じいたんばあたん観察記

祖父母の介護を引き受けて気がつけば四年近くになる、30代女性の随筆。
「病も老いも介護も、幸福と両立する」

風荒れ狂う中での祖父の言葉。

2005-12-22 21:45:54 | じいたんばあたん
この日の横浜は、夜になっても、とにかく風がすさまじい。

まるで冬の日本海と対峙しているみたいだ。
「絶対勝ち目ないじゃん」と思う、そんな突風。


祖父母宅へ夜六時過ぎに、行く約束をしていたのだが

電話での

「今夜は泊まっていきたまえ、お前さん」

の一言がプレッシャーになってしまって、
身体が言うことをきかない。


じいたんのことは、大好きだ。本当に、大好きなのだ。


だけど
祖父母といるとき、
わたしは自分のことが すべて 疎かになってしまう。

彼らを目にした途端、
自動的に「元気スイッチ」が入ってしまうのだ。


欠かさず飲まねばならない薬も、飲み忘れてしまう。
自分の食事も忘れる…喉を通らない。
下手したら、お手洗いの感覚も鈍くなる。

そして、自宅へ帰ったときには調子を崩す。

一歩も動けない。



そこへ風。荒れ狂う風。
外へ出たら、何かが飛んでくる。

行ったら、帰れない。


ああ、じいたんとの約束を破ってしまう。
でも無理、あたしが倒れたらおしまい。

…覚悟を決めて
今日は無理、と言うつもりで、電話を入れた。


そしたら、じいたんは わたしが言い出す前に

「お前さん、無事で 何よりだったよ。
 おじいさん、お前さんに、無茶を頼んだと後悔していたんだ。
 こんな風の中を、出てきちゃあ、いけないよ。
 若いお前さんは分からないだろうが、風というのは怖いものだよ。
 家で、じっとしていなさい。」

と言ってくれた。


電話を切ってから、力が抜けた。


じいたんが、わたしに寄せてくれている信頼。

それを、「事実」として
あたしは、もっと自信を持って、信じていいんだ。

じいたん、ごめんな。

ありがとう。



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