イギリスのEU離脱問題に関する日本の報道をぱらぱらと見てるけど、なんかこう呆気にとられるほどバカげてると思った。
そもそもまず第一にこれはUK国民の選択なんだからまずそれを尊重するという姿勢がゼロというのが驚き。これは政権にも言える。でもなんでこうなるのかというと、どこかでひっくり返せるんじゃないかという淡い希望を抱いているからなんじゃないのかなと思うし、イギリス&EUエリート層はそうしたいと考えている様子はあるので、日本国の政府関係者および外交関係者がエリート層(&金融筋とか)の言い分に引きずられる、引きずられたいと考えるのも無理はないとは言える。
が、しかし、国民投票をやって100万票以上の差を持って評決を出してしまった以上、いくら騒いでもこれは覆せない。覆すにしても所定の手続きが必要だから、そうなると離脱に投票した人たちが黙っていない。いずれにしても大変な事態だという認識が必要なのだが、UK国民の判断は誤りであったと書けばそれが通るかのような発想が垣間見られて不気味だ。
前にも書いたけど、メディア関係者を含むエリート層の司祭気取りは恐ろしい。
■ エリート層が押した反乱
次に原因について。
原因を移民問題でゆれた頭の悪い人たちによる集団的なバカさ加減の成果のように見せたいようなのだが、これは相当に酷い誤りでしょう。
つか、これこそ、この態度こそ今回UKの大衆がrevolt(反乱)を起こした直近の主要な原因とさえ言えるかもしれない。
私が良く見てるthe American Conservativeというパット・ブキャナンなんかが主体となってやってる雑誌のこの件に関する記事の中でもそんな視点が濃厚だった。昔、reovolt(反乱)を起こした人々の子孫たる現在のアメリカ人たちが、今般の話をBBCを通してみていて、こりゃ反乱起こすのも無理ないよなぁとか言ってる様がちょっと面白い。
つまり、投票が終わった後に思い通りにならなかった側(残留派)のなんか偉そうな人(議員とかEU高官とか学校の先生とか)が、これでもかと怒って、殆ど説教している様子は、つまり、反乱を起こした側には意見を述べる権利などないと言っているも同然だからでしょう。
で、言うまでもなくこの観点は、アメリカで先ごろ起こったサンダース&トランプ現象と被る。こっちも、トランプやサンダースに投票しようとする人たちを、主要メディアは思いっきり糞ミソに馬鹿にしていたが、結果は主要メディアがどう煽ろうとも流れは変わらず、トランプ支持者などはむしろ結束するばかりだった。
■ 予想外でもない
離脱派が勝った直後のBBCが放映した識者のお話の中に、ピーター・ヒッチンズが出ていたのだが、これが非常に面白かった。
ヒッチンズはずっと前からEU懐疑派(こういう人も頭の悪い差別主義者の低所得者層だというんだろうか?)。だからその組み合わせとして親EU派のガーディアン紙の人が一緒に出てる。
Peter Hitchens so happy about Brexit
BBCのキャスター(左の女性)が、驚くべきことが起こりました、とてもショックでと煽りながらコメントを求めるのだが、ヒッチンズは悠然としている。そこでキャスターが、・・・でもあなたはあんまりショックなようには見えませんけど・・・と入る。
それを受けてヒッチンズ(真ん中のおじさん)は、自分は数週間前にレイバー(労働党)の一部が大量に離脱に回っているというのがわかってから、これは離脱派が勝つかもなと思っていたので別にショックじゃないです、と返す。
次にキャスターは、ガーディアン誌のエディターの女性(一番右)に話を振る。すると彼女も、全国を回ってみて通常レイバーに投票している地域の人たちが離脱に回っているのを見ていたので自分もこれは予想の範囲、とくる。(レイバーは党の方針としてはっきりとした残留派) ただし、自分の回りのジャーナリストたちは結果にショックを受けて落胆してたという。
するとヒッチンズ、是非そうであってもらいたいものですよと反応する。つまり、ジャーナリストたちが勝手に「残留であるはず」と思っていた態度が間違ってたんだからそこを見ろ、と。
ここまででわかることは、ジャーナリストレベルでも、離脱派が勝つ可能性はまったく予想外ではなかったということ。
