の広がり」は、今の研修目標では獲得できないのでしょうか。

 今の研修目標は、「挿管ができる」「注射ができる」といった程度で済ませています。それでは、レベルが低いのです。

 当大学の嘉山孝正医学部長も言っていますが、研修理念に「プライマリ・ケアの基本的な診療能力を身に付ける」という表現を使ったからよくない。初期研修の2年間で学ぶべきは、「ファースト・エイド」(first aid)です。つまり目の前の患者さんが今、どんな状況にあり、何の治療をすべきか、脳外科医あるいは心臓内科医を呼べばいいのか、こうしたことを判断して、例えば、スペシャリストが来るまでの15分の間、初期治療を行うのがファースト・エイドです。

 ファースト・エイドを的確に行うには、コモンディジーズだけではなく、難しい病気も、自らは治療ができなくても、すべて知っておくことが必要です。コモンディジーズの患者さんだけが目の前に来るわけではありませんから。

 ――様々な疾患についての知識を持ち、鑑別診断をするのは非常に難しいことではないでしょうか。

 その通りです。高度な医療まで全部含めて教育しないと、鑑別診断ができるようにはなりません。

 もう一つ、今の制度で問題なのは、総花的に様々な研修を取り入れたプログラムになっている点。皆に、「2年間、必ず幕の内弁当を毎日食べなさい」と言っているようなものです。毎日、総花的なことをやらされていたら、「自分は何のために今、この科で研修をしているのか」、研修の目的がはっきりしません。研修医たちが今、一番、悩んでいるのはこの点です。

 医学生の時代には、「将来、こんな医師になろう」といろいろな本を読んだり、先輩たちに話を聞いたりしています。しかし、今の研修制度では、医学生時代に描いた目標が直線的に実現の方向に向かわない。「将来、これは役に立つ」という意味づけがはっきりしていれば、つらくても一生懸命研修します。自分でイノベートさせていくものです。

 しかし、今の研修制度は“横並び”でプライマリ・ケアをやらされているわけです。確かに将来の自分の専門とは関係ない分野を学ぶことは必要ですが、医学 部時代に、CBT・OSCE(共用試験)で総合的な知識を問う試験をやっています。臨床実習でも各科を回ります。さらに今の国家試験には問題はあります が、あらゆる分野を浅く広く勉強するという担保はなされています。

 それなのになぜもう一度、臨床研修で総花的な研修をやらなければならないのでしょうか。人によって食べ物に好みがあるように「私はこれをやりたい」と言ったら、それに合わせたプログラムを提供すべきでしょう。よく言われることですが、「私は昔、臨床研修で1カ月産婦人科を勉強しました」という医師に、お産を任せることができますか。

 医師になって最初の2年間は非常に大事な、クリティカルな時期。感 受性、吸収力、そして向学心に優れる。しかも元気。その時期に、知識や技術だけではなく、医師としての倫理感、人生観もたたき込まなければいけない。こん な大切な時期に、目的もなく「グルグル」、短期間でいろんな科を回る。結局、将来の目標がぼやけてしまい、落ち着いて勉強している実感がなく、だんだん無 気力になってしまうのが現実です。

 教える側も目的がはっきりしていないから、何を教えていいのか、分からない。お互いに目的が分からないのに、「研修プログラムがこうなっていますから、一緒に研修しましょう」というのでは、モチベーションは下がるばかりです。

 ――「プライマリ・ケア」という言葉は曖昧です。先生が言う、プライマリ・ケア、あるいはスペシャリストの定義は何でしょう。

 本当の意味でのプライマリ・ケアは、目の前の患者に何が必要かの見極めができること。そのためには、きちんとした研修を積む必要があります。つまり、プライマリ・ケアあるいは総合医の「専門医」ももちろんいます。この専門医は、非常に博識で、どんな病気でも診断はできる。しかも自分では治療はできない場合は、的確に別の専門医を呼ぶ。「コモンディジーズだけ診るのが、総合医」というのは大きな間違いです。

 しかし、今の2年間の研修が目指しているのは、「専門医としての総合医」とは全く違います。研修終了後も、「専門医としての総合医」のレベルまではいかなくても、ファースト・エイドができるようにもなっていない。

 ――では、ファースト・エイドの知識・技術を身に付けるためには、どんな研修をすればいいのでしょうか。

 ファースト・エイドの一番のコンセプト、つまり一番重要なのは「命を助けること」です。眼が痛いとか、腰が痛いといった訴えへの対応も重要ですが、一番大切なのは命。命を助けるための知識・技術を考えれば、必要な研修は、外科、救急、麻酔といった辺りではないでしょうか。

 今、議論されている研修の見直しでは、内科と救急医療、地域医療が必修ですが、内科ではなく、必須とすべきなのは外科。外科といっても、消化器外科、循環器外科、脳神経外科などのメジャーな外科。手術の場合は必ず、全身管理を行うからです。内科は全身管理をしているようで、意外とやっていない。「目の前で患者が倒れた」といった場合にどうするか、やはり対応できるのは外科です。内科ではダメと言っているのではなく、外科の方がよりファースト・エイドを学ぶにはふさわしいということ。厚労省の会議でも「外科ではなく、内科を必修にするのは納得できない」と何度も言ったのですが、全く相手にされなかったですね。

 命を助けるために、様々な知識や技術のインテグレートのさせ方、考え方を勉強するのが、ファースト・エイドの眼目です。そのために必要なものは何かをアレンジすればいいのです。さらに言えば、「ファースト・エイドを学ぶという目的がはっきりしていれば、必修科目を定める必要がない、どの科で学ぶかは本来関係ない」という議論もあります。

 ファースト・エイドをきちんと学んだ上で、残る研修期間は自分が将来専門とする診療科での研修やその関連分野の研修をやる。例えば、将来、糖尿病専門医を目指すとしても、糖尿病性網膜症を診るために眼科でも研修するというイメージです。

 つまり、初期研修で一番優先すべきなのは、ファースト・エイドの研修。それ以外に自分の専門分野やその関連をアレンジしていけば、おのずから研修プログラムはでき上がります。