表紙イラストと題字と、絶妙な活字・文字間・行間に誘われて手に取った一冊は、
第21回 太宰治賞受賞作。
それにしても、この年にして未だ太宰作品「走れメロス」オンリー…
川本晶子 筑摩書房 2005年
日々が過ぎるのと同様に、私たち父娘は、母に忘れられてしまった事実に、少しずつ慣れていった。慣れるというより、母の変化の慌ただしさについていけなかったのかもしれない。慣れるふりをして、一つ一諦めていくという作業を、その頃進めていたような気もする…
認知症で「壊れて」ゆく母。
器用で、エリの家庭科の宿題も、刺繍も編み物も、その手から様々なものをつくりだしていた母。
壊れても、その手は何かを作りだそうとするかのように毛糸玉をこねくり回し。。。。
介護系のネタもさほど珍しくはない、どころか食傷気味かもしれないほどの昨今ですが。
母の介護に実家へ戻ったバツイチ四十路イラストレーターの娘エリ、
その娘のうーんとうーんと年下の恋人・敏雄、
敏雄を慕う、というか恋している?!母、
「敏雄君にいっしょに暮してもらおう」と提案する父。
そんな4人の『生活』は、
淡々としていながらユーモラスで、
残酷なほど現実的で、
でありながら夢のようでもあり、
随所随所にホロリの種。
介護体験記が『小説』に昇華するのはどのようにしてなのか、
そのエッセンスがたっぷりと詰まっています。
母との時間に寄り添うように、私は刺繍をした。刺繍は祈ることに似ていた…
おお。
アタシにとっての編み物が、いつしか『祈り』に変わっていると気づいたここ半年ほど。
ここん箇所、ズバリ直球琴線に触れるのでした。
今日も編みます。
new89冊目(全95冊目)