上海蟹の旬は11月と12月である。今年の年末はよく食べた。レストランで食べると、一匹150-180元(2000円弱)、スーパーで買ってくると50-60元(約700円)。週末に雄雌一匹ずつ買ってきて茹でる。
蟹は紐でくくって売っている。ある金曜日の夜、きつく縛られたままだと可哀そうだと思って紐を少し緩めておいて寝た。次の日に食おうと思ったら蟹がいない。あわてて探したら部屋の隅っこにいた。「こいつふざけやがって」と甲羅を箸でコンコン叩いてやったら、怒ったように箸をハサミでつかみ掛かってきた。
そんなことをして遊んでいたら、だんだん情が移ってきた。「こんな遊び相手(と言っても蟹は本能的に反応しているだけだろうが)を食っていいのか? 自分はたまたま人間に生まれてきて、彼は蟹に生まれついてきた。そんな偶然の関係に甘えて、俺は食う権利があるのだろうか?」
しかし、こうも思う。「相手は食物である。食物は人間に食べられるために存在するのである。」 そうだ、俺が食べなくても、ほかの誰かが食べるんだからいいんじゃないか。
そう思い直して、熱湯の中へほおり込んだ。と思ったら、奴さん、鍋のへりに足を引っ掛けて外へ飛び出した。勢い余って床にぶつかって足を2本折った。「観念しろ」ともう一度鍋に入れたら、瞬時に動かなくなった。一命が失われた。美味を求める人間の欲望のために。
「南無妙法蓮華経」「南無阿弥陀仏」お題目と念仏を唱えて、食べた。
単身赴任で蟹とたわむれる自然院でした。