日本の報道機関って何ものなんだろうなぁとしばしば思うけど、今回も面白いことになっていた。
5月10日、ロシアのビクトリーデーの翌日にドイツのメルケル首相がロシアを訪問した話について、
朝日
独ロ首脳、戦没者の墓に献花 会談でウクライナ情勢協議
http://www.asahi.com/articles/ASH5B5CSZH5BUHBI00X.html
産経
「欧州平和への脅威だ」メルケル独首相がウクライナ介入非難 70周年式典欠席し翌日プーチン氏と会談
http://www.sankei.com/world/news/150511/wor1505110005-n1.html
朝日の方が普通ってか、正常。産経は、なんでそこにいちいちウクライナ介入非難を続けるのかまったく理解できない。
非難としたというより、今回も特に合意点はなかったという話か、or メルケルとでは発表できないという話だと思う。
基本は、もう1年以上前から話の分岐点は決まっていて、ロシア側は、(1) ウクライナでクーデータがあった、(2) そのリアクションとしてクリミア問題が来た、という順番で語っているのに対して、メルケルというよりアメリカのオバマ政権が、(1)を無視して、(2)が起こったとしている。
(2)から始めるから、ロシアが法を犯したと言い切れるわけね。(1)から始めると、欧米主導であることが目に見えているクーデーターを前にクリミアの基地を保全するのは当然だ、という考えに打倒性が発生するので、法を犯したのは一義的にロシアと言えなくなるどころか、そもそも他国(ウクライナ)で正統に選ばれた大統領を放擲するがごとき行動、すなわちクーデーターを支援したUS/EUに責任はないのか、という問題になる。
だから、(2)にこだわるしかないのが the West(西側)。
現状はしかしながら、まぁその、この問題を見ているほとんどすべての人がクーデーター(名称はともかく)の存在をしっているわけで、しかもその実行部隊は右派という名ももったいないようなゴロツキだし、それに金だしてるのはウクライナのオリガーキ軍団で、その上には欧米の大金持ち集団がいる、ってのももう公然の秘密。
したがって西側が取れる作戦は、そんなことはどうでもいい、とにかくロシアのプーチンは悪いのだ、と毎日毎日嘘でも捏造でもいいから書き立てることしかない。そしてその間に、NATOを通して軍事的にロシアに圧力をかけ、NGOを突っ込んでロシア国内でもウクライナみたいなクーデーターをさせて、ロシアを混乱させ、跪かせるというのが現在のオバマ政権の方針(方針なのかそれ?だが)。
要するに1年前から1ミリも進歩してない。
アメリカがソ連に見えた日
■ おかげさまでまとまってます by ロシア
しかしながら、このオバマ政権の中学生かあんたら的なバカな方針のおかげで、この1年でロシアはむしろ懸案事項をいろいろ片付けているようにみえる。その一つが、やっぱりソ連崩壊後にまとまりがなくなって、自身も失って・・・となってきた国のアイデンティティーを整備していくことだったのじゃないか、と観測してる私。
プーチン時代で経済的にある程度立ち直ったおかげで市民の生活が安定してきたことだけでは、まだまだ油断はできないわけね。ロシアはロシアなんだ、という心棒を作らなならん、と。(他国から見るともう十分あると思うんだけど ^^;)
で、そこで降ってわいたような昨年のクリミアの再統合問題があって、さらにNATOがバカみたいにロシア国境でちゃらちゃらちゃらちゃらポーランド軍、ルーマニア軍、バルト3国あたりを使って演習をやっている。すると、国家を守らな、ロシアはロシアでなくなるという危機感が自然必然情勢される。
そこで、第二次世界大戦の欧州戦線、つまりロシア風にいう大祖国戦争を思い出せ、キャンペーンが来る。ここまでならソ連時代にもさんざん使った手で、どうもそれが故に、実際問題あんなにもこんなにもなく犠牲者を出した大祖国戦争に対してどこかシニカルなとらえ方がソ連内にあったらしい。つまり、大祖国戦争を指導したソ連はえらい、だから俺を尊敬しろ的に使われてたってことね。
しかし、そういうことじゃないんだ。ソ連時代の誤りは誤りとして、あれは俺たちロシアにとって国家存亡の危機で、それを一人一人の犠牲によって支えたんだ、という具合に再提示したきたのがプーチン政権と私は見てる。で、これは嘘ではないですからね。
そこで、今回の対ナチス戦勝記念のハイライトは、実はあの有名な赤の広場の軍事パレードではなくて、国中で広げられたこっちのイベントだと思えるわけです。プーチンが何度も何度も、この日は第一に私たちにとってのホリデーだと言っていた意味はあるわけですね(それを、西側メディアは欧米が参加しないから強がってる、と書くのね)。
Immortal Regiment(不滅の連隊)とかいう名前で行われたこの催しでは、みんなして自分のお祖父さんやらお父さん、お母さん等々大祖国戦争で亡くなった家族の写真を掲げてる。TASSによればこの日このようにして外に出たロシア人は1000万人を超えるという話。800万だったか? どっちにしてもすごい数だけど、大祖国戦争では2700万人ぐらいが亡くなっているので、ほとんどすべての家族で誰かしら亡くなっているというのは嘘でもなんでもないでしょう。
プーチンも自分のお父さんの写真をもってる。お父さんは戦争時代兵士として戦って足に障害を負ったが生き延びた人で、お母さんもレニングラード包囲戦で餓死寸前を生き延びた人。その上でプーチンの会ったことのないお兄さんは3歳でおそらく餓死なのか栄養不良なのかで亡くなっている。
このへんに写真がいっぱいある。実際、彼らの日だったんだなぁという感じです、ほんと。
‘Immortal Regiment’ marches on: World celebrates Victory Day (PHOTOS, VIDEO)
そういうわけで、ソ連時代には政府への冷ややかな視線との間で宙ぶらりんになりがちだった(決してそうでもないという意見もあるにはあるが)大祖国戦争を、しっかりとロシアの基礎をなした出来事、nationとしての共有財産にとらえ直したという感じだと思う。我々という連隊は不滅だ、というネーミングもうまい。
こういう犠牲の下に俺らはまだロシアをやってるんだから、あだやおろそかにはすまいぞ、という決意を国民的に共有するというのは、ロシアという西側から狙われて200年の国にとっては実に実に存亡にかかわる大問題だと思うので、いや~、よかったよかった、ではなかろうか?
これって、西側が融和姿勢にある時にはやっても大したことないでしょ? 今みたいな状況であればこそ有効だった。毎日敵対報道だらけの中でやれるって、むしろラッキー?
ありがとう、オバマ、ではなかろうか(笑)。
去年3月、クリミア編入直後のプーチンの大演説を前に私が感じたことが具体化されているような気もして、ちょっとだけ自分をほめてみたい(笑)。いやそういうことじゃなくて、実際アイデンティティーってとても大事ということ。
クリミアのロシア編入をnationの歴史に繰り込んだプーチン
20世紀が壊れていく。それは多分ロシア政府がロシア人を信じたから。
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また教えてくださいませ。