しかし、BBCの人は予想外でまったく困ったことですね、という話に持っていきたい。そしてガーディアンの人はその線を保持できる人として呼ばれてるんだと思うけど、ヒッチンズの機転からその試みはまったく失敗に終わった。
(ヒッチンズを出したら何を言われるかわからないのに生で出している点でBBCはNHKなんかに比べりゃ遥かに根性あるな、とも言える。比較するのもなんだが。)
■ 保守・労働どちらにも無視された人々
この短いトークで、ヒッチンズはさらに痛いことを言っている。
UKには保守党と労働党という2つの大きな政党があるわけですが、両方とも、自分たちの選挙民が何を求めているのか、完全に現実から乖離していたということで、それが問題なのだ、と。
(保守党はUKIP等が離脱派の主体になっていき、労働党は、上の方でちゃらちゃら言ってるブレアの子どもたちみたいな人たちが完全にマルチカルチャーなイギリスを志向しているが、足元の旧来の労働党支持者たちはついて行っておらず、長年それを無視してきた。)
今英国民が求めているのは、保守か労働かじゃなくて、離脱か残留かなんだから、この線で話しあって選挙をすればいいんだ、ともいう。
それを受けて、数日後の定期のコラムでは、ヒッチンズは、今回のことを受けて、保守党、労働党の支持者で離脱に回った人々は、予想外の仲間がいることがわかったんじゃないか、と書いていた。
Boston, Lincolngrad: I saw the seething resentment. Now it is time to finish the revolution
http://hitchensblog.mailonsunday.co.uk/2016/06/boston-lincolngrad-i-saw-the-seething-resentment-now-it-is-time-to-finish-the-revolution.html
つまり、保守党の中のsocial conservative(社会的保守派みたいな?)の流れにある人たちと、労働党左派と区分されてきた人たちは、党の垣根で隔てられていたが、超えてみれば仲間になれる人たちだったんだ、と気付いた人も多いのではなかろうか、と。
保守党、労働党という組み合わせは産業資本主義時代の産物で、これが時代に会わなくなっているんだとも書いている。
まとめて考えてみると、庶民派は団結せよと言っているも同然なので、過激な示唆かもなと思ったりもする。
しかし、労働党も保守党もどっちの議員団もエリート層で占められ、やたらめったら金持ちそうで、庶民の生活というものを本当に知らない人が多くなっちゃってそっちが固まってるのに下の方だけ分かれているのも不都合だ、という理屈も成り立つ。
■ 国民も国内も見ていない政治
ヒッチンズの上のコラムがなかなか示唆に富んでいるのは、冒頭に、件の国民投票で最も離脱に投票した人が多かったエリアの話を書いているところ。リンカンシャー州のボストンという街の投票率は77.27%で、離脱投票率は75.5%。
率直にいって田舎なわけですね。ブリテン島は北部以外は平地、丘陵だからけだから畑だがいっぱいある。しかしそこにもしっかりとした歴史があって実は見どころだってないわけでもない。しかし、ロンドンの街でEUこそ未来とか思ってる人たちは自分の国のこういう風景よりも、バルセロナやフィレンツェの方が馴染みがあるぐらいだろう、と。
(この感じはわたしもわかるなぁとか思った。欧州内の行き来が非常に便利になったのに伴い、目立った観光地みたいなところに出かけることが一種の流行りになって、しかも、イギリスからスペインとかだと物価的にスペインがお得なわけ。だからそっちのバカンスを選ぶ。で、それが何かヨーロッパ人である証みたいな感じになっていったと思う。)
で、残留派のsnobberyは彼らの破滅の元だったとさえ書いている。snobberyはいろんな訳語があるけど「お高くとまってる」という日本語が一番ぴったりすると思う。
ヒッチンズの個人的な体験として4年前にそこに行った時に既に人々は大量移民に懸念を表明していたが、中央の政府、政党はこういう人々の懸念をまったく共有しなかった。だから静かに怒りが沸いているのを無視してきた。それがこの結果だよ、と。
