昨日3月1日、ロシアのプーチン大統領は議会人と有力スタッフなどを前に、恒例の演説を行った。日本的にいえば施政方針演説、アメリカ的にいう一般教書演説のようなもの。
Putin’s annual address to Federal Assembly (FULL VIDEO)
その内容は前半はびっちりロシア国内の経済、福祉政策の話。ここまででもロシアを立て直し人々が安心して暮らせるようにしたのはプーチン時代のことだと誰でも知っているわけだが、そこから今後どういう方針で、どの分野でどんな目標を持っているのかを縷々述べていた。
ここまででも、私としてはこんな人がリーダーだったらさぞや心強かろうと思っていた。
続いて、さて、と安全保障の問題に移り、そこから約1時間、延々と来し方と現状のご説明。
ソ連崩壊後、ロシアは周りの国々が独立したためソ連との比較でいえば、実際には各種総合して要するに半分ぐらいの国力の国になっていた。
(しかも、ここにハーバードボーイズなるインチキ経済学者連中が入り込んで経済を無茶苦茶にしていった。これはプーチンは語ってないが)
それに伴い、ソ連として各地に配備していた戦力も半減していた。つまり、とても弱くなったわけだから、アメリカがソ連はもはや敵ではないと考えた。
このへんで書いた話がもう少し詳しい
習:新時代だよ、プーチン:米を信じすぎたことが最大の誤り
2000年になると、息子ブッシュ大統領がABM条約を止めると言い出した。こんな頃。
この条約がどういうものかというと、こんな感じ。
ABM条約(Anti-Ballistic Missile Treaty)は、米ソ間で1972年5月締結、同年10月に発効した条約であり、戦略弾道ミサイルを迎撃するミサイル・システムの開発、配備を厳しく制限し、配備は各国とも当初2ヶ所(74年7月の議定書により1ヶ所、すなわち米国はノース・ダコタ州のICBM基地、ソ連は首都モスクワに限定)、1基地当たりの発射基及び迎撃ミサイルを100基以下とすること等を規定するものである。このABM条約は、いわば双方の「楯」を制限し、防御態勢を敢えて脆弱なものに保つことにより核攻撃を相互に抑止しようとする、いわゆる「相互確証破壊」(MAD: Mutual Assured Destruction)の考え方の基礎をなすものといわれていた。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kaku/beiro/abm.html
要するに、無制限に張り合わないで、限定することで相互確証破壊を成り立たせていた。つまり、これこそ冷戦が極端に恐ろしいことにならずにすんだ肝だった。
それをいきなりブッシュがやめると言い出した。ソ連がない以上、ロシアとパリティー(同等)にしておく必要はない、つまり、ロシアはアメリカのターゲットだ、というロジックですね。
ロシアは当然大反発をするが、聞き入れられず2001年12月31日、アメリカが破棄する。
まぁなんてか、アメリカの好き放題の時代が始まったわけです。ロシアを弱体化し、その上核で脅しているわけだからこそ成り立った。
(2007年のミュンヘン・セキュリティーサミットでプーチンが一極支配批判を行う。その翌年2008年グルジアでの戦争が来て、オバマ時代にはリビア、シリア、ウクライナの破壊が進む)
さらに、今度はロシアのまわりにミサイル防衛網なるものを作りだす。防衛という名前がついているのはまったくの冗談で、まったくの攻撃装置でロシアを脅すことに目的がある。
この装置が(名前と名目はそれぞれ適当にふられ)ルーマニア、ポーランドに設置され、極東では韓国、日本に設置されたか、されることになっている(プーチンは、ここでしっかり日本、韓国と言った)。
では、我々の状況はどうなのか、というところからロシアが開発、グレードアップしたミサイルを何種類かビデオ付きで説明した。
今日になってアメリカががーがー言いだし、その腰ぎんちゃくの日本も一緒になってがーがー言っているのは、この内容。ロシアは軍拡してる~とか、ロシアはINF条約違反だ~とかいう内容はすべて、これに対する抗議。
言うまでもなく、これを呼び込んだのは、15年間ロシアの抗議をまったく受け付けず、核戦争に勝てると思って邁進したアメリカとその子分たち。言ってももうどうしようもない。
■ ミサイル
で、その問題のロシアの反撃能力については、おおむね6つぐらい披歴していた。
プーチン大統領 最新兵器の実験成功を明らかに【動画】
https://jp.sputniknews.com/russia/201803024631206/
内容的には、去年末に書いたあたりの話が主軸といっていいかと思う。
もっと直接的に言ったのは、ポール・クレーグ・ロバーツの2週間ぐらい前の記事。
明日という日がこなくなるかも知れない
2017年10月28日
Paul Craig Roberts
例えば、アメリカ海軍は、ロシアの超音速対艦ジルコン・ミサイルで陳腐化させられた。
例えば、ロシアのサルマトICBMの速度と軌道の変化が、ワシントンの迎撃システムを無効にしてしまった。イギリスやフランスやドイツやテキサス州を破壊するには、一機のサルマトで十分だ。アメリカ合州国を破壊するのは、わずか一ダースで済む。
皆様はなぜこれをご存じないのだろう?
