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あるところに、猫が大好きな少女がいました。
近所に住んでいるらしい猫たちに、よく食べ物を差し出してみたり、
大人しい猫なら抱いてオサンポしてみることもありました。
そして一匹の猫と、特に仲良しになりました。
そのうち、その猫のお腹がだんだん大きくなって、しばらく現れなくなって、
次に現れた時には、お腹が小さくなっていました。
「子供生んだの？ねぇ赤ちゃんができたの？みんな連れておいでよ。」
少女は話しかけましたが、
猫は美味しそうに貰ったごはんを食べると、またいなくなってしまいます。
*
そのうち夏休みになりました。
ある日、友達が２人遊びに来ました。
そしてその子たちが、少女の家でタバコを吸おうとしました。
「あっ。ウチはお母さんがタバコ嫌いで、匂いでバレるから駄目だよ。」
３人は考えた末、辺りが暗くなるのを待って、
裏道の住宅街の行き止まりにある小さな空き地へ行くことにしました。
*
その辺りには誰もいませんでした。
少女のお母さんも、この辺の人たちも、大人はみんな働いていて、
まだ帰って来る様子もありませんでした。
３人は安心して、物陰でタバコを吸いながら話をしていました。
すると向こうから、大人たちの話し声が近づいてくる気配がしました。
ひとりの女の子がタバコを地面に捨ててもみ消そうとしました。
でも、もうひとりの女の子が、
「ここに捨てたらバレバレじゃん！」と言って止めました。
そしてその子は
みんなのタバコを集めて、傍の塀でザザッとモミ消すと、
塀の中へポイと投げ込みました。
「もう行こうよ！帰ろう！」
３人はこちらへ向かってくる大人たちの横をすり抜けて、
大急ぎで少女の家まで戻りました。
そしてその日は解散し、
少女は何事もなかったかのようにお母さんの帰りを待ちました。
*
しばらくすると近所が騒がしくなりました。消防車や救急車がやって来たようです。
「やだー。うるさい。近いのかなー。」
少女は見たいテレビがあったので、心の中で迷惑に思いました。
お母さんが帰ってきた時、
「もう治まったらしいわよ。燃え広がらなくて良かったわー。
この辺り、道が狭いし、家が混み合ってるから、
こんなこと言うのもなんだけど、１軒で済んだのは、不幸中の幸いね～。」
やっぱり近くで家事が・・・と思いながら、少女はそれ以上のことは考えませんでした。
*
次の日の夕方、少女はお母さんに頼まれた買い物をしに外へ出ました。
すると、近所のおばさんが声をかけて来ました。
「昨日は大騒ぎだったけど、こちらまで拡がらなくてひと安心だったね～。」
「あー・・・。はい・・・。」
「でも、・・・あなたが可愛がってたネコも死んじゃったね～・・・。」
「え？」
どうやら少女が仲良しになった猫は、火事になった家の飼い猫だったようです。
「うちの娘が介護のお手伝いであのお宅に通ってたのよ。
あの家のおばあちゃんも、逃げ遅れて亡くなってしまって・・・。
それにね、あの家のネコちゃんのコイビトはね、ウチのクロちゃんだったの。
縁の下にね、子猫が４匹いたんだけど・・・。みんな駄目だったらしくて・・・。
うちのクロちゃん、ずーっとあのお宅の傍から離れないのよぅ・・・。」
少女はその話を聞いて、
もしや、自分たちのタバコが原因だったのではないか、と一瞬思いました。
「落ち着いたら、あの場所にお花でも添えてあげてね。」
そう言って近所のおばさんは、涙を拭きながら去っていきました。
*
少女が買い物をして帰って来ると、家の前で何かが飛び掛ってきて
少女は腕に痛みを感じました。
「きゃーっ。」
よく見ると、飛び掛ってきたのはクロネコです。
少女の右腕には２０ｃｍほどの長い傷が３本ついて、血が滲み始めていました。
「なにすんのっ！バカッ！」
少女はクロネコを怒鳴りつけました。
クロネコは恐ろしい目つきで少女を睨んだ後、走って行ってしまいました。
*
自宅で傷の手当てをしながら少女は思いました。
「もしかしてクロちゃんだったのかなぁ。どうして突然飛び掛ってきたんだろう・・・。
まさか・・・・・・・・・・・・・・・・・・。まさか・・・ね。」
急に不安になった少女は、先日の友達にメールして、
あの後あの家が火事になったことと、
