第90話 嘆く日本人

2005年06月05日 00時01分06秒 | Weblog

嘆く日本人、あなたのまわりにもいないだろうか?
我先に、嘆く。
嘆くための準備は怠らない。要領よく整える。何となく芝居がかっているとしても
受け手は、同情する、褒める、認める、労うなどする。
嘆いた方は自己主張できた分晴れやかに、同調した者は浴びた分だけ重くのしかかる。
ふと顔をあげると、あれ?…音頭をとっている人が一番汗をかいていないことがある。
私が見てきた限り、頑張っている人ほど、口数は少なかった。
知ると何も言えなくなるのだろうし、言わなくてもわかるようだ。

お昼ご飯を一人でとっていると、相席になった。
ほほえみかけたのがきっかけとなり私たちは言葉を交わし始めた。
50代くらいかな?その紳士は広告業界の方。
「この国は今、元気がない。どうもね、30代後半~40代に元気がない。
バブルの頃の私たちを見てたからだろうね~くさってしまって…いかんね…
私たちも私たちで苦労した時代があったんだがね…彼らが元気を出してくれるのを期待してるんだが…」
私は頷いた。時代を嘆いていても始まらない。
雇用リズムの転調が生んだ君臨を思いながら、もう一度、頷いた。
上から下を見ると得しているように見えるのかもしれない。得を隠して、なぜ嘆く?
下から上を見ても得しているように見えるものだ。知らずして、なぜ羨む?

「いい広告をつくる為にはね、人と人との関係を知ることですよ」
「時代をよむとか勝手に思っていました。
私、演劇をしているんですけれど、舞台も人と人との関係をみせるものと習いました」
時代ではなく、結局、最後はその人自身なのだ。食卓講義を拝聴できた幸運に、心より感謝。

人にはいくつもの立場がある。
同じ職場の人間として、同じ課として、同期として、それぞれに。
同じ場所に立つ人の辛さはアピールせずともちゃんと横並びに伝わっているものだ。
人と関係したらした分だけ相手を感じることができる。

さびしさを経験して、徳したことがある。
たとえ問題解決にならなくてもいい「大丈夫?」その一言が相手に与えるあたたかさを知っている。
たとえ投げたその言葉が拒絶されたとしても、その拒絶が本心ではないことを知っている。
あまりにもさみしかったからうまく受け取れなかっただけ。
そうしたら次にきっとそんな自分を責め始めるだろうから、私は何も言わずただ隣に座っていたい。
知ったからわかる。私が欲しかったことを誰かにしてあげたい。
嘆くより、ずっといい。
同じ場所に立って一緒に見る景色は一人でみるより、ずっといいと思うから。 つづく

※30代後半~40代全員が元気がないという話ではありません。
 ひとつの世代論としてお受け取り下さい。


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