http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/2017/10/post-2afd.html
多分これも一極支配妄想のツケ:技術編
高速のミサイルも重要だが、やっぱりサルマトに組み込まれたFOBSが一番インパクトがあるんじゃないかと思う。去年末あたりではまだ、組み込まれているらしい、だったんだが、12月に実験したという話もあったのでこれで確定になったということでしょう。
で、だからこそソビエトは、地中海側のプレゼンスを守ってはいたが、なお、極東側と北極海側を開発して封鎖を回避する体制を作っていったのでしょう。ミサイル体制も対・封鎖ともいえるし、部分軌道爆撃システム(FOBS)なんかも、どうやって包囲を打ち破るかという考え方の極限のような気がする。これが最近のサルマト(R-28)が対応しているんじゃないかと言われているのも興味深い。つか、怖い。
シーア派三日月地帯もGIUKも、もうワヤですわ
それがどういうものかは、wikiにもある。この項目、今日付けではこうなっている。キャプチャしておいた(直されたりして、とか思って興味深く思ってるから ^^;)
この項目を読むと、結局たいして使えないから終わったんだみたいに読める。 「このような多くの難点があり、第二次戦略兵器削減交渉の妥結もあって、短期間で廃止された」というのが、思えばおかしな文章。難点があるなら放置でよいだろう。しかしそうはならなかった。それはあまりにも恐ろしいタイプなので戦略兵器削減交渉で話し合ってやめた、でしょう。そして、状態を固定していた根本の考え方は上でふれたABM条約の考え方、すなわち同等になっているから双方が危険、相手に勝てる(≒核戦争は勝ち抜ける)などとは思わない、なんですよ。
それをアメリカが勝ち誇って廃棄した(≒核戦争は勝ち抜けると判断した)んたんだから、ロシアとしたら持てる力をフルに活用して防衛する以外にもうない、となった。追い詰めたのはアメリカ(のネオコン)。
■ まったく有害だったネオコン妄想
今後の展開として、アメリカも新型を開発して軍拡になるのかといえば、まぁなることはなるんだろうけど、根本的に、相手(ロシア)のミサイルのラインナップを見れば、完全に相手の報復能力を無化することは不可能なんだから、行き着くところバランスさせる以外にありえない。つまり、核戦争を勝てると想定したネオコンの妄想は最初から無理でしたが、もっと無理になりましたという話。
別の言い方をすれば、子ブッシュ以降、この妄想に付き合わされ殺された各国民はまったくの犠牲者だということ。
ちなみに、私の認識では、安倍シンゾーなる人はネオコン一味に洗脳された人。この間、先制攻撃は勝てるんだみたいなことを言ってましたね。あれこそこの、核戦争は勝てる論なんですよ。
その意味は、相手は報復能力がない(劣ってる)と信じているということ。これは、一時期のロシアの状態を固定化して、理想化してしまったとも言えるでしょう(しかし、最弱であった時期のロシアに果たして本当に報復能力がなかったと言えるのかは実は謎なので、最初からいい加減な話だとも言える)。
■ 今日的意味
プーチンはこれから選挙があるからこんな大きな話をしたのだ、と多分西側メディアは書くだろうが、そんなことをしなければ勝てない選挙ではないので、ここでどうしてこの核・ミサイル戦略をこうまでフィーチャーしたのかは考えておく必要があるでしょう。
多分、シリア、イランを本気で攻撃しようとしている奴らがいる、という可能性を否定できないからでは?
