じいたんばあたん観察記

祖父母の介護を引き受けて気がつけば四年近くになる、30代女性の随筆。
「病も老いも介護も、幸福と両立する」

わたしも、少しだけ進化する。

2006-07-27 08:26:47 | じいたんばあたん
そうやって、ばあたんのところで半日過ごした火曜日。

帰りが遅くなったので
帰る途中、乗り換えのたびにじいに電話を入れた。

最後の乗換えをする前、少し時間が取れたので、
思い切って、主治医の意見
―旅行はやめておいてください―を、なるべくさらっと言ってみた。

じいたんは、電話口でひどくがっかりしていた。

「おじいさんは、不満だが、仕方がないんだね。でも不満だ」

それを延々繰り返すじいたんに、わたしは言った。

「私の力が及ばず、残念な結果しかお知らせできなくて、…心から申し訳なく、お詫びいたします」

じいたんは言った。

「お前さんの失敗だった、ということだろう?」

残念さの余り、じいたんは多分、だれかに当たり散らしたいのだ。


「ええ、おっしゃるとおりです。
 わたくしの力不足で、悲しい思いをさせてしまって申し訳ございません。」

とわたしが答えると、
じいたんは言った。

「それでいいんだよ、お前さん。お前さんがそういう風に言って詫びる態度をとって腰を低くしていれば、おじいさんも多少なりとも溜飲が下がるのさ」


一瞬、頭に血が上りかけたけれど
(旅行に行けないといわれてがっかりしているのは
 じいたんだけではないのだ)、

先週の事件のこともあったので、どうにか踏みとどまって、
何事もなかったかのように、穏やかに電話をいったん切る。
こういうときは、インターバルを取るに限る。

そして、地下鉄で移動した後に
もう一度、じい宅へ電話をした。

不機嫌そうに出たじいたんに、
フラットな気持ちで、優しく話しかけてみた。
感情の激しさを表現するのではなくて、言いたい事が伝わるように
それだけを念じながら。


「じいたん、一人でしょげてやしないかしらと思うとね
 悲しくなっちゃってつい、声をききたくて電話しちゃったの。
 
 あのね。今回はダメだけど、秋は大丈夫かもしれないし
 わたしも一所懸命、旅行以外でも色々、楽しいことを
 いっぱい考えるからさ、じいたん、元気出してね」


じいたんの声がぱぁっと明るくなった。

「おじいさんも、お前さんの考えに、大賛成だ!
 お前さんのそういう、前向きなところがおじいさん、大好きだ。

 おじいさんにとって一番大事な人は、おばあさんなんだよ。
 そしてその次が息子と娘。
 その次にお前さんが大事なんだよ。
 よろしく頼むよ。」


もう一度電話してよかった、と思った。

前回にくらべて、自分の気持ちが無駄に傷つかないように
少しは、わたしも頑張れたかな?

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