あの家のおばあちゃんが亡くなったことを伝えました。
すると、タバコを塀の中に投げ捨てた女の子が電話が来ました。
「あたしのせいだって言いたいの？自分だって吸ってたじゃん！
サイテー！もうあんたなんか絶交する！」
と一方的に言われて、電話は切れてしまいました。
その後、もう一人の女の子から電話が来て、
「あたしが地面に捨てた時、あちこちに、他にもスイガラがあったよ！
あたしたちのせいじゃないよ！」
と言われて、電話を切られてしまいました。
その後少女は２人にメールしましたが、もうメールは届かなくなっていました。
たった２人の友達を、少女は失ってしまいました。
*
その夜、少女は夢を見ました。
あの家の庭には、
外した扉のような大きな木の板や、紐でまとめた古着などが置いてあって、
ゴミの日か、リサイクルにでも出すような、準備がされている様子でした。
そこに少女たちが投げ入れたタバコの火がくすぶって、
木の扉が倒れ、燃えやすい物へと次々に、あっという間に
燃え広がってしまう様子が見えました。
それによって、おばあちゃんが逃げ出せるはずだった庭の通路や、
猫たちが塀を飛び越えるのに使っていた庭の置物も、
障害物や炎に覆われてしまい、
猫たちが鳴き叫んで必死にさんざん逃げ惑っているところに、
燃えた布が舞い降りてきて、猫たちは死んでしまったのです。
*
少女は夜中に、ワーッと泣いて目覚めました。
ふと見ると、
鎮まっていたはずの右腕の痛みが激しくなって、新しい血が流れていました。
「おかあさーん！」
少女は顔に痛みを感じて母親を呼びました。
少女の母親は、そこで少女の右の瞼から頬にかけて、
大きな火傷が出来ているのを発見しました。
「どうしたの？何があったのーっ！」
*
翌日の午前中、病院で頬と腕の手当てをし、
お母さんは少女を自宅へ連れて帰ってから仕事に出かけました。
夕方、少女は自分でも訳の分からないうちにフラフラと外を彷徨い、気がつくと、
火事で亡くなったおばあちゃんの葬儀会場に来ていました。
（私のせいでおばあちゃんが死んじゃったんだ・・・。）
そう思うと、少女は、
明日からどうやって生きていけばいいのか分からなくなりました。
かと言って、遺族の人に謝る勇気もありません。
少女は、通りかかった車に、ふわりと飛び込んでしまいました。
*
入院生活は長く続きました。
いくら担当医が手を尽くしても、少女の足や腕の骨折も、顔や腕の傷も、
なかなか治る兆しが見えませんでした。
少女は毎日ふさぎこんでいました。
そんな少女を見て、少女のお母さんは
少女を励まそうと、猫のぬいぐるみを買って病室に持って来ました。
それを見た少女は一瞬、心臓が止まりそうになりました。
それは、あの仲良しの猫にそっくりな、今にも歩き出しそうな猫のぬいぐるみでした。
でもお母さんは、仲良しのネコのことも、タバコのことも、あの日の夢のことも、
何も知りませんでした。
本当に、ただ偶然に買って来たものでした。
*
少女は、同じ病室の人が寝静まった夜になると、めいぐるみを抱きしめて泣きました。
「ごめんね・・・。ごめんね・・・。私があんな誘いに乗らずにちゃんとしていれば・・・。」
泣きながら謝って、泣きながら眠ってしまう、そんな日々が続きました。
*
それからは不思議なことに、少女の脚はグングン急速に快くなっていきました。
数日後にはゆっくり歩けるようになって、敷地内の散歩も出来るようになりました。
大事そうにぬいぐるみを抱え、敷地内を歩く習慣をつけるようになると、
今度は敷地内の庭木の傍で、毎回クロネコに会うようになりました。
自宅から遠い病院なので、まさかクロちゃんではないだろうと思うながら、
少女は心の中で、
「ごめんなさい、ごめんなさい。」
と毎日心から謝り続けました。
また、自分の体が自由になるにつれ、
新しくやって来た病室の人たちの面倒をよく見たり、
食堂で会うおばあさんたちのお手伝いを進んでしていました。
*
ある日、夢の中に、知らないおばあさんが、あの猫を抱いて出てきました。
おばあさんは何も言わずに、ただうんうんと頷いて少女を見ていました。
少女は、それが火事で亡くなったおばあさんだと感じました。
少女は夢の中で、泣きながら何度も何度も謝りました。
そんな夢が３日続いたあくる朝のことです。
昨日までずっと繰り返し膿んでいた少女の腕の傷と、頬の火傷が、