それを思わせるのは、プーチンはロシアの核ドクトリン以上のことを言ったから。
ロシアの核ドクトリンはロシア連邦に対する攻撃に対してロシアは報復する、という話なのだが、プーチンは、ロシアとその同盟国と言った。ロシアにはもはやワルシャワ条約機構はないけど、多分、集団安全保障体制CSTOの加盟国(アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、タジキスタン)とシリアを指すのではあるまいか。
それかあらぬか、イランのPress TVは、同盟国への攻撃をロシアへの攻撃とみなすと言っていることに着目している。
Russia vows 'instant' response to nuclear attack on itself, allies
http://www.presstv.com/Detail/2018/03/01/553998/Russia-Vladimir--Putin-nuclear
■ 詐欺時代は終わりだ
で、全体としてこれだと思うわけですよ。
冷戦終結の多幸感を利用したツケを払うアメリカ
冷戦が終結したんだから、というトークをロシアを解体し弱体化させるためにのみ利用していた。自分の方は、積極的にあっちでこっちで民間人殺しをして、NATOをロシアの国境線までもっていって、さあてどうやって潰そうかな、みたいなことを延々やってるわけでしょ。
しかし、メディアはそこで、ロシアの反応を見せて、怒ったロシアを、あの人たちってほんと酷いわ、みたいにしてストーリーを作る。この詐欺的手法はもう通用せんよ、という話でしょう。
あるいは、
相互確証破壊(MAD)をアメリカが壊したが、プーチンとロシアのエンジニアたちが奮闘して強制MAD状態を作った、
というのが適切か。ただし、相当強いもの作っちゃったというのもホント。
もうひとつ、プーチンが強調していたのは軍人のことだけでなく「数千人の研究者、設計者、技術者の仕事ぶり」です。これは何回か繰り返していたように思います。上に挙げたケドミ氏もこのプーチンの言葉に反応し、普仏戦争の後、ビスマルクの言として、「勝利は将軍に依ってではなく、教師に依ってもたされた」と述べていました。軍事部門の優秀さは分かるけど、なら民生はどうなのかということがこの討論でも言われていましたが、これもロシアということでドイツみたいにはなれないと思います。
昨日のコメントでも書かせていただいた
なんとプーチンに密着取材!オリバー・ストーン監督が見た驚きの事実
ttp://gendai.ismedia.jp/articles/-/54111
という記事中にありましたが、プーチン氏は
>まず雄弁である。そして官僚や諜報機関からの報告書の要約に頼らず、資料はすべて原典を読むと言うだけあって細かな事実や数字に強い。
これは政治家、というかリーダーとして当然の行為だと思いますが、ここを敢えて強調するということは、意外とできていない人が多いのでしょうか。
「差別化というのは、誰もできないことをするのではなく、誰でもできることを徹底的にやることなのかもしれません。」と聞いたことがありますが、それを地で行っているのがプーチン氏なのかなと思います。
>歴史や文学に通じ、意外と流暢な英語を話す。
本やネットを見た限りですが、プーチン氏に限らず、ロシア人は歴史や文学、哲学や宗教、音楽に通じた人が多いと感じます。
もともと厳しい自然条件の土地で生まれ育ち、諸外国との行き来もままならなかったため、意識が自己の内面に向くようになったのか、
あるいは西欧列強に負けないため、物心両面に何が必要かを考え抜いた結果なのか、それは人それぞれなのでしょうが、
いずれにしても、帝政時代からのロシア人、特に知識階級の人文科系統の幅広い知識や、およそ人間、人生というものについての洞察力の深さ、そしてそれが現代のロシア人の中にも脈々と生きている事実には、尊敬の念を抱かずにはおられません。
そういえば、平昌五輪で銀メダルを獲得したメドベージェワ選手は、ロシアフィギュアスケート連盟のインタビューに応じ、
「(オリンピック後には)自分の内面ががらりと変わりました。オリンピックを経験したことで、以前は簡単とか難しいとかいう尺度でしか考えられなかったことが、違った感覚でとらえるようになりました。私はそんな人生を送りたいのだと、はっきりと認識するようになりました。(例えば?と聞かれて)それは個人的な感覚です。とても内面の深い部分の話です。表面的なものではありません。」
