大工風の道

仮設住宅ってわけでもないけれど、
ま、しばらくここで様子みようっと。

消えゆく昭和の建築

2005年09月23日 | 見聞録
なにがどうなってか、この日の午後、古い元中学校の講堂の屋根裏に私たちはいた。
現在は鉄工所として使われているこの建物も、河川改修にともない、あと1年ほどで取り壊しが決まっている。この春ころから、私たちの間では、噂にはなっていた、とても魅力的な建物なのだ。
本当は、躯体より、外部周りのガラス窓に魅かれていたのかもしれないが…(苦笑)。(なぜって?わかるでしょう。ヒントは「歪(ひず)み」)

解体のことが地元ローカル新聞に取り上げられ、その記事が、Hさんの目に留まり、移築を視野にいれた、「見学会(調査会?)」となってしまったのだ。
こんな話がでると、日常の作業(大工)を「さっ」と放り出して、不思議と何人かが集結する。



間口が8間(けん)、奥行きが14間(けん)。
一間(けん)ごとに合掌(梁)が13組ある構造。
階段の部分を入れると、建築面積は約115坪。

「どうやって解体していく?」という相談が、暗闇の中で行なわれる。
天井が貼ってあるので、そう感じないが、実際は、かなり高所の作業になるし、「合掌」という構造は、建築時には下で大きなトラスを組んでおいてから、両桁の上に乗せていっているだろうから、解体は、その反対で、かなり大きなもののまま、クレーンで吊って下ろすことになる。「建物の東側にクレーン車が入れるか?」「一時保管の場所は?」など、現実的な問題が大きくのしかかる。




Hさんが、ふと冷静に「この建物って移築する価値あると思いますか?」と、あえて聞いてきた。
一つは、地域の文化財的な価値。一つは、木材資源としての価値。この二つは間違いなくある。

しかし、もう一つ、とても大事な「価値」がここにあることに気づいた。
それは、「木造技術の伝承」なのだ。…ただ、その場は言葉でうまく表現できずにいたのだが。


私たちは「切ってから」木が長く生き続けることを考えるのが仕事だが、彼は、まさに、立っている木を扱う仕事をしている。
以前に道路拡幅のために、「株」が畳一枚ほどの「モミジ」の老木の移植の相談を受けたことがあるという。
その木を見た彼は、「道路計画のほうを見直すよう」にとその場を去ったそうだが、それについて彼は語る。「移植すれば間違いなく枯れる。あんな老木は滅多にないから、これからの若い職人たちにもずっと見せてやりたい…」。


それだ!
この合掌建築も、これから大工をしていく若い人たちに「見せて」やりたいのだ!
「伝統(伝承)」が「伝説」になってしまっては手遅れなのだ。

まだまだあと50年以上は生きれるこの「講堂」。そう簡単に「殺して」はなるまい。
(9/22)


☆ 一口に住宅建築といっても、本当にいろいろある。工法の種類もさることながら、「デザイン」てやつは、いつも大工を悩ませる。



インターナショナル大工?

2005年09月23日 | J-ワークス
隣町のJさんから、小規模の改造工事の手伝いを頼まれた。

K上邸は自宅から15分くらいなので、気安く返事をしたのが先週。大きな一間(ひとま)の子ども部屋に、間仕切りとロフトをつくるという仕事だ。とりあえず初日は、J氏の作業場で、打ち合わせから。



この建物は輸入住宅で、2×4(ツーバイフォー)が基本になってはいるが、随所にPost(柱)が建っているという構造。壁や、床の下地がどうなっているかが気にかかる。
既存の建物の図面をJ氏が出してきた。

「インチ!」

図面はすべてインチ単位で書かれていた。

もちろん、「?」の併記のあるところもあるが、割付がすべてインチ、フィートであるのだ。
また、フィートと尺はほぼ同じ長さだし、余計に混乱する。
普通に日本の大工は「尺(1/3.3m)」単位のさしがね(曲尺)を使い、メートル法との換算を無意識的に行なう。
現場ではよく「400(ミリ)から、尺五寸くらいに切ってくれ!」とか、「床から300(ミリ)、壁から5寸くらい離して…」など、不思議な会話が飛び交うのは日常茶飯事。
さらに今度はインチが加わる。大工はまさに「スーパーバイリンガル」なのだ。
インチとの対比表を見ながら、メートル法で書かれたJ氏の図面をもとに、尺単位の曲尺で材に墨付けをする。



☆ 次々と壊されていく古い建物…。
中途半端な古さゆえ、「文化財」にはならず、昭和初期の建物は危機に面している。