瓢簞舟の「ちょっと頭に浮かぶ」

こちらでは小説をhttps://kakuyomu.jp/works/16816700427846884378

第質話

2015-07-01 15:18:11 | 奇妙な味
地下鉄を降り、地上に出ると大雨だった。傘は持っていない。待ち合わせの店まで鞄を雨から守るように抱きかかえて走る。鞄が不意に重くなったように感じられた。が、体そのものが雨を吸って重くもなっていたからさほど気にもとめなかった。

店に入って鞄の中を開けると知らない本を見つけた。いつの間に紛れ込んだのか。そもそも誰のだ。
ページをめくる。見覚えのある字で書き込みがしてある。

「待たせたか」と声をかけられ、持っていた本を手渡した。「お前のだろう」。
相手の顔はページをめくりながらなんとも形容しがたい表情に変わっていった。
「雨に濡らしてしまって申し訳ないが」
「いや、そんなことより、またこの本が読めることのほうがありがたい」

それは学生のとき手放してしまった本だという。何故それが今、この鞄の中から出てきたのかさっぱりわからない。
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