惰天使ロック

原理的にはまったく自在な素人哲学

自殺統計のはなし(2)

2011年01月18日 | 机上の空社会学
今回新たなデータを入手したので、以前の「はなし」に追補してみることにする。

まずは、前回の「自殺統計のはなし」で紹介した失業者数と自殺者数の月次推移グラフの追加分。

(画像とリンクは「社会実情データ図録」様)
 ※加工済

2009年年初以来の失業者数の急増が、その間の自殺者数との間にはっきりとした関係を持っていないことが、以前よりもはっきりと読みとれる。ただし2009年末から2010年初にかけて、両者は一致して一時的に低下している。はっきりしたことは判らないが、これはやはり政権交代の影響であったのかもしれない。

さて、今回新たに入手したのは年齢別自殺統計のより詳しいデータである。入手元は以下のblogからである。

  資料屋のブログ - 暇だから年齢別の自殺者数の長期推移をまとめてみた

自分のことを考えてみてもそうだが、人間はヒマを感じると哲学を始めたり自殺統計を調べてみたくなったりするものらしい(笑)。とまれ、有難いことに上記blogではExcelワークシートの形でデータを提供してくれている。以下のグラフは、そのデータをもとにわたしが作成したExcelのグラフである。なお、以下のグラフで「自殺率」とは「10万人あたり自殺者数」のことである。


年齢別自殺統計1 - 1940-2009年の年齢別自殺率

敗戦以後、誰が見てもはっきりわかる大きな山が3つあることがわかる。ひとつは大雑把に1950~1960年、次に1983~1988年、最後に1998年以来のもので、これは現在も絶賛継続中の山である。それどころか、峠を越したと言えるかどうかもわからない。

もうひとつ、全体的に顕著な傾向として、高齢者の自殺率はおおよそ一貫して減少していること、またそれによって未成年者を除く各世代の自殺率が次第に同程度の値に収斂しつつあるということである。このことは少子高齢化による人口構成の変化とも関係があるかもしれない。また、生きることに対する意識、日常生活の意識が年齢に依存しなくなっていることの現れであるかもしれない。

次にグラフの横軸を拡大して、この15年の変化だけを見てみる。

年齢別自殺統計2 - 1995-2009年の年齢別自殺率

収斂する傾向がはっきり出ている。月別の自殺者数の推移を見る限りでは、1997年に急増して以来、それほど大きな変化は見られないのだが、世代別に分けてみると、時期によってある世代が増加し、一方で別の世代が減少するといった形で相殺されていることがわかる。現役世代は少しずつ増加していて、その分が高齢者世代の減少で相殺されている格好である。

もうひとつ、「謎の1950年代」にスポットをあててみる。

年齢別自殺統計3 - 1945-1965年の年齢別自殺率

・・・これだとわかりにくいので、若年世代とそれ以上の世代でグラフを別にしてみる。


年齢別自殺統計4 - 1945-1965年の年齢別自殺率(15~39歳)


年齢別自殺統計5 - 1945-1965年の年齢別自殺率(40歳以上)

はっきりとした違いがあることがわかる。ただし前回の「はなし」では、中年以降の世代の自殺率は特需景気以来低下したと書いたが、今回のデータを見ると、確かに朝鮮戦争開始以後に中高年世代の自殺率はいったん劇的に低下するが、その後再び微増・漸増に転じ、1958年をピークとして、以後全世代の自殺率が低下に向かっている。

つまりこの間の自殺率推移にはふたつの異なる要因が存在していると思われる。ひとつは1958年をピークとする要因で、世代によって値の大きな差はあるが、1958年をピークとすることでは各世代が一致する要因である。もうひとつは若年世代の自殺率のみを急増させた要因で、これは1955年頃をピークにしている。その影響が消えないうちに1958年ピークの要因が重なって、全体に大きなひとつの山であるように見える、が、おそらくは質の異なるふたつの要因が関与していると思う。これ以上のことは自殺統計以外の資料などと照らし合わせてみなければ意味のあることは言えないだろう。
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