2020年2月、サウジアラビアに旅行した。実は筆者は40年前に5年間この地に駐在した
ことがある。当時はオイルショック直後で、サウジ市場は急拡大し、筆者の勤務した
機械メーカも全社売上の1割近くがサウジアラビア一国で占められるまでになった頃で
ある。
その後、この国にもう一度行きたかったが、サウジは観光ビザを発行しない稀有な国
なので再訪は叶わないでいた。観光ビザを発行しないのは、潤沢な石油収入があるので
観光収入を当てにする必要は無いし、変に観光客が増えてイスラムの風紀が乱れても
困るという、聖地メッカ・メディナの守護者を自任するこの国特有の事情のためで
あった。
しかし近年、現皇太子が実権を握ってからは、開明的な政策が打ち出されており、
観光ビザ発給もその一環である。ビザは数年前に一度発給開始となったが、すぐに
中止された。昨秋再開されたので、今度も気が変わらぬうちにと団体ツアーに参加
した次第である。
確かに変革が表れている。例えば、女性の権限拡張も顕著である。以前は、サウジ
女性は働く事を禁じられており、女性しかできない仕事(女子校の女教師、スチュ
ワーデスなど)には外国人女性を雇っていた。それが今回は、現地ガイドにもサウジ
女性がおり、にこやかに応対してくれたのには驚いた。
また、かつてのサウジ人は、企業のオーナとして君臨し(オーナはサウジ人しかなれ
ない)、外国人に実務を任せて自分は金勘定だけに徹するというイメージが強かったが、
今回は仕事に精を出しているサウジ人が多く、驚いた。教育が行き届いて実務をこな
せる普通の国民になってきたという当たり前の事かも知れないが、隔世の感である。
サウジアラビアの観光の魅力は次の2点だと思う。
1、エジプト・メソポタミアに繫がる古代文明を観察する。
交易で栄えた古代人の生活。(今回4か所の世界遺産を訪問)
2、砂漠という過酷な環境下で生き抜く悠久の自然観に触れる。
ナツメヤシ、子羊肉、ラクダ乳の3つがあれば、人間の栄養は完璧という。
砂漠でも生き抜けるという遊牧民のプライドが、特有のアラブ魂を作った。
ドバイ
直行便がないので、隣国のドバイを経由する。乗継ぎまで半日あるので、街周辺を観光する。
(左)世界一高いビル・ブルジュハリファ、高さ828m
(右)リゾートホテル・アトランティス
一言でいうと「砂上の楼閣」。金があればこんな事ができるという見本のような国である。
超豪華だが、ひと気はほとんどなく「生活の匂いのしない」街である。それでも、建設
ラッシュは続く。買えば値上がりするので、買い手は後を絶たないそうである。
自転車操業しなければ生きてゆけない国もあれば、こんな国もある。同じ地球上で。
リヤド・ディルイーヤ (世界遺産)
1774年第一次サウード王国の建国から、1818年オスマン帝国に降伏するまでの首都。
宗教学者ワハーブを迎え、現在の国教ワハーブ派(スンニ派)がここで形成される。
ワジ(枯れ川)を挟む谷に、日干し煉瓦を重ねて建築。
ワジ沿いにはナツメヤシが生い茂る
先頭を歩くのは35歳の好青年サウジ人サルマン君
ハイル・ジュッバの丘 (世界遺産)
かつては緑豊かで、湖があり、ネフド砂漠の人や動物の水源となっていた。一万年前
に描かれた岩絵や碑文があり、当時の生活がうかがえる。
岩絵を求めて坂道を行く
右下の絵では、王様に家臣が跪いている。人間の動作が描かれている珍しい絵。
その他の岩絵では、やはりラクダが多い。
アラブの食事
シャイ(紅茶)
(左)ずらりと並んだ料理 (右)ナツメヤシてんこ盛り(真ん中はラクダ乳のバター)
(左)歓迎の場で定番のガホア(アラビアコーヒー)(右)コーヒーの焙煎・ミリング実演
ラクダ駆動で井戸水の汲み上げ実演 (ラクダに生まれなくて良かった)
ウラ・ダダン
BC6~5世紀、紅海・キャラバン交易のオアシス都市として栄えた。岩絵・碑文が多い。
サハリリゾート・テント・ホテルに宿泊
ヒジャーズ鉄道駅
旧ヘジャーズ鉄道駅。アラビアのローレンスが破壊しまくった駅舎を復元。
マダインサーレ (世界遺産)
今回のハイライトの考古遺跡。BC1世紀からAD1世紀、ナバティア人が山岳信仰の
対象として建造した。ペトラの次に栄えた都市。
鷲の神ドゥシャラと休憩所と言われる巨大な洞穴
一つの岩に何人かの墓を共同で掘った所が多いが、巨岩一つを丸ごと一つの墓に使った
この有力者の墓は圧巻。上部から掘り進んでいったが、予算が尽きたのか下部の細工
には手抜きが見られる。
エレファント・ロック 文字通り象形、右は警備の騎兵隊。
トヨタ4輪駆動車6台に分乗して砂漠を跋渉する。砂塵を巻き上げての坂道疾走はかなり
迫力ある。
二人の踊り子岩
ウラ旧市街
旧ウラ市街 日干し煉瓦の住居跡
メディナ
聖地メディナ Start of Haram Area の標識。ここからは、我々異教徒は立ち入り禁止。
ジェッダ
聖地メッカ・メディナへの紅海の入り口として栄えたサウジアラビア最大の商都。
筆者も駐在していた。昔住んでいたアパートへ立ち寄ったら、当時の門番の息子
さんが門番をしていたので驚いた。
世界一高い噴水。海面260m。ファハッド元国王の寄贈。ジェッダの夜のシンボル。
旧市街バラド地域への入り口メディナ門
伝統的なアラブ家屋。珊瑚岩製ブロックを積み重ねて壁を作り、木製の装飾窓、
ベランダで風通しが良いように工夫されている。そして女性は外からは見られないが、
自分は内から見ることはできる工夫も。世界遺産
典型的なアラブ室内、絨毯を敷き詰め、社交の定番シャイ道具を置く
メッカ
高速道路から聖地メッカへの入り口の標識。非モスレムは直進せず迂回する
よう警告している。
以上です。