と答えていたそうですが、いかに世界を舞台に戦い続けてきたとはいえ、まだ18歳の少女がここまで自己の内面を吟味し、的確な言葉で表現できることに感嘆しました。
彼女もプーチン統治時代に生まれ育った人ですが、これも彼の政策の賜物なのでしょう。あれだけ叩かれても支持率が7割以上というのは、決して操作された数字ではなく、一般ロシア人の素朴な感情の発露だと思います。
私は生憎とこの番組を見ることができなかったのですが、こちらの記事
なんとプーチンに密着取材!オリバー・ストーン監督が見た驚きの事実
ttp://gendai.ismedia.jp/articles/-/54111
によると、オリバー・ストーン氏のインタビューは、アメリカの主要メディアからは概して酷評されたようですね。
特にコルベア氏の「20時間も彼(プーチン)と会って、嫌な面はひとつも見つからなかった? 愛犬でも人質に取られているのか?」というコメント、それを受けた観客の爆笑という反応には、怒りよりも戦慄を覚えました。
ストーン氏が実際にプーチン大統領に会って話をし、その結果自分はこういう印象を受けた、と率直に言ったに過ぎないことが、どうしてそのように捻じ曲げられてしまうのか不思議です。
(なお、書籍のタイトルは失念してしまいましたが、15年ほど前に読んだ日本人記者の取材記録では、プーチン氏は強面のイメージが強いが、実際に対面してみると意外に柔和で、青い瞳が印象的だったと評されていました)
米ソ、米ロ間には、冷戦時代以前から続く対立構造があるのは知っていましたが、それでもロシアについてはマイナスのイメージしか抱いてはいけない、批判的な意見しか言ってはいけないと言わんばかりの見えない圧力には背筋が冷たくなります。
あれほどロシアには言論の自由がない、民主主義的ではないと常日頃バッシングを重ねているアメリカですが、その内実がこうなのですから、一人ひとりが改めて、民主主義とは、人権とは、そして国の存続に必要なものは何か、今一度考え直すべきなのかもしれませんね。
朝日のことはどうでもいいんですが、ケドミ氏の議論はだいたいそうなんだろうなと私も思います。
しかし、そういう戦争じゃない、ひたすら民間人の居住スペースと人生を台無しにする方法の消耗戦には技術はいらないので、こっちをどれだけ続けられるのかが焦点となるんじゃないでしょうか。金は、日本とEUがいるのでまだまだあります(笑)。
https://www.asahi.com/articles/DA3S13384912.html
朝日によれば、当然( )の中はロシアな訳ですが、これを他国に置き換えても通じる文章です。単に演説を聴いていないのか、その意味が理解できないのか、或いは西側プロパガンダとして書いているのか分かりませんが、著しくバランスを欠き恥ずかしい文だと思います。この社説氏には是非、DEEPLY JAPANを読んで勉強して欲しいです。
一方ロシアのテレビ番組は、演説直後、各局特番を組み討論していました。僕が気に入ったのは、
https://www.youtube.com/watch?v=dr8CRXczC-k
イスラエルのケドミ氏は、「そもそも米国の戦略は2018-20年に圧倒的な戦略的軍備の優位性を実現することだった。それを信じていたのに突如、彼等の仕事は子供の遊びに過ぎなかったことが明らかになった。穴の開いた桶を塞ぐには、彼等の予定していた予算額を遙かに上回るものになるだろう。」
アメリカが「軍拡競争」に邁進し、破産国になる日がやってくるのでしょうか。
惜しむらくは、後編の録画を忘れたこと。後編の放送が終わった直後気が付き後の祭り。後編の動画、どこかにないかな。
聞き手はアメリカのオリバーストーン。
初めてプーチンの肉声を聞いた。
冷静に世界を見ている、経済にも詳しい。
ロシア人に対する愛情もさりげなく披露していた。
人柄だろう。
エリティンがプーチンを指名したのは何か感じたのだろう。
ゴルバチョフ、エリティン、プーチンと多種多様な個性がソビエト・ロシアから出てくる。
質の良いロシア小説を読んでいるようだ。
彼はシリア情勢・朝鮮半島情勢についても正確だろう。
プーチンをトランプと比較するのは失礼なことだ。
朝鮮半島から米軍が出て行くのはそんなに遠くないと感じた。
ムンジェインの力量ではプーチンとは話しできないだろうが朝鮮半島にとっては幸運が来たかもしれない。
朴大統領が亡くなって以来初めて政治家に興味を持った。
プーチンのいうユーラシア大陸の政治的安定を支持する。
オリバーストーンはすばらしい聞き手だ。