環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)は9日、域内2位の経済力を持つ日本が承認手続きを終えたことで、かろうじて命脈を保った。
政府は他の参加各国にも批准を呼び掛け、離脱を表明したトランプ次期米大統領の翻意に期待をつなぐ。
ただ、米国の不在が長引けば発効に向けた期待感が薄れるのは避けられず、TPP以外の枠組みを目指す機運が高まる可能性がある。
「説得に数年かかるかもしれないが、日本は絶対にTPPを諦めない」。
経済官庁幹部はトランプ氏が来年1月の就任初日に離脱を通知すると表明した後も、翻意を求め続ける構えだ。
TPPは、工業製品の関税を最終的に99.9%撤廃するなど高レベルの貿易自由化に加え、投資や知的財産などのルールも定めた包括的な協定。既に多くの分野で関税を撤廃している日本には、輸出や投資拡大が見込める有利な枠組みだ。
欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)や、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)など、日本が関わる他の通商交渉でも事実上の指標になる。
たとえ発効が絶望的になっても雲散霧消だけは避けたい。
ただ、他の参加国の思惑は異なる。
シンガポールのリー首相は、米国が離脱するなら「アジアの貿易圏構築に中国が関与するのは当然だ」と指摘し、新たな枠組みを検討する構えだ。
そこで注目を浴びるのが、中国などが主導し、米国は参加しないRCEP。
実現すれば日本の輸出企業が払う関税負担が2兆円弱軽減できるとの試算もある。
だが、各国の発展レベルの差を許容した緩やかな経済協力を志向するため、自由化レベルはTPPより落ちる見込み。
アジア太平洋地域で中国の影響力が強まる“副作用”も指摘される。
また、トランプ氏が強硬姿勢を貫けば米国抜きのTPPも現実味を帯びる。
再協議で発効規定を書き換えれば技術的には可能だ。
もっとも、日本単独で14兆円の国内総生産(GDP)拡大を見込む巨大な経済効果は半減する見通しで、「意味がない」(安倍晋三首相)。
日本は当面、大詰めを迎えたEUとのEPA交渉で妥結を急ぎ、自由貿易推進の機運を保ちたい考え。
しかし、TPP合意で巨大自由貿易協定(メガFTA)が一気に広がると期待が高まった1年前と比べ、状況は暗転した。
通商戦略をどう立て直すのか、トランプ氏の出方をうかがいながら手探りの検討が続きそうだ。(田辺裕晶)