武蔵野つれづれ   第3の生活を自由人として

中国での体験記を記して参りましたが2012年の秋に帰国しましたので、これからは武蔵野での生活を徒然なるままに書きます。

第64話 尖閣領土問題をめぐる日中関係、その後

2012-11-02 23:13:04 | 北京

前回に続いて、中国での実感から尖閣諸島問題を取り上げたい。

反日デモを契機に日本人駐在員の生活はガラっと変わった。街中でおおっぴらに日本語を話したり、日本人であることを表に出すことが難しい雰囲気になった。一般の中国人に日本に対する敵意が急速に芽生えたのを実感するようになったからである。なぜ一般人までそうなったか?

中国のTVでは、尖閣諸島国有化以来連日のように「日本が中国の領土を不法に購買した。」という趣旨の番組が滝のように流された。中国では尖閣諸島を日本が実行支配してきたことは知られていない。(政府が知らせていない。)「いきなり日本が領土侵犯を犯した。」というイメージで伝えられている。

政府の意を受けた中国の専門家たちが次々と「尖閣諸島は中国の領土である」と熱っぽく語り、さらに「日本でも中国の主張が正しいという人がいる。」とまで報道していた。(そんな人は日本では多くは無いはずだと思って観ていたら、東北大学の学生活動家などマイナーなグループの言葉であったり、評論家たちの発言の一部を切り取って中国に都合の良いように編集したりしていた。)

領土を奪う日本は敵であり、敵には制裁を加えなければならない。日本車襲撃や日系企業への破壊行動は行き過ぎとしても、日本へ制裁を加えることは全て正義ということになる。日本人がノーベル賞を受賞するほど優秀であるとは認めても、日本が敵対行動を取っているとの認識は変わらない。

尖閣諸島に関する日本側の主張は、1895年に国際法に則って閣議決定したということを主要点とした法的な正当性を根拠にしている。一方、中国の主張はかなり情緒的と言える。すなわち、明の時代から尖閣諸島の存在を意識していたとか、日清戦争で日本は尖閣諸島を中国から盗み取ったとか。

情緒的な主張は海外に対しては説得力がなくても、感情に訴えるので自国民を洗脳するには効果がある。戦前の日本の中国での蛮行に重ね合わせて今回の領土問題を解説すれば、容易に日本への敵意を創生することができる。

 不買運動や日本への経済制裁により日本企業は打撃を受けている。特にブランド名を表に出して走る車の場合は影響が大きい。日本で企業の損失が出ているとの報道は直ちに中国でも紹介され、「中国に刃向う者はかくの如し」と恰好の政府の宣伝に使われている。

しかし日本への制裁は中国の首をも絞める。自然院の属する建機業界でも今年は需要が半減しており、過剰在庫が積みあがっている。つい今春までは、地方政府が業績を上げるために競って工場を次々に誘致してきた。工場新設ブームと需要急減が同時に起こったのだから大変である。今回始めて本格的な不況に直面することになったが、自然院の目には中国の各企業が方向転換の舵を切る速度は実に鈍いと映る。これまで、たいした企業努力をせずに成長してきた国営企業は特に鈍い。

中国の経済発展はめざましいが、大方は外資による発展に依る所が大きく、中国経済の実力が成長したかと言えば疑問な点が多い。7-9月のGDP成長率は対前年7.4%増と従来にない低さであったが、実態は政府統計よりもずっと悪いのではないかという感じはする。(元来、中国の政府統計は改竄されるのは珍しくない。)ちなみに電力使用量はわずか2%増である。こちらの方が実態を反映しているように思える。今回の日中関係悪化による影響でさらに成長が止まれば、人民の不満は一気に爆発するかも知れない。

会社の同僚などと話をしてみると、経済格差のほか汚職に対する不満も相当なところまで来ているように感じられる。一党独裁による政治体制の限界がそろそろ近づいているようにも思われる。