「残念ですが修理不能です」愛機GRはドイツの青空を映しながら永遠の別れとなった。少しだけカメラの話になりますが、スケッチのことについての思いも話したいのでお付き合い願います。私のカメラはその世界ではいわゆるクセモノと呼ばれる、いささかややこしい部類のカメラでした。レンズは交換できません。ズームアップもできません。手ぶれ補正もありません。かろうじてオートフォーカスがついていたぐらいです。自慢できるのは小っちゃいので片手でシャッターが切れます。単焦点レンズなのでストロボなしで明るいです。素晴らしくきれいなボケ足です。ただしそのすべては撮影者の腕次第といった、まさに道具そのものでした。
これらのことはスケッチによく似ています。自分の心の眼なので交換できません。広角にするのか望遠にするのか、アングルを決めるのは自分の足しかありません。手ぶれだけはワザとするときがあります。そして何より楽しいのは対象物がどうあれ、自由自在にボケを使い、自分の絵にしてしまうことができるのです。紙に筆記具、まさに道具を使っているなと感じるのです。目の中の印画紙に焼き付けているのでデータが劣化することもなく、かえって時間がたつほどに鮮明さを増してくることさえあるのです。あの時の紅葉の光と影はよかったな、また行ってみようかな。心の印画紙は色褪せしません。