すっかり綺麗に消えていました。
あるところに、猫が大好きな少女がいました。
近所に住んでいるらしい猫たちに、よく食べ物を差し出してみたり、
大人しい猫なら抱いてオサンポしてみることもありました。
そして一匹の猫と、特に仲良しになりました。
そのうち、その猫のお腹がだんだん大きくなって、しばらく現れなくなって、
次に現れた時には、お腹が小さくなっていました。
「子供生んだの？ねぇ赤ちゃんができたの？みんな連れておいでよ。」
少女は話しかけましたが、
猫は美味しそうに貰ったごはんを食べると、またいなくなってしまいます。
*
そのうち夏休みになりました。
ある日、友達が２人遊びに来ました。
そしてその子たちが、少女の家でタバコを吸おうとしました。
「あっ。ウチはお母さんがタバコ嫌いで、匂いでバレるから駄目だよ。」
３人は考えた末、辺りが暗くなるのを待って、
裏道の住宅街の行き止まりにある小さな空き地へ行くことにしました。
*
その辺りには誰もいませんでした。
少女のお母さんも、この辺の人たちも、大人はみんな働いていて、
まだ帰って来る様子もありませんでした。
３人は安心して、物陰でタバコを吸いながら話をしていました。
すると向こうから、大人たちの話し声が近づいてくる気配がしました。
ひとりの女の子がタバコを地面に捨ててもみ消そうとしました。
でも、もうひとりの女の子が、
「ここに捨てたらバレバレじゃん！」と言って止めました。
そしてその子は
みんなのタバコを集めて、傍の塀でザザッとモミ消すと、
塀の中へポイと投げ込みました。
「もう行こうよ！帰ろう！」
３人はこちらへ向かってくる大人たちの横をすり抜けて、
大急ぎで少女の家まで戻りました。
そしてその日は解散し、
少女は何事もなかったかのようにお母さんの帰りを待ちました。
*
しばらくすると近所が騒がしくなりました。消防車や救急車がやって来たようです。
「やだー。うるさい。近いのかなー。」
少女は見たいテレビがあったので、心の中で迷惑に思いました。
お母さんが帰ってきた時、
「もう治まったらしいわよ。燃え広がらなくて良かったわー。
この辺り、道が狭いし、家が混み合ってるから、
こんなこと言うのもなんだけど、１軒で済んだのは、不幸中の幸いね～。」
やっぱり近くで家事が・・・と思いながら、少女はそれ以上のことは考えませんでした。
*
次の日の夕方、少女はお母さんに頼まれた買い物をしに外へ出ました。
すると、近所のおばさんが声をかけて来ました。
「昨日は大騒ぎだったけど、こちらまで拡がらなくてひと安心だったね～。」
「あー・・・。はい・・・。」
「でも、・・・あなたが可愛がってたネコも死んじゃったね～・・・。」
「え？」
どうやら少女が仲良しになった猫は、火事になった家の飼い猫だったようです。
「うちの娘が介護のお手伝いであのお宅に通ってたのよ。
あの家のおばあちゃんも、逃げ遅れて亡くなってしまって・・・。
それにね、あの家のネコちゃんのコイビトはね、ウチのクロちゃんだったの。
縁の下にね、子猫が４匹いたんだけど・・・。みんな駄目だったらしくて・・・。
うちのクロちゃん、ずーっとあのお宅の傍から離れないのよぅ・・・。」
少女はその話を聞いて、
もしや、自分たちのタバコが原因だったのではないか、と一瞬思いました。
「落ち着いたら、あの場所にお花でも添えてあげてね。」
そう言って近所のおばさんは、涙を拭きながら去っていきました。
*
少女が買い物をして帰って来ると、家の前で何かが飛び掛ってきて
少女は腕に痛みを感じました。
「きゃーっ。」
よく見ると、飛び掛ってきたのはクロネコです。
少女の右腕には２０ｃｍほどの長い傷が３本ついて、血が滲み始めていました。
「なにすんのっ！バカッ！」
少女はクロネコを怒鳴りつけました。
クロネコは恐ろしい目つきで少女を睨んだ後、走って行ってしまいました。
*
自宅で傷の手当てをしながら少女は思いました。
「もしかしてクロちゃんだったのかなぁ。どうして突然飛び掛ってきたんだろう・・・。
まさか・・・・・・・・・・・・・・・・・・。まさか・・・ね。」
急に不安になった少女は、先日の友達にメールして、
あの後あの家が火事になったことと、
あの家のおばあちゃんが亡くなったことを伝えました。
