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◇企業システム◇ワイズマンがわが国最大規模のクラウド・コンピューティングITインフラを導入

2008-11-12 16:52:39 | ユーザー

 【ユーザー】新日鉄ソリューションズは、介護・福祉事業者向け業務システムのトップ企業・ワイズマンと、第4次ASPサービスを新日鉄ソリューションズのユーティリティサービス「absonne」で構築することで合意したと発表した。同ASPサービスは、数百台のサーバー、数十テラバイトに及ぶ大規模ミッションクリティカルなシステムであり、商用のクラウド・コンピューティングITインフラとしては日本最大規模の案件となる。新日鉄ソリューションズは、自社内に設立したグリッド・ユーティリティ・コンピューティングの検証施設「NS Solution Grid/Utility Computing Center(NSGUC)」を利用し、データセンター上に大規模グリッド環境を構築して、統合ユーティリティ・データセンター・サービス「absonne(アブソンヌ)」として07年10月からサービスを開始している。 (08年10月23日発表)

 【コメント】クラウド・コンピューティングは、これからの企業システム構築には欠かせないツールとして大きく浮上してきた。丁度、Linuxを中心としたOSS(オープンソースソフトウエア)の嵐が巻き起こった時と似たような状況になろうとしている。クラウド・コンピューティングの登場の前提となったのは、仮想化、グリッド・コンピューティング、SOAそれに全世界に張り巡らされたインターネット網など、最新の技術成果によるものであることは論を待たない。そしてその突破口を切り開いたのがSaaSのリーディングカンパニーを自認するセールスフォース・ドットコムの事業の成功である。これもOSSの場合のLinuxの成功にそっくりだ。実はLinuxは当初誰もこんなにうまくいくとは想像もしていなかった。インターネットにより全世界の技術者が共同でOSづくりに参画するという夢みたいな話は、そのうち崩壊するさと多くの人は高をくくって見ていた。ところがLinuxが完成し、普及し始めるとびっくりし、今度はコードを盗んではいないかと躍起になって探したが、何も出てこなかった。そしてOSSは市場に完全に定着した。

 SaaSのセールスフォース・ドットコムの場合も、当初これほど普及することを多くの人は予想もしていなかった。企業ユーザーは大切なCRMデータをそんなに簡単に外部に出しはしないさと、ここでも高をくくって見ていたが、今回もセールスフォース・ドットコムやネットスイートなどのSaaS企業の躍進の前には脱帽せざるを得なかった。この結果、今ではSaaSを内包したクラウド・コンピューティングについてIBMやマイクロソフトなど既存の大手IT企業はこぞって“われこそはクラウド・コンピューティングのリーダーカンパニーだ”となりふり構わず、声高に自己主張し始めている。しかし、OSSの場合は実態が伴っていたが、クラウド・コンピューティングの場合は、まだまだ、検証事例が少なすぎて、企業経営にどれほど有効なのかがもう一つ分かりづらい。セキュリティは大丈夫か(米国では既に事故が発生している)、コストは初期投資は安く付くが、運用コストまで含めると自社開発した場合に比べどうなのか、アプリケーションまでクラウド・コンピューティング化するとシステムの企業間格差がつけずらくなるのでは・・・、などなど素朴な疑問が頭をよぎる。

 今回発表されたワイズマンの事例は、新日鉄ソリューションズのクラウド・コンピューティングITインフラ「アブソンヌ」を使ったわが国最大規模のシステムとなる。新日鉄ソリューションズは以前からグリッド・コンピューティングには力を入れてきたので、技術的には問題はないであろう。コスト的にはユーザーのITインフラコストを20%以上削減すると新日鉄ソリューションズではいっているが、これが初期投資なのかランニングコストを含めたものなのかは不明。いずれにしても、今後、クラウド・コンピューティングが進展すると、これまでITの恩恵を受けづらかった中小企業が、最先端のIT技術を容易に活用できるようになることだけは確実にいえるであろう。(ESN)