また、従来労働党支持者だったいわゆるワーキングクラスの人々の懸念も同じように無視されてきた。ブレア以来の労働党は保守党と変わらなくなってsnobな人々になっちゃてる、と。
(ワーキングクラスというのはイギリスの政治では普通に使うけど、範囲としては高給の管理職でないサラリーマンはみんなこのクラスといっていいんじゃないのかな。日本では最近そういえば労働者階級と言わないですね。あとアメリカも使わない。アメリカはもっと身もふたもなく、低所得者層、ミドルクラスとあくまで資産の持ち高で分類してるということかも。)
というわけで、今回の反乱の主体者層は、昨日今日、わ~わ~言って徒党を組んだわけではないわけですね。あと、EUそのものに対するアンチかどうかというのも微妙。むしろ、政府と主要政党が、EUの方ばっかりおっかけているその方向性に対するアンチではなかろうか、とも思う。少なくとも国内を見ろよ、と見捨てられてきた層とそれに懸念を示してきた人々が結託した結果が今般の結果だったということじゃなかろうか。
これと表裏で考えるといいんじゃないっすかね。
EU:中東欧を誰が面倒を見るのか
■ まとめ
まとまらないんだけど、今般の騒動を見ていて、一つ心に浮かんだのは、これはつまり、1945年体制が終わってるということなのかな、ということ。
数多くの国に、保守系と左派系みたいな対立軸が設定されてるわけだけど、これって自然ななりゆきでもなかったんだろうな、と。で、これが有効でなくなってきてるのかも。
そして、アメリカ、イギリスという共有部分の多い国でいち早くこの問題が露出しているということは、次の仕組みもここらへんが作るという示唆かもな、とも思った。(私はこれを喜んでいるのではない)
政治思想というのは、先進国においては単に現実の政治の成り行きをまとめたものに過ぎないが、それを追いかける国においては、それは思想の程度まで高められてしまう、だからより過激になることもあるのだ、とバートランド・ラッセルが書いていたが(1943年あたり)、今般のケースにも当てはまるのかも、とか思う。
西洋哲学史 3―古代より現代に至る政治的・社会的諸条件との関連にお 近代哲学 | |
バートランド・ラッセル 市井 三郎 | |
みすず書房 |
西洋哲学史 2―古代より現代に至る政治的・社会的諸条件との関連における哲学史 (2)中世哲学 | |
バートランド・ラッセル 市井 三郎 | |
みすず書房 |
報道ステーションのインタビューのお話、初めて聞きました。それはすごい比喩でしたね。でも方向性はそれに近いわけですから大げさではないんですよね。
教えていただきありがとうございました。
PS; Takumiって書きづらいですよね。すみません漢字は勘弁とか思ったのでそのままにしてしまいました。なんでもいいですけど、ター坊とでもおよびくださいませ ^^;。
リベラルのネオコン化現象はブレアが一手に引き受けたのがUKでしたが、しみじみ、米、英、欧州は同期していたんだなとかあらためて思いました。
じゃあ日本はどうだったのかというと一緒ではないんですが、それは日本がほとんどまったく政府変わってませんから(笑)状態だったからで、しかし世論形成的には同期してたなとか思います。
最初に、TAKUMIさんと呼べば良いのか、ブログ主さんと呼べば良いのでしょうか? 愚問に感じちゃいますか?ちょっと気になってたので。
イギリスのEU離脱問題報道の影で、21日というタイミングで、ECBは引き続き何でもやる-独憲法裁がOMTに合憲判断というニュースが話題にならずに決まりましたね。傷口に塩を塗る行為の様な気がしますが。
さて、EU離脱投票の結果が出た後の報道について、私見では結果も含めて予想通りでした。予想外の報道は、一部まとめブログ等で話題いなってる、報道ステーションの離脱派へのインタビューで「日本の最高裁がソウルにあり、国会が中国にあったら嫌でしょ」ってブリティッシュジョーク が報道された事でした。この演出の意味する所は?
しかし、何時になったら今後に対する建設的報道がされて行くのでしょうかね。