黒い瞳のジプシー生活

生来のさすらい者と思われた私もまさかの定住。。。

了見の狭い描き方

2009-11-09 08:48:41 | 思索系
大河ドラマ「天地人」。時代は、大坂の陣前夜である。
家康が「国家安康 君臣豊楽」の文言に難癖をつけるという
いかにも意地の悪い手段で豊臣をつぶす策に出たところで
今回の放送が終わった。この策を家康に進言したのは
ドラマでは遠山康光という武将になっているが、
以前ここで記したように
遠山康光は本当は上杉景勝との跡目争いに負けた上杉景虎と
共に自害して果てたはずの武将。
主人公の顔が「天地人」の謙信公(役の俳優さん)に
ソックリな某アニメの名ゼリフではないが、
「お前は既に死んでいる」はずだということである。
また、これはドラマでは隠されていたことであるが
直江の婿どのになっていた本多政重が
新たに兼続からもらった「妻」というのは
高野山に行った兼続の弟の娘であり、彼女をもらった政重は
そのあと一人で勝手に直江家を「出奔」して
前田家に再就職し、置いてかれた新しい妻や
上杉・直江家臣も政重の許についていったのである。

それから今回は、謙信公の姉・仙桃院さまが亡くなった。
ウィキペディアによれば彼女の享年は短く見積もっても
数えの81歳、出演回数が長いなと思いながら観てきたが、
ちゃんと計算してみればそれもそのはずである
(これは私の不確かな記憶にすぎないが、彼女が生きた
戦国時代は「人間五十年」、平均寿命はなんと23歳である)。
ドラマの彼女は景勝のどのへんが「謙信公を超えている」と
言いたかったのか具体的に示してほしいと思ったが、
そこは実の母が愛する息子に対して言った言葉、
彼女は真実を語っているとは考えないほうがよかろう
(私自身はそれほど詳しいわけではないが、
景勝が謙信公よりも優れていそうな点など
ちょっと私には思い浮かべることができない)。
――そうすると、これは前回は気がつかなかったことだが
満ち足りた表情でこの世を去った兼続の父や娘や菊姫も、
自分の愛する者を喜ばせようとして
最後まで優しいウソをついてこの世を去っていったと
解釈するべきなのだろうか??
普段は正直すぎるぐらいの彼らが今わの際のときだけ
そんなウソをつくなど、ちょっと解せないことではあるが。

解せないといえば、兼続らが関ヶ原の戦いの直前の時期に
徳川家康をあえて追撃しなかったことに関して
このたび秀忠が兼続を誉めていたが、あの秀忠も
一体どういう神経であんなふうに誉め称えたのだろうか。
今回の秀忠は、当時の敗軍の将・兼続その人の目の前で
「あの時アンタがウチらを逃がしてくれたおかげで
ウチらは勝つことができたんだ」と喜んだようなもの。
まあ「一体どういう神経であんなことを言ったのか」と
思いたくなるような経験は、誰にでも結構ザラにあるもの
なのかもしれないが――
私が毎回ドラマの家康を観て感じるのと同様、
このドラマの秀忠もあまりに悪役にしすぎではないのか。

ところで、今回は久々に
高台院さまと毛利輝元どのが登場した。
そういえば、毛利輝元どのといえば大坂の陣では
自分の一族を家康の味方として戦わせる一方で
内藤元盛という自分の家臣を「佐野道可」と変名させて
豊臣方の味方にさせていた人物。
関ヶ原の戦いの時に家康に積極的に味方したのなら
ともかく、それこそ関ヶ原の戦いで家康に負けたくせに、
である。彼がこのような二股外交をした理由については、
私の数少ない資料の一つ『別冊歴史読本 真田幸村と
大坂の陣』の投稿者の一人の推測によると、
「大坂城が徳川の攻撃に数年間は持ちこたえ、
その間に家康の寿命も尽きるだろうと楽観した輝元が、
冬の陣の直前、勝利の暁には大封を与えると約して
元盛を(大坂)城へ入れた」のではないか、という話である。

だが一方、兼続が仕える上杉景勝については
私の知る限りそのような豊臣家に味方をするような
行為をした話は聞いたことがないし、
実際に上杉家が家康の味方として大坂の陣に参戦する
資格を持っていたという事は
それだけで上杉家の忠義が家康に信用されていたことを
意味するのではないのだろうか(それもおそらくは、
兼続が直江の家を本多に差し出すなどした努力の
賜物と思われる)。その上杉景勝とは対照的に
徳川幕府の感情を逆なでするような行為を続けた
福島正則は、大坂の陣のときには江戸に閉じこめられた。
また、関ヶ原の戦いの後も家康に反抗的だった
黒田如水を父親に持ち、大坂方の侍大将になった男を
むかし家臣にしていた黒田長政も、
やはり冬の陣では江戸に閉じこめられ
自分の妻子を江戸へ人質にやったり武器の材料を
家康に提供したりして誠意をみせることによって
ようやく夏の陣では参戦が許可されたのである。
「家康は上杉を信用するようになっていた」という
私自身の推測を信じる限り、私は
家康の信用を得るための工作していた本人である兼続が
この期に及んでなおも豊臣に近づいていたとは思えないし
少なくとも豊臣に近づくべきではないと思うし
(なぜならそうした行為は自分が今までしてきた工作の
成果を台無しにする恐れがあるから)、
個人的にはむしろ、例えば家康が上杉を信用してくれた
ことに対して兼続が(たとえうわべだけではあっても)
感謝の言葉を述べたり力強く握手を交わすようなシーンが
現れますようにと望む次第であるが、
そこは兼続らのアンチテーゼにはどこまでも寛容でない
了見の狭いこのドラマの演出上、
そのようなシーンもたぶん出てこないであろう。
(おそらくはそれだから、私は
今年の大河ドラマがイマイチ好きになれないのである――)


←ランキングにも参加しています