第113話 通りすがりの恋

2006年02月22日 00時36分43秒 | Weblog

帰り、道を歩いていると、声がきこえてきた。

男 泣くなよ
女 泣いてるフリ!
男 …フリかぁ~

声の居場所に気づいた瞬間、自転車に二人乗りした彼らは私の横を通り過ぎた。
男性の顔は見えない。女性も背を向ける形に横向きに座っている為、顔はわからなかった。

女、鼻をすする。男、何も話さずゆっくりと自転車をこぐ。

何、今の? フリ!…フリかぁ~
って、いい! 通りすがりのドラマティックにドキドキした。

そういえば…
バレンタインデーの夜、信号待ちの途中、何気なく見た視線の先に
チョコを渡す瞬間!
自転車でやってきた男の子に、女の子は笑顔でチョコを差し出す。学生っぽい。
車中の私にまで、女性の緊張感が伝わってきた。
男子、どうする? 答えやいかに?!のところで、信号が変わる。後続車あり…
受け取ったのか、受け取らなかったのか、わからない。
思い出すと、あの時止まっていたのは車だけではなく、
まわりの空気全体が静止し、彼女と共に待っていたように思う。

通りすがりの断片に、気持ちが揺すぶられる。
町を歩いていると、無意識に振り向いてしまうことがある。
その女性の後ろ姿を追う。
すれ違ったその人に、訳もなく惹かれた瞬間。

自転車をこいでいた彼の顔は見えなかったが、きっとほほえんでいたと、
彼女が泣いていた理由は知るよしもないが、悲しみ一色ばかりではなかったと、
思う。

さあ、外に通りすがりのドラマチックを探しに行こう。

※通りすがりの、通りすがりの、と書いているうちに、通りすがりの?
学生時代習ったボードレールの詩を思い出して、通りすがりの検索。
詩の題名は、通りすがりの女に、だった。読んでみると、大学時代より今の方が沁みる。


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