武蔵野つれづれ   第3の生活を自由人として

中国での体験記を記して参りましたが2012年の秋に帰国しましたので、これからは武蔵野での生活を徒然なるままに書きます。

第六段 「中国・光と影」市民講演会

2014-06-08 14:41:36 | その他の中国都市

先日、市教育委員会主催からの依頼で「変貌する中国・光と影」と題して市民対象の講演会を行いました。中国というテーマは関心が高いようで、入場者数176名となりました。会場の定員が180名で、関係者からは消防法の関係で定員以上の入場は厳禁と言われていたので、少しヒヤヒヤしました。

  中国企業において中国人の目線で経営に携わった体験から、中国人の生活観、社会観、労働観、世代観などを中心に現代中国が抱える問題について所見を述べました。講演時間は2時間。大学の講義とは異なり、関心の高い市民が自主的に参加されている講演なので、それなりの緊張感を味わう事ができたことは良い経験だったとおもいます。

配布したレジメを下記します。

 変貌する中国・光と影 レジメ

 日々のニュースの中に中国の話題が出ない日が無いほど、今の日本では中国の動向が注目の的になっている。しかしそのニュースのほとんどは政治または経済に関する内容であり、素顔の中国人の国民性、生活、考え方に基本をおいたアプローチは少ない。

講師は、中国において中国企業に採用され中国人の目線で経営を考える業務に携わった経験があり、今回は中国人の生活観、社会観、労働観、世代観などを中心に現代中国が抱える問題について述べてみたい。

 第1章    中国の国土と自然

中国人の国民性を知るためにはスケールの並外れた大きさを認識する必要があるので、まずは雄大な自然を紹介する。

 第2章    中国の文化・文明

四大文明の中でも5000年に亘って脈々と進化を遂げて来たのは中国文明だけである。その魅力を再認識する。

 第3章    街中生活

大都市は超モダンな高層ビルと貧民街が同居する二重構造の社会となっている。日本の高度成長期に共通する部分もあるが、異なる部分も多いことに注目したい。

路上商売、白タク、模倣品など健全とは言えないものもあるが、庶民がたくましく生活する実態を紹介する。中国人の基本的な国民性は、良きにつけ悪しきにつけ「超個人主義」である。

 第4章    会社生活の実例

建設機械メーカの日本代表のコマツ、中国代表の三一集団をとりあげ、両社に在籍した経験を基に、特徴を比較する。

経営戦略、組織と意思疎通(トップダウンとボトムアップ)、人事管理(人材育成、モチベーション、考課)、開発力、製品品質、製造能力、販売力、環境対応性、国際化などを考察し、将来の日中競争力を予測したい。

 「官進民退」と言われるように、中国では電力・石油・通信関連など収益性の高い産業は国営企業が独占し、民間と競合する分野においても国営企業は陰に陽に政府の手厚い保護を受けている。民間企業は不利な条件で生き残るためには合理化で対抗するしかないが、経営姿勢が教条的であり現場力が不足しており人材を含めた経営資源が有効に活用されているとは言い難い。

この中国独特の企業統治の特色は、国家統治の特色との共通するものがあり、興味深い。中国企業が国際企業として成長してゆくには、まだ相当の期間を要すると思われる。

 第5章    歴史的考察

遣隋使・遣唐使の時代から日本は中国から多くの文化を学んで来た。このため日本は中国から一方的に文化を輸入して来たように思われているが、明治初期の日本において欧州文化を吸収するために作られた多くの和製漢語が中国に逆輸入され中国の近代化に貢献したことはあまり知られていない。和製漢語は多くの中国人留学生によって中国に持ち込まれ、現在の中国の新聞に登場する単語の7割はこれら和製漢語と言われる。

また、中国近代化に貢献した孫文(革命の父)や魯迅(中国近代文学の父)は日本で学び、多くの日本人のサポートによって偉業を達成した。現在の日中関係は最悪期にあるが、嘗てはこのような友好関係があったという事実を再認識する時期だと思う。

戦後の中国は共産党の一党独裁制を敷いているが、その経緯を辿ってみると、整風運動、百家争鳴、大躍進運動、文化大革命、下放、天安門事件など壮絶なる党内抗争の連続であり、国民不在の歴史であると言える。

 第6章    中国発展の課題

中国がGDPで米国を抜いて世界一になる日が近づいているという見方があるが、最近は「中所得国の罠の初期段階」に入ってきており、米国を抜くのは難しいという説も出てきている。これまでの中国経済発展の原動力は、外資導入と官製「土地転がし」であったが、その手法は行き詰まりつつあり、リーマンショック時に採った経済刺激策の後遺症に悩んでいる。

さらに、国内問題が噴出しており、その元凶は、「選挙の洗礼を受けない共産党の独裁制を正当化し続ける」という論理に無理が生じているということにある。政治腐敗、人権問題、所得格差、就職難、少子高齢化、環境、社会保証など構造的な問題が山積している。

これらの問題を背景に表面化した社会現象として、08憲章起草、新公民運動、薄熙来事件、南方週末事件、新快報事件、烏坎村民主化事件、ウイグル民弾圧事件などがある。

 また世相を表す言葉として、「我父是李剛」「裸官」「官進民退」「先富論⇒未富先老」「蟻族」「影子銀行」「政左経右」などが象徴的である。

第7章    日本と中国その将来

 将来を予測するのは難しいが、ここでは国民性と潜在力の面から考察してみたい。個人プレイが優先する分野では中国が、協調性が優先する分野では日本が有利になってゆくものと思われる。

 以上