ローラ・リップマン ハヤカワ文庫 2009年(Copyright2008年)
ミステリの魅力と楽しみを伝える画期的全集/現代短編の名手たち⑥
表題作ほか15の短編と、表題作に関連する中編1が描きだすのは、まさにリアルタイムの現代アメリカ。
クロックスが、まんまクロックスと訳され、
クンダリーニヨガが、まんまクンダリーニヨガと訳される。「今」、ですなぁ。
スプラッターな場面でも、どこか、
渇いていて、そして可笑しい。
コーエン兄弟の「ファーゴ」を観たときの、あんな感じといいましょうか。
いくつかの短編は、この著者が長編の主人公として登場させている私立探偵テス・モナハンもの。
それも魅力的だけど、
みずから「売春宿のおかみ」と称する美しきロビイストのエロイーズが登場する表題作、
そしてそれに続く中編「女を怒らせると」の魅力ときたら!
売春婦であり、母であるエロイーズの多面感は、
コチュジャンとかバルサミコが、うまいこと和食の味付けにマッチした時の快感に似ています。
いつものサバ味噌の、今日のこの奥行きは何?みたいな。
あとがきのミステリガイドにより、改めてロアルド・ダールやウールリッチへの読む気をそそられますが、
そこでウールリッチのある作品を評した「…最後の一行で忘れられない後味を残します…」との賛辞、
本短編集では
「女を怒らせると」に捧げます。
渇いた可笑しさが、この最後の一行で、じわっと涙腺をゆるめます。
new53冊目(全59冊目)
それにしても、文庫で1092円。
その価値がなかったとはいわないが。
大出版社以外の文庫の、まー、高いこと高いこと。