大工風の道

仮設住宅ってわけでもないけれど、
ま、しばらくここで様子みようっと。

道具に学ぶ人生論

2005年09月02日 | 文化
油圧式の小型のジャッキを、現場では、よく使用する。
中学か、高校のころ習ったような気もするが、なにやら頭の痛い原理で、
とても小さな力でも、重いものを持ち上げることができる優れものだ。

とはいうものの、この本体だけでは、なかなか大変で、さらに、「テコ」の原理を使って、
オイルを送り込むことになる。
この「テコ」の役目を担う、「棒」が見当たらず、取り急ぎ、バールで対処していたが、
O氏が「いいものありますよ」と、専用の「棒」を見つけてきてくれた。


手渡された「棒」を眺め、しばらく手を止め考えこんでしまった。
普段見過ごしてしまうようでも、無ければ困ってしまう。
いなくなってはじめてありがたく感じる。
「私もこんな、さりげない生き方したいなあ」。
すかさずO氏が言葉を返した。
「でも、無ければ無いで、なんなりと代わりのものでなんとかなるものですけどね」。

私は潜り込んだ床下で、うなだれるように、
しばらく力が入らなかった。




さて、ジャッキだけでなく、現場ではいろいろな道具が活躍する。
昔なら、大工が使わなかったような、現代ならではの最新鋭のものもある。
ただ、ココで使用されているものは、使いこんだ古いものが多く、
もうちょっとかゆいところに届かないものだらけだ。

Kさんが、防塵丸鋸(掃除機に連動できる、集塵機能の付いた電動の鋸)を使おうと、
掃除機を、ひっぱり出してきた。
しかし、長いホースが無く、大変使いづらいのだ。
噂には当工務店のAチームが、イイものを使っているらしく、私たちBチームには、
旧型のものがあてがわれているとか…。
「使えるじゃないですか!」Kさんに声をかける。
「無いよりはマシやけどな…」つぶやくKさん。


「『無いよりマシ』か…。せめて、自分も最低そう言われたいな」。
私の言葉を踏み潰すように、またまたO氏が言った。
「そんなん言われるくらいなら、いっそ『無かったほうがマシ』ですよね」。
私はさらにうなだれ、しばらく呆然と立ち尽くした。
家へ無事帰りつけたのが奇跡だ。




☆7月半ばから応援で来ていたF邸も、いよいよ明日で去ることになる。
最後の最後で私は、人のあたたかさにふれ、涙することとなる。