村田喜代子 朝日新聞出版 2009年
なんだかんだで今まで夫婦を続けてきた義雄と私。
そんな夫婦が、およそ睦まじいとは言えないすったもんだの中に終わった東北旅行から戻ってみれば、
夫はいつ破裂するかも知れぬという大きな動脈瘤を内に抱えた『風船』であることが判明した…
…むろん夫が死んでも明日はある。日にちは続く。しかしその明日は、将来、とは呼ばないのだ。将来とは人生の連れ合いが欠けたりするようなことのない、もっと翳りのない、まだ何かいろいろ充実してやることのある、そういう日々のことをいうのだ…
のっけから、
『夫婦』、それも30年も40年も『夫婦』してきた『夫婦』の風景が、これでもかこれでもかと展開され、
それは別に美しくもなんともないものだから、
素直に自分に引き寄せて、すっかり物語に入り込むことになるのでした。
だって、たった3年の我が家でも、それはもうトシがトシなだけに相手の『老病死』、我が身の『老病死』を考えない日はありませんから。
誕生にまつわる「ドンナ・マサヨの悪魔」がコテコテの小説!…てなノリでできあがっていたのに比して、
死や病や老いや夫婦をテーマにした本作は、いつしか限りなくノンフィクションな体験記をたどっているような気分にもなる一冊でした。
new91冊目(全97冊目)