すると、タバコを塀の中に投げ捨てた女の子が電話が来ました。
「あたしのせいだって言いたいの？自分だって吸ってたじゃん！
サイテー！もうあんたなんか絶交する！」
と一方的に言われて、電話は切れてしまいました。
その後、もう一人の女の子から電話が来て、
「あたしが地面に捨てた時、あちこちに、他にもスイガラがあったよ！
あたしたちのせいじゃないよ！」
と言われて、電話を切られてしまいました。
その後少女は２人にメールしましたが、もうメールは届かなくなっていました。
たった２人の友達を、少女は失ってしまいました。
*
その夜、少女は夢を見ました。
あの家の庭には、
外した扉のような大きな木の板や、紐でまとめた古着などが置いてあって、
ゴミの日か、リサイクルにでも出すような、準備がされている様子でした。
そこに少女たちが投げ入れたタバコの火がくすぶって、
木の扉が倒れ、燃えやすい物へと次々に、あっという間に
燃え広がってしまう様子が見えました。
それによって、おばあちゃんが逃げ出せるはずだった庭の通路や、
猫たちが塀を飛び越えるのに使っていた庭の置物も、
障害物や炎に覆われてしまい、
猫たちが鳴き叫んで必死にさんざん逃げ惑っているところに、
燃えた布が舞い降りてきて、猫たちは死んでしまったのです。
*
少女は夜中に、ワーッと泣いて目覚めました。
ふと見ると、
鎮まっていたはずの右腕の痛みが激しくなって、新しい血が流れていました。
「おかあさーん！」
少女は顔に痛みを感じて母親を呼びました。
少女の母親は、そこで少女の右の瞼から頬にかけて、
大きな火傷が出来ているのを発見しました。
「どうしたの？何があったのーっ！」
*
翌日の午前中、病院で頬と腕の手当てをし、
お母さんは少女を自宅へ連れて帰ってから仕事に出かけました。
夕方、少女は自分でも訳の分からないうちにフラフラと外を彷徨い、気がつくと、
火事で亡くなったおばあちゃんの葬儀会場に来ていました。
（私のせいでおばあちゃんが死んじゃったんだ・・・。）
そう思うと、少女は、
明日からどうやって生きていけばいいのか分からなくなりました。
かと言って、遺族の人に謝る勇気もありません。
少女は、通りかかった車に、ふわりと飛び込んでしまいました。
*
入院生活は長く続きました。
いくら担当医が手を尽くしても、少女の足や腕の骨折も、顔や腕の傷も、
なかなか治る兆しが見えませんでした。
少女は毎日ふさぎこんでいました。
そんな少女を見て、少女のお母さんは
少女を励まそうと、猫のぬいぐるみを買って病室に持って来ました。
それを見た少女は一瞬、心臓が止まりそうになりました。
それは、あの仲良しの猫にそっくりな、今にも歩き出しそうな猫のぬいぐるみでした。
でもお母さんは、仲良しのネコのことも、タバコのことも、あの日の夢のことも、
何も知りませんでした。
本当に、ただ偶然に買って来たものでした。
*
少女は、同じ病室の人が寝静まった夜になると、めいぐるみを抱きしめて泣きました。
「ごめんね・・・。ごめんね・・・。私があんな誘いに乗らずにちゃんとしていれば・・・。」
泣きながら謝って、泣きながら眠ってしまう、そんな日々が続きました。
*
それからは不思議なことに、少女の脚はグングン急速に快くなっていきました。
数日後にはゆっくり歩けるようになって、敷地内の散歩も出来るようになりました。
大事そうにぬいぐるみを抱え、敷地内を歩く習慣をつけるようになると、
今度は敷地内の庭木の傍で、毎回クロネコに会うようになりました。
自宅から遠い病院なので、まさかクロちゃんではないだろうと思うながら、
少女は心の中で、
「ごめんなさい、ごめんなさい。」
と毎日心から謝り続けました。
また、自分の体が自由になるにつれ、
新しくやって来た病室の人たちの面倒をよく見たり、
食堂で会うおばあさんたちのお手伝いを進んでしていました。
*
ある日、夢の中に、知らないおばあさんが、あの猫を抱いて出てきました。
おばあさんは何も言わずに、ただうんうんと頷いて少女を見ていました。
少女は、それが火事で亡くなったおばあさんだと感じました。
少女は夢の中で、泣きながら何度も何度も謝りました。
そんな夢が３日続いたあくる朝のことです。
昨日までずっと繰り返し膿んでいた少女の腕の傷と、頬の火傷が、
すっかり綺麗に消えていました。