遙かなる透明という幻影の言語を尋ねて彷徨う。

現代詩および短詩系文学(短歌・俳句)を尋ねて。〔言葉〕まかせの〔脚〕まかせ!非日常の風に吹かれる旅の果てまで。

現代詩「幽霊教室」(近世編)

2010-07-25 | 現代詩作品
幽霊教室(近世編)



夢の儚さ
近世の文芸作品などに登場する
幽霊はいろんな習癖がある
中国から流れてきた
雲は、流れる霊気という
不可思議な力を表現するものであったという
近世の
雲は、他界と現世を結ぶ通路のようなもの
教室には金斗雲が漂い始めて
睡魔に襲われながら、…

一人の生徒は、、
 足がないだけではなく腰から下もなかったという(太平百物語)
つぎの生徒は、
 出現する時に下駄の音をさせる霊もいるという(怪談牡丹灯籠)
そのつぎの生徒は、
 人間の魂に形を与えられた故、斬られて赤い血を流す(加婢子)
…先生は、
 ほほえみながら肯いている


一人の生徒は、
 生臭い物ことに魚の臭いをきらうもの、と思います(雨月物語)
つぎの生徒は、
 亡霊も喉がわかいて水をもとめるもの、と思います(諸国百物語)
そのつぎの生徒は、
 そのうえ一日に千里を行くことができる、ものです (雨月物語)
…先生は、
 すこし憮然としている

一人の生徒は、
 しかも遠くへ行く為に馬に乗ることもあるそうです(雨月物語)
つぎの生徒は、
 死んだ時のまま成長もなければ老いもないそうです(雨月物語)
そのつぎの生徒は、
 そのため長生きした妻と不釣り合いとなり、のちに死んだ妻と一
 緒にこの世に出現したときに夫は二十四、五歳、妻は六十歳余り
 という事態もありました(保古の裏書)
…先生は、
 なぜか顔をあからめている

一人の生徒は、
 解任したままに死んだ女が、自分の力で体内の子を産み落とせず、
 通りかかった見知らぬ男に自分の腹をつき破ってくれるように頼
 みこんだといいます(太平百物語)
つぎの生徒は、
 母親の亡霊はこの世に残した幼い自分の子に乳をのませることが
 できるものです(加婢子) 
その次の生徒は、
 幽霊となった女が現世の男につれそって、その男の子を生むこと
 もあるということです(諸国百物語)
…先生は、
 しきりに女生徒を気にしている

一人の女生徒は、
 幽霊がまだ生きていると信じている人の目には、生前の姿を見せ
 るが、すでに死んでいることを知っている者の眼には、骸骨だけ
 がうつる、そうです(三十石よふね始)
つぎの女生徒は、
 女の亡霊は、契りをかわした恋人の前だけには、そのかたちを見
 せるが、およそかかわりなどのないひとにはまったく見えないこ
 ともある、そうです(加婢子)
最後の女生徒は、
 恨みある主人にだけ血しぶきの怪異を見せる召使いの女の幽霊も
 いる、そうです(太平百物語)
…先生は、
 しばらくこたえず、

流れる霊気がなぜ女性のみを取り込んでしまうのか
近世人の虚空に浮かぶ浮遊華、
だからとは、云わずに
先生は、超越的な存在の幽霊草をにぎり
金斗雲にのって消えたという
夢の儚さ 

                *参考(「日本の幽霊」諏訪春男著)


*今朝はいくぶん涼しく感じますが、日中はどうなることやら。

江戸時代の幽霊については、まだ分からないところが多くあります。
当時の民衆の心理について、どなたか教えていただける方や、
適当なテキストをごぞんじないですか?